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人種も年代も異なる人骨が一か所に?~ループクンド湖(骸骨湖)のミステリー

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インドはヒマラヤ山脈の奥深く、標高5000メートルを超える辺境の地に、考古学者たちが首をかしげる不気味な湖がある。
その湖にはループクンド湖という正式な名前があるのだが、いまや「スケルトンレイク」という異名のほうが有名になってしまった。

この湖は、ほぼ1年を通して雪と氷に閉ざされた氷河湖で、凍りついた湖面が宝石のように美しい。しかし次の瞬間、誰もが異様な光景に気づいて息をのむ。よく見ると、湖岸に散乱しているのは人骨だ。それも、無数の。短い雪解けの季節には、おびただしい数の白骨化した遺体が湖底に沈んでいるのも目視できる。

大量の人骨がある場所──普通に考えれば、そこは墓地だったという答えで説明がつくのだが、なにせここは海抜5000メートル、人を寄せつけない氷の世界。「墓地だった」で片づけるのは、あまりに乱暴ということになる。

死者たちの死亡時の健康状態は良好で、感染症の可能性はなし。また戦闘の痕跡もなく、争いによる死でもない。彼らが何者で、どこから何のためにやってきて、なぜここで息絶えたのかは今も謎のまま。
ここは訪れた者の命を奪う呪われた湖なのか、それとも死体を捨てる場所だったのか。この美しい湖で、過去にいったい何があったのだろう。

目次

現代科学でも解けない大量人骨の謎

ループクンド湖は、インドのウッタラーカンド州にある、直径40メートルにも満たない小さな湖だ。これまでこの地で命を落とした人間は、ざっと800名にのぼる。
厳しい気候が幸いして、人骨には凍りついた肉片や髪の毛が残っているものもある。一方で、極寒の山岳地帯という条件から、現地調査はきわめて困難。骨が人為的に積み上げられたあとがあるのは、トレッカーのしわざだろうか。

湖で最初に人骨が発見されたのは19世紀末のこと。1942年に森林警備隊が再発見して以来、人骨の正体は、戦死した日本兵説、帰還途上のインド兵説、王族と従者の一行説など、さまざまな憶測が飛び交ってきた。
考古学や考古遺伝学の専門家たちは、人骨が第二次世界大戦の犠牲者ではなく、はるかに古い時代の人間のものと確信していたのだが、真相は長いあいだ謎に包まれたままだった。

現地に残る、怒れる女神の伝承

地元の人々の話によると、この地域では12年おきに女神ナンダデヴィを崇拝する祭が行われていて、ループクンド湖はその神聖な巡礼ルートの途中にあるという。現地にはこんな言い伝えが残っている。

昔、ある王がナンダデヴィの怒りをかった。女神の怒りを鎮めるために、王は側近たちを引き連れて巡礼に出発し、ループクンド湖にさしかかった。ところが王は愚かにも、享楽に耽るための踊り子を巡礼団に加えていたため、よけいにナンダデヴィを怒らせた。女神は空から「鉄の玉」を降らせて、一行を皆殺しにした。

2018年までの先行調査で明らかになったのは、以下の三点。

・人骨は南アジアと地中海東部のいずれかにルーツをもつ二つのグループ
・死んだのは西暦800年ごろ
・全員が同じ事象で一度に死亡した

頭蓋骨骨折が多くみられたことと、治癒した痕跡がないことから、彼らは突然の暴風雨に巻き込まれて、雹(ひょう)の直撃により全滅したと結論づけられた。ナンダデヴィが空から落とした「鉄の玉」の正体が雹だったとすれば、死因は伝承と一致する。

さえぎるもののない氷河で、ある者は雹に頭を砕かれ、ある者は低体温症で死んでいったのかもしれない。多数の遺体は徐々に斜面を転げ落ちて、結果的に低地の湖岸に集まったとも考えられる。
スケルトンレイクの謎は、これで一応の決着をみたかに思えたのだが──。

■ループクンド湖の人骨SchwikiCC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

再調査で深まる謎

ところが最新のDNA解析では、これまでの結論を覆す事実が明らかになった。38体の人骨について遺伝情報を総合的に解析したところ、判明したのは次の通り。

・人骨は二つのグループではなく、遺伝的に明らかに異なる三種類の人種
・38体の内訳は、現在のインド人につながる23名、現在のギリシャやクレタ島の人々につながる14名、現在の東南アジア人につながる 1名
・38名に血縁関係はない
・インド人グループは7世紀から10世紀にかけて複数の事象により死亡、他の二つのグループは1000年後にあたる17世紀から20世紀にかけて、ひとつの事象で死亡

地中海にルーツをもつ人々が、その時代に遠いヒマラヤの辺境で何をしていたのか。これについては専門家のあいだでも見解が分かれていて、答えはでていない。インド行脚についての記録も地中海地方には残っていない。

再調査の結果、湖の死者たちは世界各地の人間であり、1000年を隔てた異なる時期に死亡したことが解けた。しかしその一方で、ループクンド湖のミステリーは、昔の人間のDNA解析の限界を突きつけたような気がする。なぜなら人間は太古の昔から一か所にとどまらず、地球上を移動してきた生き物だ。湖岸の人骨と現代人のDNAを比較したところで、はたしてどれだけ正確に地理的ルーツを特定したことになるのだろう。地中海グループの死者たちが地中海地方からやってきたとは言いきれないのではないだろうか。

湖の死者たちがどこをめざしていたのか、どのように命を落としたのか、なぜ同じ場所で白骨化したのかについてはいまだ闇の中。
スケルトンレイクの謎解きは、はじまったばかりだ。

eyecatch source:Schwiki, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

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