夫が生まれ育った、ある小さな島に移住して1年になります。
私は何度か引っ越しをして、新たな町には必ず曰く付きの場所がある。教えられないうちから、そんな場所はすぐにわかります。
島への引っ越し
ここはあっけらかんとした、なんの暗さも感じない島。
港に降りたった瞬間に、私の中に詰め込まれていた怪異のすべてがストンと落ちたような感覚がありました。
島は、かつて賑やかな漁業の町でしたが、潮目が変わり今は漁に出る人も少なくなったと言います。
今では人口も少なく、昼も夜も人も通らない場所ばかり。夜は真っ暗闇ですが、ところどこに街灯はあり、突然街灯の下に人が現れたりしますが、まったく恐怖は感じません。
それが不思議で、事件や事故など調べたくなりましたが何も無いようです。
ようやく、暗い野原を走り、深夜に星を眺めたりしています。
島での生活
お盆に墓参りに行きました。夫の父も母も祖父も曽祖父も、皆おなじ墓地で眠っています。
墓地もあっけらかんとして、暗さは微塵も感じません。
その後から、家の窓の外を誰かが通るようになりました。
いや、まてよ、家の横には海に続く小さい川が流れて、人が歩けるスペースはありません。
外に出て後を追うつもりが、前にも後ろにも誰もいません。人の気配もないのです。
翌日は玄関のチャイムが鳴り、出てみても誰もいないという事が3回ほどありました。夕方のチャイムは寝室にいる時に、夫と同時に返事をしながら玄関に急ぎましたが、やはり、外にも誰もいないのです。
お墓参りにいってくる
「俺、墓参りに行ってくる」
普段、何も感じないし、見えない夫が真剣な顔をしています。
「珍しいね、何か感じるの?」
「うん、よくわからないけど、母方の墓参りをしてないから、気になって」
夫が花と線香を持って出かけた後、すぐに玄関が開く音がしたので、夫が忘れ物をして戻って来たのだと思いましたが、声を掛けても返事がありません。
アレだな!・・・私は知らん顔を決め込みました。
夕方暗くなる前に夫が帰って来ました。
お墓は荒れ放題で、綺麗に掃除して花を供え、水もあげて来たと言います。
やはりそうか
「あれから、なにか問題あった?」
家の中はなかなか賑やかだったと告げたら、「やはりそうか」となにか、知ったような顔つきです。
「いやね、頭に母方の先祖が浮かんだから」
怪異はあの日でパタリと止みました。親族の間で、墓守の押し付け合いのいさかいがあったのだとか。
「それなら、あなたに決まりだね」
「おいおい、なんで俺なんだよ」
多分、ご先祖様がそう決めたに違いない。お盆に他の誰も墓参りに行かなかったのだろう。
※画像はイメージです。
思った事を何でも!ネガティブOK!