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「よみがえる空 -RESCUE WINGS-」のお勧め

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『よみがえる空 -RESCUE WINGS-』は2006年にテレビ東京系で深夜に放送された12話のアニメ作品です。
DVDでリリースされた際に外伝が追加され、全13話となりました。

石川県にある航空自衛隊・小松救難隊を舞台にして、レスキューを生業とする自衛官の仕事と、彼らを取り巻く人々の姿を描いています。
また、この作品の二年後に同じく小松救難隊を描いた『空へ-救いの翼 RESCUE WINGS-』という実写映画も製作されています。

目次

第1話 初めての仕事

内田一宏は航空自衛隊の新人救難ヘリパイロット小牧基地の救難教育隊でライセンスを取り、初めての配属先である石川県の航空自衛隊小松基地に赴任してきました。
彼の第一志望は戦闘機パイロット、F-15に乗りたくて高校生のころから努力を重ねてきたのですが、適正から救難ヘリに振り分けられ、切ない思いを抱えての転属だったのです。

小松救難隊の先輩である本郷修二郎はことさらに厳しく一宏に当たります。
初っ端からその洗礼を受けた一宏は、自分の立ち位置をまだ見定めることが出来ず、もがく日々でした。

荷物の少ない部屋の本棚には、彼が恐らく昔から大切に持ち歩いていた空に関する本が並んでいます。
後にアニメ映画が製作された『スカイ・クロラ』や、同シリーズの『ナ・バ・テア』といった森博嗣の本やリンドバーグの本、『星の王子さま』など、一宏の“空への憧れ”を表す本が並びます。
…その時、本が崩れ、CDが床に落ちました。
地震が起こったのです。
それは彼にとって大きな試練となる仕事の幕開けでした。

第2話 困難な仕事

日本海沿岸に地震が発生、離島で震度6強というニュースに、一宏も出勤し、災害派遣に備えることとなりました。
彼自身はまだ訓練中ということでヘリを飛ばすことはできませんが、現場では人が足らないことが明白なので、同行し、働くことになったのです。
非番の本郷も呼び出され、災害派遣に駆り出されました。

現在よりもSNSが発達しておらず、詳細が分からないままに、夜明けとともに偵察機U-125Aと救難ヘリUH-60Jは離陸していくのです。
淡々と進行していくその『仕事』と、島の惨状を目の当たりにして、一宏は心を奮い立たせていました。

一宏の恋人のめぐみは、東京の出版社に勤めていました。
地元の岡山の高校で知り合った二人は遠距離恋愛中だったのです。
会社で地震関連のニュースをみつめる彼女は一宏を心配していましたが、連絡するすべもなく、祈るしかありませんでした。

一宏は離島から負傷者を搬送する間、現地に残り、負傷者のケアをすることになりました。
体調を崩した高齢者の喘息の薬を半壊した自宅に取りに戻った彼は、その家から飼い猫を連れて飼い主のもとに届けました。
それはささやかな善意であり、飼い主に感謝され、一宏がほっとしたのもつかの間、騒ぎが起こります。
避難所から、一人の少女が行方不明になったというのです。

第3話 苦しい仕事

降り続く雨の中、さくらちゃん、という3歳の女の子は、一宏が連れ帰った猫を見て、避難するときに残してきた飼い犬を思い出し、誰にも言わずに自宅に戻ってしまいました。
そこに余震が起きて、彼女は崩れた家の下敷きになってしまったのです。
一宏に同行していたメディック(救難員)の黒木は島の住人を率いてさくらを救出すべく奮闘します。

天候が回復しないままに、状況はさらに悪化、さくらはがれきの下から助け出されたものの、搬送しようとするヘリの中で急変、怪我とクラッシュシンドロームで病院に着いた時にはもうこと切れていました。
自分の軽率な行為が招いてしまったかもしれないこの無残な結果に愕然とし、『必ず助ける(助けたい)』という気持ちに嘘は無くても、いきなり、現実の無情をつきつけられた一宏はその無力感を噛み締め、めぐみに電話をかけます。

