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鏡に写るが見えない女

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鏡は真実を写し出すと言いますが、それは本当なのでしょうか?
実際には見えないものが鏡には写っているとしたら、いったいどちらが真実なのでしょう。

目次

R美と私

大学時代の友人のR美。
学科は違うのですが、共通の友人を介して知り合い、たまたま一般教養の授業の専攻が被り、顔を合わせると話すようになっていたのです。

ある日、私は研究室に提出する書類があるため、二限が始まる三十分ほど前に大学に着きました。
書類の提出はすぐに終わり、講義が行われる小講義室に向かうのですが、ここは一限の授業がないため空いているのです。
誰もいないだろうとドアを開けると、中央の席に女の子の後ろ姿が見え、近づいて行くとR美だとわかりました。

「おはよう」
「おはよー!早いね」
「いやいやそっちの方が早いでしょ」

机の上には化粧道具が置いてありました。
「あっ散らかしてごめんね。もうすぐ終わるから」
「なんで化粧してるの? 寝坊ではないよね?」
講義が始まる前に大学には着いているのだから、化粧をする時間がなかったという理由ではないはずです。

「いつも学校で化粧してるんだよね」
「えっなんで?」
「家でしたくないから」
理由がありそうでしたが、無理矢理聞き出すのも迷惑なので訊ねることはやめました。

しばらく無言で彼女は化粧をしていましたが、ふいに口を開き・・・
「怪談とかそういう話大丈夫?」
「うん。別に平気だけどなんで?」
「まあ、信じるかどうかは自由だけど、私は真実として話すからね」
ビューラーでまつ毛を上げながら、R美は続けます。

R美の話

サークルの飲み会で終電ギリギリで帰った夜、飲み過ぎたから帰って来てすぐ寝ちゃったの。
ハッと起きたら二時過ぎてて、化粧を落とすために洗面所で慌てて顔を洗った。
洗顔料を落として顔を上げて目の前の鏡を見たら、私の後ろにセミロングの黒髪に黒いブラウスを来た女の人が立ってたの。
びっくりして振り返ったんだけど、いない。でも、もう一度鏡を見たらいるの。

これはいわゆる幽霊とか地縛霊ってやつかなぁなんて思ってさ。たぶんまだ酔ってたんだろうね。
俯いてるせいで髪で顔が隠れて見えないし、ただじっと立ってるだけだから恐くもなくて。
なんかそれが『だるまさんがころんだ』してるみたいだなぁなんて思えてきちゃてね。
それでちょっと遊んでやるかってなってさ。

後ろを振り返って「だ・る・ま・さ・ん・が・こ・ろ・ん」まで言って、「だっ!」のタイミングで鏡を見たの。
そしたら案の定、微動だにせずに立ち尽くしてるわけ。

それでもう一回同じことしたんだけど、やっぱり動かない。
じゃあ、もう一回だと思って同じことやって鏡を見た。

そしたらさ、私の真後ろで、真っ赤なデカイ目を見開いて、サメみたいな歯がビッシリ生えた口が顎外れるように裂けて開いてた。
おまけにズタズタに傷だらけの白い手が私の首を締めようとしてたの。

もうびっくりってレベルじゃないでしょ? だから私も「ぎゃあああっ!!」って叫びながら、置いてあったドライヤーを鏡に叩きつけちゃったんだよ。当然、鏡はバリバリに割れて砕け散ってさ。
それから後ろを振り返ったんだけど、何もいなかったんだよね。
私も別に苦しいとかもないし。
けど、もう怖くて部屋にはいられなかったから、慌てて荷物持って朝までファミレスに避難した。

そうなんだ

それで、親にこんなことあったから引っ越ししたいって言ったんだけど、まったく相手にしてもらえなくてさ。
自分でお金貯めるまで住み続けるしかないから、仕方なく住んでるんだけど鏡見るのだけは怖くて。
うちには洗面所にしか鏡なかったから、手鏡さえ見なければ鏡を見ずに過ごせるんだよね。
それで、部屋で化粧しなければいいやってことで、こうして学校でしてるってわけ。

「以上が化粧をする理由でした!」

そう言って最後の仕上げにグロスを塗ると、R美は満足気な顔をして手鏡を閉じました。
私は「そうなんだ」としか言えません。
話をしている間に生徒が集まり出し、そして始業を告げるチャイムが鳴り、講義が始まりました。
講義を受講したあと、それぞれ予定があったので彼女とはそこで別れたのです。

その後、私はその講義の受講自体をやめてしまい、R美とは会わなくなってしまいました。
すると、共通の友人からR美が大学を辞めたと聞きました。
サークルを休みがちになり、それから二~三ヶ月後に辞めてしまったそうです。
理由はよくわからないとのことでした。

そして、こんなことを言っていました。
「最後に会ったとき、R美ってわからんかったんよ。髪ボサボサになっとって、ずっと美容院行ってなかったんちゃうかなアレ。顔もスッピンやったし。いつもバッチリメイクしとったんにね。どないしたんやろなぁR美」

背後にいたのは

実はR美から話を聞いたとき、最後にグロスを塗っていた彼女の鏡をふと見たような気がします。
R美の斜め後ろにセミロングの黒髪で黒いブラウスを着た、俯き加減の女の人が座っているのが写っていたのです。
彼女はそれに気付いていない様子でした。

私はそれを指摘することも、振り向いて確認することも恐ろしくてできません。
そして、講義室を出るまで決して後を振り返りませんでした。

それからそのまま学生課へ行き、先程の講義の受講解除の手続きを行ったのです。
例の女がR美に取り憑いていたのか、それとも話をしたから講義室にやってきたのかわからなかったので、接点を減らすためにそうしました。

小講義室へもそれ以来行っていません。一般教養の授業でしか使われていなかったので、受講人数の少ないもしくはとても多い講義を選べばその教室に行くことが避けられたからです。
幸い、私はR美の鏡で見て以来、その女の姿は見ていません。

大学を辞めたR美のその後のことは誰も知りません。
彼女の無事だけを願っています。

※画像はイメージです。

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