犯罪者しか愛せない!~殺人鬼に陶酔するプリズングルーピー~

グルーピーといっても、プリズングルーピーが恋こがれるのはミュージシャンではなく犯罪者。世の中には、獄中の犯罪者に性的な魅力を感じてしまう女性たちも存在する。彼女たちは囚人に熱烈なラブレターを書いたり、セクシーな下着を贈ったり、足しげく面会に通ったり、獄中結婚したりする。

そんなプリズングルーピーの崇拝対象の頂点がシリアルキラーだ。大物シリアルキラーにはファンクラブがあり、テッド・バンディ、リチャード・ラミレス、ジェフリー・ダーマ―などはプリズングルーピー界のレジェンドだった。恋する相手がゲイかストレートかなんてことは、グルーピーのお姐さまたちには関係ないらしい。

犯罪者に群がるプリズングルーピー

プリズングルーピーは時代や国を問わず存在する。リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件の「市橋ギャル」は記憶に新しいし、少し前なら「上祐ギャル」や、附属池田小事件の宅間守と獄中結婚した死刑廃止論者の女性もいた。

女性が犯罪者や被疑者に惹かれる現象はハイブリストフィリア(犯罪性愛)といわれ、ひとつの性的倒錯であるらしい。30年代のアメリカで銀行強盗を繰り返したカップルの名にちなんで、「ボニーとクライド症候群」と呼ばれることもある。
凶悪連続殺人事件の犯人が逮捕されればメディアで大々的に報道されるため、犯罪者といえども有名人になる。彼女たちはテレビや新聞で目にしたシリアルキラーのことを、まるで強大なパワーをもったダークヒーローのように崇拝するのだ。

ヴェロニカ・コンプトンの場合

もっとも悪名高いプリズングルーピーはヴェロニカ・コンプトンだろう。なにせ彼女は、愛しのダーリンに意のままに操られて、自ら殺人に手を染めてしまったのだから。その愛しのダーリンこそ、ロサンゼルスを恐怖のどん底にたたき落としたヒルサイド・ストラングラー (ヒルサイドの絞殺魔)、ケネス・ビアンキだった。

当時、ヴェロニカは23歳。モデル志望、女優志望、小説家志望と幅広く志望しながら『プレイボーイ』誌にヌード写真を送りつけたりする、要するに「何でもいいからビッグになりたい女」だった。

そんなヴェロニカに、ある日、大御所俳優が主演するミステリー映画の脚本の依頼が舞い込む。またとないチャンス。彼女ははりきって執筆に取り組むが、すぐに行き詰まってしまう。人を殺した経験がないうえに、想像力も乏しい彼女には、リアリティーのある殺人シーンがうまく書けなかったのだ。そんな時、あるニュースが目にとまる。当時、ロサンゼルスを震えあがらせていたヒルサイド・ストラングラーの二人組、ケネス・ビアンキとアンジェロ・ブオーノが、ついに逮捕されたというニュースだった。ヴェロニカは名案を思いつく。
「そうだ。本物の殺人犯にアドバイスをもらえばいいんだわ!」

それにしても、生ビアンキと会うのはこわくなかったのだろうか。殺人ピエロ、ジョン・ウェイン・ゲイシーのように、刑務所内でも面会者を殺る気マンマンの輩もいるのに。

ヴェロニカ、ビアンキにハートを奪われる

彼女はさっそく拘置所のビアンキに脚本の内容を書き送り、アドバイスを請うた。そのストーリーは、若い女性が次々と殺される連続殺人事件。遺体に残された男の体液から、足がつくのは時間の問題と思われた。しかし犯人はいつまでたっても捕まらない。なぜなら真犯人は女性で、被害者に精液を注入するトリックを使っていたからだ。ビアンキはこの脚本を子供だましだとこきおろす。

「嫌な男。でも、気にしちゃだめ。私の脚本は、あくまでフィクションなんだもの。あんな男のことなんか、早く忘れなきゃ」
しかし、気持ちとは裏腹に彼女の中でビアンキの存在が日に日に大きくなっていく。ついにヴェロニカはビアンキに再び電話をする。すると、ビアンキはこう告げた。
「おまえ、ガキのころ虐待されただろ?」
図星だった。ヴェロニカは幼少時、兄に毎日のように虐待され、12歳の時には売春組織に誘拐されて監禁された経験があった。誰も知らない過去をえぐられてしまった彼女は動揺を隠せない。そして、いつのまにかビアンキのことばかり考えるようになった。

そして悪魔に魂を売る

一方のビアンキは、表向きは脚本をけなしたものの、じつはトリックに興味をひかれていた。これを現実でやってみせれば、ヒルサイド・ストラングラーはまだ逮捕されていないと偽装できるかもしれない。

このころになると、ヴェロニカは毎日拘置所へ通いつめるようになっていた。
ある日、ビアンキは「一緒に住まないか?」と告げる。「どうやって?」とヴェロニカが訊ねると、「おまえの脚本だよ。あの通りに殺人を実行するんだ」と言いだした。ビアンキの狙いは、ヒルサイド・ストラングラーの凶行がまだ続いているように見せかけて、警察を混乱させることだった。
彼を無罪放免にするために、彼女は悪魔に魂を売る。ビアンキが差し出した、彼の体液を隠した本を受けとった。

1980年、ワシントン州ベリンガム。
ヴェロニカは、バーで一人の女性に目をつける。話しかけ、一緒に飲み、意気投合したふりをして、モーテルで飲みなおそうと誘った。そして部屋に連れ込むなり、ロープで一心不乱にその首を絞めあげた。しかし、人を絞殺するにはそれなりの体力がいる。ヴェロニカ・コンプトン、逮捕。

ヴェロニカ・コンプトン、終身刑

ヴェロニカは第一級殺人未遂で起訴され、終身刑となった。しかし、この判決を心底喜んでしまうのがプリズングルーピーのすごいところだ。
「これで、やっとあの人と同じ世界の人間になれる……!」

いや、「あの人」はあなたを「使えない女」程度にしか思ってないってば。その証拠に、ヴェロニカが逮捕された直後、ビアンキは
他のプリズングルーピーと獄中婚約。のちに獄中で結婚している。

ヴェロニカの場合、人並み以上の野心があるくせにイマイチうだつのあがらない人生を送っていた女性が、殺人鬼の強烈な負のオーラに取り込まれて、いいように利用されてしまったと考えるのがいちばん落ち着きがいいだろうか。けれども、ひとつひっかかることがある。ビアンキは本当に彼女の虐待の過去を見抜いていたのかということだ。
出まかせがたまたま当たったのか、異常者ならではの嗅覚で嗅ぎとったのか。ただ、ヴェロニカは図星をつかれたことで完全にビアンキにのぼせあがってしまった。

2003年、ヴェロニカ・コンプトンはようやく仮釈放となる。それにしても、未遂で終身刑というのはすごい量刑だ。今、彼女はどうしているのだろう。

※画像はイメージです。

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