彼は『ケータイ嫌い』で、お互いの連絡がすれ違う日々、留守電に残った声を確認するしかなかったのです。
一宏は公衆電話の受話器を握り、めぐみの留守電に『ホンマの声が聴きたいんじゃ』とつぶやきます。

みどころ

この作品が放送されたのが2006年の年明けでした。
まだ『震災』というものが、当時想像できたのが阪神大震災の都市型の被害でしかなく。
津波や、土砂崩れ、さまざまな二次災害と言うものは、正直、想像の遥か向こうにあって、島の生活が崩壊している様子を見て『こんな風になってしまうのか…?!』と今一つ実感がわかなかったのですが、その甘さは数年後に打ち砕かれることになりました。
東日本大震災で、この舞台でもある航空自衛隊の救難団・救難隊が大活躍したのは、多くの方がご存知のことでしょう。

取材を重ねて作られたその災害のレスキューシーンは、真に迫っていました。
救出した女の子を助けようと、島からヘリを飛ばすシーンで、海上自衛隊の護衛艦に着艦して給油するシーンや、滑走路の誘導灯の代わりに地元住民が自動車を並べてそのヘッドライトで照らしていたシーンは、後の実写版の映画でも再現されています。
『助けたい』と願う人々の気持ちが表れた、心を揺さぶられる場面です。

小松の街並みは当時のそのままで、空が曇っている様子や土地の空気が見事に再現されているとのこと。
実際、石川県のあたりは、晴天率がとても低く、いつもどんよりと曇っていることが多いのだそうです。
本意でない救難隊への配属という実状を抱えた主人公・内田一宏という人物の屈折した内面を、この空模様とリンクさせて描いているようにも思えました。

第4話 大切な人

小松救難隊も、ゴールデンウィークを迎え、当直以外は割り振られた休暇を消化していました。
帰省する予定だった一宏は部屋に引きこもっていたのです。
彼が思うのは、島の地震のこと、そして亡くなったさくらちゃんのこと。
自分がそこ(救難隊)にいる意味。

欝々としていたところに、めぐみが突然東京から訪ねてきました。
ぶっきらぼうな一宏に、懸命に話しかけるめぐみでしたが、彼女も自分の仕事で問題を抱えていたのです。
一宏は、金沢の街を案内している間にも携帯電話に次々かかってくる仕事の話に気を取られるめぐみに怒りを爆発させます。
しかし、その一宏の不安定さを気遣って、めぐみは小松までやってきたのです。

彼は、高校生の頃、初めて言葉を交わした時のことを振り返り、まだ挫折を知らなかった無邪気な自分を思い出していました。
めぐみは、文学少女で、その夢を追いかけて働いていました。
その彼女が一宏に手渡した高校の卒業祝いはサン・テグジュペリの本。
『このひとも、飛行機のりじゃて…』

それは、めぐみなりの精いっぱいの餞だったのです。
彼女に見送られてそこから始まった長い長い遠距離恋愛は、5年にもなろうとしていました。

めぐみの言葉は、頑なに凝り固まった一宏の心を解きほぐし、彼は少しだけ前を向けるようになったのです。

みどころ

仲直りした二人はデート先で職場のメディックの白拍子とばったり遭遇します。
その時に『おえんよ』という岡山弁(だめだ、という意味)を聞かれてしまいます。
口止めしたのにも関わらず、休暇明けには職場中に知れ渡り、『おえん』という言葉が蔓延し、いじり倒される日々が始まるのです。
この作品の中で唯一ともいうべき笑えるシーンです。

めぐみは、一宏のことを『ライ麦畑のキャッチャー』と言います。
無口で朴訥な一宏と対照的な、彼女の穏やかで豊かな言葉は、心に静かに染み入るのです。

第5話 必要なこと

東京に戻っためぐみは東京の書店を回る営業の仕事に奔走していました。
その彼女のもとには、一宏に押し付けるように渡した携帯電話からメールが入るようになりました。
彼女に語る一宏の言葉から、救難隊の厳しい訓練風景が描かれていきます。

