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もうひとり乗れますよ、百年くらい前から

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11年前のことだった。当時、わたしが勤務していた飲食店の女の子が、喜々として話してくれた噂話だ。

・・・いまでもエレベーターガールを採用してる、K市の百貨店で起きた話です。
百貨店に勤めていた女性が毎日、おなじ内容の悪夢にうなされていたんです。
自宅のまえに霊柩車が来て、運転手が「もうひとり乗れますよ」と声を掛ける夢なんです。
ある日、勤務先の百貨店にあるエレベーターに乗ろうとしたとき、エレベーターはほぼ満員でした。
そしたらエレベーターガールが「もうひとり乗れますよ」って、夢の内容と同じことを言ったんです。
夢を思い出して怖くなった女性は、「いえ、結構です」と言ってエレベーターには乗りませんでした。
その瞬間、エレベーターのケーブルが切れて落下事故が起きました。
エレベーターに乗っていた人たちは、全員が亡くなったそうです・・・。

この噂話を耳にしたとき、わたしは本心から「面白いね!」と答えて、噂話そのものを楽しんだ。わたしのリアクションに、女の子の気持ちも満更でもない様子であった。噂話の由来を知ったのは、ずっと後のことだ。

海を渡ってきたのか。おなじ発想が日本国内で発生したのか。経緯は分からないが、個人的に確認した限りでは、このエピソードの起源は1905年のイギリスにまで遡る。

目次

No.22の暗示

映画ファンやSFファンの間では有名なアメリカのテレビドラマに、『トワイライトゾーン』がある。日本では『ミステリー・ゾーン』の邦題で知られ、1983年にはスピルバーグやジョージ・ミラーの手による劇場版リメイクが公開、近年でもリブート版テレビドラマが配信された長寿シリーズである。そんな『トワイライトゾーン』第2シーズン17話に、『No.22の暗示』という放送回があった。
 
過労で入院している女性が、おなじ悪夢に何度もうなされる。病院の地下にある「22」の番号の付いた遺体安置所を訪れ、看護婦から「もうひとり入れるわ」と声を掛けられる悪夢。退院した女性はマイアミに向かうため空港を訪れるが、搭乗予定の旅客機は「22便」。彼女は不安を覚えつつも旅客機に乗ろうとするが、待ち構えていたのは、悪夢に登場した看護婦と瓜二つの乗務員。乗務員は彼女に「もうひとり入れるわ」と声をかけ…。ラストは言うまでもなかろう。『No.22の暗示』が日本で放映されたのは、1961(昭和36)年10月4日。

ただし、本作は番組オリジナルではなく原作が存在する。原作者としてクレジットされているのは、アメリカ出版業界の名編集者であったベネット・サーフの『Famous Ghost Stories』。

馭者の転職

原作の粗筋はこうだ。ニューヨークに住んでいる若い女性が、親戚の経営する南部の農園を訪れる。夜、農園に不気味な馬車が訪れて、馭者(ぎょしゃ)が窓際にたたずむ女性を指さして「もうひとり乗れますよ」と声を掛け、姿を消す。翌日の夜もおなじ出来事が起き、恐怖を感じた女性はニューヨークに帰る。帰宅後、オフィスビルにあるエレベーターに乗ろうとした女性は、馭者にそっくりなエレベーターボーイに出くわし、彼は「あとひとり乗れますよ」と…。

わたしはいま、参考文献である『世にも不思議な怪奇ドラマの世界 『ミステリー・ゾーン』『世にも不思議な物語』研究読本』(洋泉社 2017)のp193~p194を開いている。参考文献の記述によれば、1940年代から50年代にかけて、アメリカでは「幻の馭者」と呼ばれる都市伝説が流布したという。この都市伝説をもとにサーフが短編小説『馭者』を書き、怪奇小説のアンソロジー『Famous Ghost Stories』に組み入れた。その映像化が『No.22の暗示』ということだ。

だが…参考文献によると、この都市伝説そのものが、元はといえばイギリスの怪奇小説であるという。

死神の営業成績

イギリスの作家E・F・ベンスンは、1906年に『The Bus Conductor』(直訳すると「バスの車掌」)というタイトルの短編小説を公にした。2016年に邦訳出版されたベンスンの短編集『塔の中の部屋』(書苑新社 2016)での日本語タイトルは『霊柩馬車』。主人公の男性が友人の家に泊まった日の夜、家のまえに霊柩馬車がやってきて、馭者は主人公にむかって「残りはあと一席ですよ…」と声をかけた。一か月後、ロンドンでバスに乗ろうとした主人公は、車掌に同じ言葉を掛けられ…。

卵が先か、鶏が先か。タクシー好きの幽霊ほどではないにせよ、馬車からバス、エレベーターや旅客機へと、馭者は国籍や乗り物を変えて、100年以上も昔のイギリスから第二次世界大戦後のアメリカへ、はては日本の地方都市にまで足を延ばしたらしい。死神という職業も大変である。

それにしても、一体、いつ、誰が、この噂話を日本国内で流布したのか。
それを検証し、実証するのは困難だろう。

主要参考文献
山本弘:著 尾之上浩司:監修 『世にも不思議な怪奇ドラマの世界 『ミステリー・ゾーン』『世にも不思議な物語』研究読本』(洋泉社 2017)
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※画像はイメージです。

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