『よみがえる空 -RESCUE WINGS-』は2006年にテレビ東京系で深夜に放送された12話のアニメ作品です。DVDでリリースされた際に外伝が追加され、全13話となりました。
石川県にある航空自衛隊・小松救難隊を舞台にして、レスキューを生業とする自衛官の仕事と、彼らを取り巻く人々の姿を描いています。
外伝 第13話 最後の仕事
一宏が小松に赴任する少し前の冬。
小松救難隊に一人のベテラン救難員の本村が勤務していました。
うっすら雪が積もる朝も、いつも通りジョギングで基地に向かう彼を見送ると、妻はカレンダーに斜線を書きこむのです。
そして彼が無事に帰宅するともう一本。
毎日そうしてバツ印を刻むことが彼女の日課でした。
長い間、ランのタイムトライアルを続けてきた本村は自分の体力の微妙な衰えを感じ始めていました。
その日、配属された新人のメディックは鈴木。
後に一宏とともに自転車を走らせることになる彼は、本村に憧れてメディックを目指した、というのです。娘を嫁がせ、やっと少しだけ肩の荷を下ろした本村と、本郷は酒を酌み交わします。
本郷がベイルアウトして救助された千歳の事故で、彼を冷たい海からすくい上げてくれたのが、当時千歳救難隊で勤務していた本村だったのです。
その時代を回想するシーンでは、今ではもう懐かしい、オレンジ色のフライトスーツの二人が描かれています(航空自衛隊のフライトスーツは90年代半ばに全て、本編で着用されていたオリーブグリーンに変更されています)。
自分の体力に限界を感じた本村は、メディックを下りようと考えていたのです。
そんな彼らに災害派遣の要請がかかります。
洋上のフェリーから急患を搬送してほしい、というそのミッションで甲板に降りた本村は一人の少年をピックアップしました。
それが、彼にとっての最後のミッションとなったのです。
少年の名前は『しょうた』…かつて本村が亡くした息子と同じ名前だったことに運命的なものを感じた彼は、もう駆け足ではなく、ゆっくりと歩いて家に帰る日々を過ごすようになるのです。
総括班での新しい仕事に慣れたころ、孫が生まれ、そして内田が赴任する日がやってきます。
ベテランの目線で若い世代を見守る彼の姿が、そこにありました。
みどころ
一宏が小松に赴任してから、なにくれとなく気遣ってくれていた本村が元メディックであったことは作中の会話で語られていました。
一宏は、本村の穏やかな風貌からその過去を想像もしていなかったようでした。
しかし、20数年に及ぶそのメディックとしてのキャリアは、現場を離れてもなお、隊員らのバックアップや精神的な支柱となっているのです。
そんな彼の日常をさりげなく描くことで、救難隊と言う特殊な世界に身を置く人の背後にある家族の思いや、転勤がある職業人としての人生が見えてきます。
毎日カレンダーにバツをつけて無事を確認していた妻は、メディックとしての勤務を終えたのちにはその習慣を封印します。
もう、危険な現場に降り立つことはないのだ、という安堵感がそこにあったのでしょう。
そして玄関先においてあった、亡くなった息子の形見の自転車がようやく片付けられたのです。
夫婦にとって、娘の結婚と実質の引退は、沢山の気持ちに整理をつけた節目だったのです。
最後に
一宏はその後どうしているだろうか、と考えることがあります。
ヘリオス78のモデルになった機体は、東日本大震災のあの日、松島基地で津波に襲われて飛ぶことが出来ないままに用廃となってしまいました。
製作・放送から12年。
23歳だった一宏は、30代半ば。
日々、立派にその役目を果たしてくれているに違いない、と思うのです。
この物語が製作された時期にはまだ東日本大震災の予兆もなく。
まさか、あんな出来事を経て、世の中にリアルな『自衛隊』、そして『救難隊』の姿が知られるようになるとは想像もしていませんでした。
日本中が翻弄されたあの大災害の中でも、松島救難隊の面々は機体と装備を失いながらも、その時にできる最大限のミッションを遂行し、多くの命を救っていたのです。
この作品、ことに2・3話は、まるで予言のようでした。
そして、絵空事でなく、こんな世界があり、厳しい環境に身を置いて働く人々がいるのだということを知って欲しいと思うのです。
満を持してのブルーレイBOX化、よりクリアにCG技術を用いての修正を経て、リリースされることになりました。
地味な物語です。ヒーローがいるわけではありません。
しかし、普通の人が努力の末にたどり着こうとする、一つの世界を切り取って描いている、実に力強い作品です。
爆発的なヒットではなくとも、細く長く、沢山の人に見て頂きたいと思っています。
現在動画配信サイトでも見ることができますので、ぜひチェックしてみてください。
しかし、本心を言えば。
彼らが定年でその世界を去るまで、活躍することがなく、世界が平穏であることを、実は望んでやまないのです。
そして先日、この作品を語るのに欠かせない方が亡くなりました。
本郷三佐を演じていた石塚運昇さん。
ポケモンのオーキド博士などで多くの人に知られていた彼ですが。
この『よみ空』でも素晴らしい芝居を聴かせてくださいました。
どっしりとした彼の存在感は、その世界の厳しさとリアルな空気を際立たせてくれるものでした。
謹んで、ご冥福をお祈り申し上げるとともに、そうした面からも是非多くの方にこの作品を知っていただき、彼の声を聴いて頂きたい、と思っています。
(C) 2006 よみがえる空 -RESCUE WINGS- バンダイビジュアル
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