叱責されるばかりの訓練を終えて基地に戻った時。
彼の反省の言葉は誰にも伝わりません。
彼を見る本郷の言葉には容赦がなく、腑抜けた一宏をメディックの山岳訓練に同行させることになるのです。
重たい荷物を背負っての登山は、パイロットとして鍛えていたはずの一宏のプライドを打ち砕きます。
メディックの強靭な体力は、一宏に敵うものではなかったのです。

その面々と火を囲んで語る時間は、一宏にとっては意外なことばかりでした。
自分の乗っている自転車(モールトン)が話題になったり、めぐみのことを茶化されたり。
周囲はそれなりに彼のことを気にしてくれていることに、本人だけがまだ気づいていない、そんな状態だったのです。

登山道の途中ですれ違った高齢の夫婦の妻が足を負傷して動けなくなったとき、彼らの本領が発揮されます。
ベテランのメディックの的確な処置と判断、そして本郷の操縦士としての技量のすさまじさを目の当たりにして、自分に足りないものの本質を一宏は悟りました。
そしてめぐみにひと言、メールを打つのです。
『自分はまだまだだ』と。

みどころ

メディック(救難員)という職種の人々はただものではありません。
彼らは、海難事故でも山岳救難でも、身一つでその現場に飛び込んでいくのです。
この話では、その仕事の厳しさの一端を、訓練風景と共に、実際の『遭難者』を助ける活動で見せてくれます。

その訓練は陸自のレンジャーをも超えると言われるレベルのものですが。
それを乗り越えた先にある彼らの自身と自負、堂々とした佇まい、そして笑顔。
本郷を始めとする『プロ』の仕事を目の当たりにして、一宏の中にあった諸々の感情が動き出しました。
まさに『必要なこと』、自分に何が足りていないのか、それを自覚し始めたのです。

第6話 Bright Side of Life(前編)

いきなり、モノクロームの画面から『ひょっこりひょうたん島』の軽快なメロディが流れ始めて驚かされます。
1993年、千歳でF-15が墜落。
本郷の過去が明らかにされていきます。
彼が『F転(えふてん)』と呼ばれる、戦闘機から機種転換して救難ヘリの操縦士になった、その軌跡が明らかにされていく物語です。

冒頭、井上という若いパイロットが亡くなったその事故で、本郷は海上にパラシュート降下して一命をとりとめたのです。
『ひょっこりひょうたん島』は、彼が『自分が死んだときにはこの歌で送って欲しい』と希望していた歌だったのです。
本郷はお盆に千歳の井上家に弔問に訪れ、妻とその遺児に会うのでした。

なぜ自分が生きているのか。
自分だけが助かったのか。

そんなことを自問自答している本郷の表情は、内田に見せている厳しさとは違って、翳りを帯びていました。

お盆休みを経て、一宏がめぐみや両親と穏やかな時間を過ごして再び訓練の日々が始まった頃、基地に警報が響き渡ります。
レーダーロスト、場外航空救難発令F-15が日本海に墜落したのです。

第7話 Bright Side of Life (後編)

墜落した機体の捜索は続いていました。
天候が悪化し、波が高く発見に手間取っていた頃、尾翼が発見されて墜落が確定し、基地の管理部長は操縦士の熊田の妻に報告するために自宅に向かっていました。
結婚してまだ1年という若い妻は、その車を見て何が起こったかを悟るのでした。

洋上では、本郷と内田が組んで捜索を続けていました。
やっと発見された要救助者らしきもの…もう一人の操縦士、芹沢は既に亡くなっていたのです。

彼を収容した本郷は、自らが海に投げ出されて救難ヘリに助けられた時の記憶を辿っていました。
バードストライクという不可抗力による事故ではありましたが。
それで大きく運命が変わったことを、そして今自分がいる場所と、その意味を噛み締めていたのです。

