21世紀の現代においてはそれこそ様々な分野の製品に対して、汎用性や拡張性を広げる取り組みが盛んになされており、それを達成する為の手段のひとつとしてモジュラーと呼ばれる存在が生まれている。
モジュラーとは元々は工業的な製品等を制作するに際して、規格が統一されたパーツ類を組み上げて完成させる手法を指し、且つそこで完成させた製品そのものを意味する言葉としても用いられている。
このようにモジュラーとは概念である為、言葉で説明するのはもどかしい側面もあるが、具体例としてPCのようにモニターやCPU、記憶装置としてのハードディスクや最近であればSSDを組み合せて造るものと考えて良い。
PCおいてはこれらの個々の部品を自由に選択し組み込む事で、使用やスペックの自由度を向上させられるが、軍事上の装備についてもこうしたモジュラーを用いた手法が一般的になってきている。
そこで今回は歩兵の個人装備にこうしたモジュラーの概念を反映させた、アメリカで開発されたMOLLE(モール)システムについてその概要を追っていきたいと思う。
MOLLE(モール)システムとは?
アメリカで開発された「モジュラー・ライト・ロード・キャリング・エクイップメント」が略称「MOLLE(モール)」オールド・ミリタリーファンならばアメリカ軍の歩兵装備の基本形と言えば、腰に占めるP-ベルトとそこにあるホールにフックを通して使用するサンスペンダーを思い浮かべる方も多いのではないだろうか。
このPーベルトとサスペンダーの組み合わせだけでも、P-ベルトに吊るした拳銃や予備の弾薬等の重量物の負荷が腰と肩に分散され、セパレートでそれらを使用した時より遥かに体の自由度は確保される。
こうしたP-ベルトとサスペンダーを中心とした個人装備は1956年から採用されていたもので、LCE(ランド・キャリング・エクイップメント)が正式名称であり、アメリカ軍は更にこれを進化させる。
その結果、1973年にALICE(オール・パーパス・ライト・ウェイト・インディビジュアル・キャリング・エクイップメント)が生まれ、より装備の取り付け位置の調整を容易にする仕組みが導入された。
具体的にはLCEではP-ベルト等のホールにフックを通す形式だったものが、ALICEではベルトのある個所なら任意に取り付けが可能なるリップ形式に改められ、格段にカスタマイズの幅が広がったと言える。
同時にLCEでは金属製だったベルトのバックル部もALICEではプラスチック製となり、軽量化と合わせて片手でも操作が可能でしかもクイックな形式が採用され、軍のみならず多くの法執行機関でも標準となった。
こうして生まれたALICEを更に進化させたものがモジュラー・ライト・ロード・キャリング・エクイップメント・略称MOLLE(モール)であり、1997年以降にアメリカ陸軍に導入され、NATO加盟国を始め世界に広まってきている。
「MOLLE(モール)」の認知率の向上とその特徴
MOLLE(モール)をアメリカ陸軍が採用してから4年後の2001年9月11日、アメリカではワシントンやニューヨークを標的とした同時多発テロが発生、これを契機として中東へのアメリカ軍の投入が本格化する。
それによってMOLLE(モール)は最前線の戦場で使用されるが、その過酷な現場では採用直後には特に過不足ないように見えたものの、プラスチック製のフレームの強度の不足が顕在化し、対策を施す事となった。
MOLLE(モール)は、開発時には凡そ半年間にも及ぶテストで50kg以上の総重量を課した状態での使用も経ていたが、こうした過程を踏んでも、実戦の過酷な環境で不具合が生じた事は興味深い。
このMOLLE(モール)は、各種のサイズ及び用途に対応したポーチ類やその他の装備品をモジュール化、主要なバックパックやベスト部分にそれらを自由に取り付ける事が可能な構造となっている。
この構造によってMOLLE(モール)は、使用する兵士個人の任務特性に対応し、飲食物を多く携帯する形や逆に弾薬を増やす等々、状況によってた高い拡張性を発揮するように設計されている。
またそれまでのALICEでは2段階のサイズしかなかった事に比して、MOLLE(モール)では肩及び腰のベルト部分の体格・体形に合わせた調節が容易であり、ジェンダーフリー対応にも寄与している。
「MOLLE(モール)」の根幹を成すPALS
MOLLE(モール)の最大の特徴がポーチ類やその他の装備品をモジュール化しており、それらを主要なバックパックやベスト部分に自由に取り付けが可能な事は前述したが、これを可能にしているのがPALSである。
PALSとは「ポーチ・アタッチメント・ラダー・システム」の頭文字であり、PALSウェビングと呼称されている、高強度を誇るナイロン製の帯によって、バックパックやベスト部分等に各種のMOLLE(モール)やその他の装備品を取り付ける。
PALSウェビングは幅が2.54cm(1インチ)の帯であり、これが横方向に3.81cm(1.5インチ)間隔、上下にも2.54cm(インチ)毎に縫い付けられており、これに対応した各種の装備品を任意且つ自由に使用出来る。
このPALSウェビングに対応した装備品類には裏面にスティク上のパーツがついており、PALSウェビングの帯にそれを通す事で固定する仕組みで、PALSとMOLLE(モール)はほとんど同義の意味で用語としても使われている。
「MOLLE(モール)」を構成する4つの主要要素
MOLLE(モール)は兵士が着用する形のタクティカル・アサルト・パネル、背負うバック・パック、それに内蔵された給水用のハイドレーションと各種のポーチ類の、大きくは4つの要素をPALSウェビングで組み合わせるものだと言える。
タクティカル・アサルト・パネルは、近年お馴染みの歩兵装備となったボディ・アーマーと併用される事が一般的だが、それに限らず単独でも着用が可能であり、サバイバル・ゲーム等でもメジャーな存在だろう。
バック・パックは軍用の標準としては、41~60リットルの容量を持つラージ・ミディアム・サイズが基本であり、こちらも軍用品の放出品でも多数が販売されて流通しており種類も多岐に及ぶ。
MOLLE(モール)用のハイドレーションは主として1.1リットルの容量を持ち、専用のチューブを介して水分補給が可能だが、こうした機能は軍に留まらず登山用品でも必須の装備となっている。
軍隊でも加速するモジュ―ル化と言う概念
これまで述べてきたように「MOLLE(モール)」やそれを実現するPALS(ポーチ・アタッチメント・ラダー・システム)は、今や歩兵の個人装備を支える基本のシステムとして世界中で普及しつつある。
そうして「MOLLE(モール)」が広く受け入れらた背景には、モジュール化と言う概念の利便性、その拡張性の高さが最大の決め手となったと思えるが、今や軍事においてもそうしたコンセプトは拡大し続けている。
歩兵の主兵装であるアサルト・ライフルを始め、サイド・アームであるハンドガンに至るまで、モジュラー化された装備品がシェアを伸ばしつつあり、その傾向は強まりこそすれ、減少する事はないだろう。
モジュラー化とは少し異なるが、例えばF-35ライトニングⅡのような戦闘機もベースとなる機体を元に複数のバリエーションを持つなど、工業製品の生産性の向上には欠かせない考え方だと言って良いだろう。
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