バックミラー越しに見える助手席の彼女は

私の地元に、太平洋戦争前に建てられた産業施設があります。
コンクリートの塔のような背の高い建物は、街の歴史シンボルとなっていました。

10年程前、その近くを車で通りがかった時の事です。
夕方のラッシュ時間にハマり、対面1車線の道路は混んでいました。

ノロノロと進む中、何気なくバックミラーを見ると後ろは白い車で、スーツ姿の20代前半くらいの男性が運転していました。
隣には肩よりすこし長い髪の女性が乗っています。男性と同じくらいの年齢で、かわいい女性だなと思いました。

彼女は、ずっと運転する男性を見つめています。
ニコニコと男性の運転姿を眺めて、たまにちょっと口が動いて、何か話しかけている様子。
運転席の男性は隣を振り向いて話したりはしませんが、たまに前を向いたまま、ちょっと笑ったりするようには見えました。
楽しいデート中という雰囲気はないけれど、仕事仲間という感じでもなく。付き合いの長いカップル、もしかしたら夫婦かなあ・・・と、渋滞の暇つぶしに勝手に想像していました。

助手席の女性はずーっと運転席の男性を見つめています。
運転中の彼氏(旦那さん)ってカッコよく見えるもんねぇ。
その気持ちはよく分かります。
でも・・・ちょっと見すぎじゃない?あんなに見られたら、運転中気にならないかな?

余計なおせっかいとは思いましたが、気になるぐらい、女性はずーっと横向いているんです。
ですが、見られる男性は全く気にならないみたいで、たまに前向いたまま口をパクパクさせて話しかけている仕草をしたり、スマホみたり(当時はまだ違反ではなかった)。
私は前を見て少し進んでは、バックミラー越しに後ろの様子を確認しますが、いつ見ても後ろの車の女性は運転席を見つめています。

・・・・・・ちょっとおかしくない?

最初に気づいてから15分以上経ってるはず。
いかに好きな人でも、そんな長い間見つめているのは変だと思いました。
そして、もっと変なのは、それだけ見つめられている男性が全く気にしないんです。

私が男性なら「見すぎ。気になるから」って言ったと思います。
でも全然そんな気配なし、隣をみることもしない。

私は後ろの車が気になって仕方なく、バックミラーから目が離せなくなりました。
と、再び車の流れが止まり、私も後ろの車もブレーキを踏みました。
すると、男性がハンドルから片手を離して、大きく助手席側に傾くのが見えました。
隣に座る彼女の丁度膝当たりに、手を伸ばすような感じ。

・・・あ、何だ、ちゃんと構ってあげるじゃん。
私がそう思った瞬間、男性は伸ばした手に何かを掴んで、起き上がりました。
そして無表情に運転席に真っ直ぐ座り直すと、手にしたバインダーの様なものをダッシュボードに乗せて、何か書いています。
そして車の列が動くと、それを助手席にポンと放り出して、ハンドルを握り直したのです。

・・・え?隣・・・。

私がおかしいと思ったその時には、バックミラーに映る後続車の助手席には、誰も乗っていません。
後ろの車は、若い男性がひとりで運転しているだけ。
あれだけはっきり長くミラー越しに見えた女性は跡形もなく消えてしまいました。
その後、交差点で後ろの車とは道別れしました。

それでも帰宅するまでの間、バックミラー越しにみた彼女の事が頭から離れませんでした。
男性を笑顔で見つめる横顔は、はっきり思い出せます。

それからしばらくして、歴史的建造物は一部では心霊スポットとして有名だと友達から聞きました。
何度か同じ道を通りましたが、不思議な事はあの一度きりだけです。

※画像はイメージです。

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