夜を徹して捜索が続く中、めぐみは一宏を想っています。
彼女なりに空自のことを調べ、そして救難を理解しようと努力している姿が描かれています。

朝になり、天候が回復する中、一宏たちはやっと熊田のもとにたどり着きます。
黒木が降下していくなか、白拍子が『生きてる!生きてる生きてる!生きてるよぉっ!』と叫び、熊田の生存が確認されたのでした。

長い1日がやっと終わったのです。

その週末、救難隊の親睦会が行われていました。
本郷がカラオケで指定したのは『ひょっこりひょうたん島』。
彼にとってそれは事故で亡くなった井上三尉の追悼の歌でもあったのです。

みどころ

全編通して、もっとも人気のあるエピソードがこの前後編なのだそうです。
危機的状況の中で本郷の過去と、一宏が直面している今が交錯し、二人の距離がすこしずつ縮まっていくのです。
『ひょっこりひょうたん島』の歌は、オリジナルの音源を使うために権利関係の調整がとても大変だったのだそうです。
しかし、大きな効果をもたらしたその選択は間違っていなかった、と思います。
ことに後編の終盤、カラオケで本郷と一宏が歌うそのメロディに救難隊の皆が声を合わせた大合唱になり、そのままエンドロールに入っていく流れは、前編冒頭のそれと同じ歌とは思えない味わいがあります。

私は、この話を見て以来、トラウマスイッチともいうべきレベルで、この歌を聞いたら泣きそうになります。
それほどの重みをこの軽妙な歌に載せてしまった、この物語の凄さを思うのです。

また、濃やかな描写も忘れられません。
一宏とめぐみは岡山の実家に帰省しますが、その岡山弁で語り合う二人は以前の学生時代に戻ったかのように朗らかでした。
そこに立ち返ることで緊張が解けたかのようです。

殉職してしまった芹沢一尉に関しては短い描写のみではありましたが、彼の為人を表すアイテムがありました。
ブライトリングのパイロットウォッチです。
ドラマ『空飛ぶ広報室』で綾野剛さん演じる空井大祐が同じブランドの物を着けていました。
世界的に知られているパイロット仕様の腕時計なのです。
持ち主が亡くなるほどの衝撃があったはずなのに、その時計は正確に時を刻み続ける。
その様子を見て、駆け付けた芹沢の父が『惨いことだ』と呟くのです。

熊田の発見、そしてその生存を知った時に白拍子が叫んでいた『生きてる!』というセリフは、実はアドリブなのだそうです。
おもわず口をついて出ていたらしいその『生きた言葉』は、その臨場感を増幅させ、心を揺さぶる力を持っていました。
この場面は私の、全編通してもっとも好きなシーンです。

第8話 少年の旅路(前編)

時は流れ、山の色が美しく色づく秋がやってきました。
小松救難隊の紅葉狩りを控え、一宏とメディックの鈴木がその下見に、と山に自転車でツーリングに来ていたのです。
山岳訓練で一宏のモールトンを羨ましがっていた鈴木と二人での輪行は、しかし一宏にとってはメディックの『化け物』ぶりを体感するには十分な苦行ともなりました。
顔色一つ変えない鈴木に苦笑するしかない一宏でしたが、そんな二人の前にパンクして立ち往生している学生服の少年がいたのです。

彼は吉岡悟。
父子家庭という環境と、受験に追い立てられて部活を辞めさせられた閉塞感から万引きをして咎められ、ふっとそこから逃げるように自転車を走らせて来ていたのです。
鈴木は彼を誘い、しかし自分は山の上まで自転車で、一宏と悟はロープウェイで向かうことになるのです。

同じゴンドラには、幼い子供を連れた夫婦と、派手な男女、そして老夫婦が乗り合わせることになりました。
そして、大きな衝撃がゴンドラを襲うのです。
ロープウェイが停止し、故障が告げられました。
警察・消防が手を出せない状況の中で天候は悪化、一宏たちの脱出は困難になっていくのでした。

第9話 少年の旅路(後編)

救助袋を使ってゴンドラからの降下を試みた一宏たちでしたが、ゴンドラのアームが外れかかり、6名を残して完全に手詰まりとなりってしまいました。
災害派遣要請を受けて到着したUH-60J、コールサイン『ヘリオス78(セブンエイト)』を飛ばしていたのは本郷でした。

『おっかないやつが来たぞ』と悟に呟いた和弘の声音には、しかし、本郷への全幅の信頼が寄せられていたことを、恐らく本人は気づいていなかったことでしょう。

UH-60Jの性能は国内では警察・消防の保有する機体では太刀打ちできないレベル、ダントツです。
ゴンドラごと吊上げて地上に下ろす、という無謀とも思える作戦を展開していく彼らの言葉と姿に、悟はある決意をします。

この物語は、鈴木が悟を見て『自分探しの旅か!』と評していたのとともに、一宏自身が『要救助者』となり、自分の『仕事』を見直すきっかけになった事件ともなったのです。

みどころ

実際にロープウェイのゴンドラを吊上げて下ろす、という“事件”は過去に起こっていませんが、UH-60Jのスペックは十分にそれを満たすものであると言われています。
しかし、この作品を制作しようとした時に、モデルになる場所を探して取材を申し込んだ時、ロープウェイの運営会社側には悉く断られたとのこと。
『ロープウェイはそんな事故を起こしません!』と言われ続けたそうで、この現場は架空の場所、架空のロープウェイで描かれています。
日頃恐れている本郷の存在の頼もしさに安堵する一宏の口元の笑みや、悟らに対する気遣いの描写は濃やかで、地味な展開ながら、とても丁寧に作られている二話でした。

第10話 パーティ

めぐみは新しい本の原稿に取り組んでいました。
わくわくする仕事の裏側で、営業成績が振るわない小さな出版社では、決算の時期が来ると、残酷な決断…在庫の処分を迫られるのです。
クリスマスが近づく街のなかで、どうしたら『良い』と思うものを人々に手に取ってもらえるのか、そんなことを考えていたのです。

一宏は思いがけず本郷の自宅に招かれて食事を共にします。
家族の前にいる本郷の姿、愛娘に微笑む表情はそれまでに見たことのないものでした。

その頃、晴天の雪山・穂高岳に、一組のパーティがいました。
大学の山岳部の一行です。
卒業生3名と、現役の学生が1名。
少しずつ天候が崩れる中、ペースが遅れて焦った学生・武田が滑落、パーティは遭難してしまうのでした。

第11話 ビバーク

山岳部パーティのリーダー恒松は武田に付き添い、残りの二名、工藤と望月が電波の届くところまで移動して救助要請を行うために現場を離脱しました。
その頃、小松救難隊のウエザーブリーフィングでも低気圧の様子が報告され、フライトがキャンセルになっていました。
本郷は一宏に『お前はいつもどんな目で空を見ている?』と問うのです。
『ヘリパイの目で見ているか?』と。

猛吹雪の中で工藤と望月は、やっとのことで県警に通報、救助要請を行いました。
常松はケガをした武田をかばってビバーク、救助を待つ決意をしました。
低体温で朦朧とする武田の様子に叫ぶ常松の声は、誰にも届きません。

一方、穂高岳の山荘に向かうはずの工藤らは県警のヘリを見たものの、気づいてもらえず、さらなる遭難状況に突入してしまうのです。

小松救難隊に救助要請がなされるなか、常松の目の前で武田は凍死、残りの二人も雪に埋もれていきました。

『無事でいるでしょうか…』
そうつぶやいた一宏に、本郷が応えます。
『俺たちの仕事は生死を詮索することじゃない。見つけ出し、助け出すことだ』

最初に発見されたのは、既に冷たくなった工藤と望月でした。
そして一宏らが飛ばしているヘリオス78の目の前に現れたのは、常松の姿…あと少しで救助できるかと思われた瞬間、乱気流に巻き込まれ、離脱せざるを得なかったメディックの目に映ったのは常松の絶望した瞳だったのです。

第12話 レスキュー

もう一度トライさせてほしいというメディックのリコメンドでしたが、ミッション中止の命令が下り、一宏たちは工藤らの遺体を積んで松本空港に戻りました。
みな一様に、体感温度マイナス25度と言う環境下に取り残されてしまった常松の身を案じていましたが、身動きできないままに時間が流れていきました。

小松救難隊の地上部隊も松本空港まで進出し、全面展開していく中で、低気圧が二つ玉になり天候はさらに悪化していったのです。

常松の両親らも『もっと早く山なんてやめさせときゃ良かった…』と悔やむものの、状況は変わりません。
夜が明け、再び一宏たちは総出で山に向かいます。
わずかに晴れてきた山の上で、本郷らは常松を発見、ピックアップにメディックの黒木が降下します。
切り立った岩山の脇で展開するミッションで、常松は生存を確認されましたが、彼は武田を先に載せてくれ、と哀願します。
黒木はその彼を説き伏せて収容するのですが。
頭上の崖からの落石があり、コックピットのウィンドウが破損、本郷が負傷したことで、一宏が操縦を変わり、帰投___それぞれが苦い思いを抱えて、事態は収拾したのです。

『生きていくのは、なかなか厄介なもんさ』

病院に収容された本郷は、常松とその家族らを思って一宏に語ります。
F転からヘリの道に進んだ本郷と、不本意ながらそのあとを追うように歩く一宏でしたが。
いつか同じものを目指して空を飛べる、そんな予感が見えた終焉でした。

エンドロールに一つの言葉が記されます。
“That Others May Live”=『他を生かすために』
その言葉を胸に、今日も全国の救難隊ではリアルに厳しい訓練に励む隊員らの姿があります。
この物語は、フィクションではありますが、まさに彼らの日常を切り取った姿そのものともいえるでしょう。

みどころ

雪山での遭難というのは、一般にはまず滅多に行き当たる事象ではありません。
しかし、航空自衛隊の救難隊では“それ”が起こり得ることを前提に日々訓練を積み重ねています。

春に小松基地に配属されたばかりの頃には、一宏は現状を受け止められず、『空』に見放されたような思いで飛んでいました。
しかし、メディックらや本郷たち先輩の姿や言葉にさまざまなことを学び、模索するようになっていったのです。

そんな彼が遭遇した常松らの山岳事故は、4名のパーティでサバイバーがたった一人、という厳しいものでした。
しかも生き残ったのはリーダーの常松だったことで、本郷も一宏も、これから先の彼とその家族が背負うあろう日々の辛さを思うのです。

ラストシーンで、一宏の前に現れた悟は『メディックになる』と宣言します。
めぐみもまた自分の企画が通って新しい仕事の局面を迎えていました。

淡々とした物語の中で、しかし彼らはみな少しずつ前を向いて歩き、終わりのない日々のまだ途中にいるのです。

第13話(外伝)最後の仕事

一宏が小松に赴任する少し前の冬。
小松救難隊に一人のベテラン救難員の本村が勤務していました。
うっすら雪が積もる朝も、いつも通りジョギングで基地に向かう彼を見送ると、妻はカレンダーに斜線を書きこむのです。
そして彼が無事に帰宅するともう一本。
毎日そうしてバツ印を刻むことが彼女の日課でした。

長い間、ランのタイムトライアルを続けてきた本村は自分の体力の微妙な衰えを感じ始めていました。
その日、配属された新人のメディックは鈴木。
後に一宏とともに自転車を走らせることになる彼は、本村に憧れてメディックを目指した、というのです。
娘を嫁がせ、やっと少しだけ肩の荷を下ろした本村と、本郷は酒を酌み交わします。

本郷がベイルアウトして救助された千歳の事故で、彼を冷たい海からすくい上げてくれたのが、当時千歳救難隊で勤務していた本村だったのです。
その時代を回想するシーンでは、今ではもう懐かしい、オレンジ色のフライトスーツの二人が描かれています(航空自衛隊のフライトスーツは90年代半ばに全て、本編で着用されていたオリーブグリーンに変更されています)。

自分の体力に限界を感じた本村は、メディックを下りようと考えていたのです。
そんな彼らに災害派遣の要請がかかります。
洋上のフェリーから急患を搬送してほしい、というそのミッションで甲板に降りた本村は一人の少年をピックアップしました。
それが、彼にとっての最後のミッションとなったのです。
少年の名前は『しょうた』…かつて本村が亡くした息子と同じ名前だったことに運命的なものを感じた彼は、もう駆け足ではなく、ゆっくりと歩いて家に帰る日々を過ごすようになるのです。

総括班での新しい仕事に慣れたころ、孫が生まれ、そして内田が赴任する日がやってきます。
ベテランの目線で若い世代を見守る彼の姿が、そこにありました。

みどころ

一宏が小松に赴任してから、なにくれとなく気遣ってくれていた本村が元メディックであったことは作中の会話で語られていました。
一宏は、本村の穏やかな風貌からその過去を想像もしていなかったようでした。
しかし、20数年に及ぶそのメディックとしてのキャリアは、現場を離れてもなお、隊員らのバックアップや精神的な支柱となっているのです。
そんな彼の日常をさりげなく描くことで、救難隊と言う特殊な世界に身を置く人の背後にある家族の思いや、転勤がある職業人としての人生が見えてきます。

毎日カレンダーにバツをつけて無事を確認していた妻は、メディックとしての勤務を終えたのちにはその習慣を封印します。
もう、危険な現場に降り立つことはないのだ、という安堵感がそこにあったのでしょう。
そして玄関先においてあった、亡くなった息子の形見の自転車がようやく片付けられたのです。
夫婦にとって、娘の結婚と実質の引退は、沢山の気持ちに整理をつけた節目だったのです。

最後に

一宏はその後どうしているだろうか、と考えることがあります。
ヘリオス78のモデルになった機体は、東日本大震災のあの日、松島基地で津波に襲われて飛ぶことが出来ないままに用廃となってしまいました。
製作・放送から12年。
23歳だった一宏は、30代半ば。

日々、立派にその役目を果たしてくれているに違いない、と思うのです。
この物語が製作された時期にはまだ東日本大震災の予兆もなく。
まさか、あんな出来事を経て、世の中にリアルな『自衛隊』、そして『救難隊』の姿が知られるようになるとは想像もしていませんでした。
日本中が翻弄されたあの大災害の中でも、松島救難隊の面々は機体と装備を失いながらも、その時にできる最大限のミッションを遂行し、多くの命を救っていたのです。

この作品、ことに2・3話は、まるで予言のようでした。
そして、絵空事でなく、こんな世界があり、厳しい環境に身を置いて働く人々がいるのだということを知って欲しいと思うのです。

満を持してのブルーレイBOX化、よりクリアにCG技術を用いての修正を経て、リリースされることになりました。
地味な物語です。
ヒーローがいるわけではありません。
しかし、普通の人が努力の末にたどり着こうとする、一つの世界を切り取って描いている、実に力強い作品です。
爆発的なヒットではなくとも、細く長く、沢山の人に見て頂きたいと思っています。

現在動画配信サイトでも見ることができますので、ぜひチェックしてみてください。

しかし、本心を言えば。
彼らが定年でその世界を去るまで、活躍することがなく、世界が平穏であることを、実は望んでやまないのです。

そして先日、この作品を語るのに欠かせない方が亡くなりました。
本郷三佐を演じていた石塚運昇さん。
ポケモンのオーキド博士などで多くの人に知られていた彼ですが。

この『よみ空』でも素晴らしい芝居を聴かせてくださいました。
どっしりとした彼の存在感は、その世界の厳しさとリアルな空気を際立たせてくれるものでした。
謹んで、ご冥福をお祈り申し上げるとともに、そうした面からも是非多くの方にこの作品を知っていただき、彼の声を聴いて頂きたい、と思っています。

(C) 2006 よみがえる空 -RESCUE WINGS- バンダイビジュアル

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