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お墓参りの決まりごとに隠された因果

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みなさんの家にはお墓参りのときの決まりごとはありますか?
私の父の家では独特のルールがあるのです。

目次

決まり事

私の父の地元は温泉場として有名な所で、実家は温泉地の町から遠く離れた山奥にありました。
そんな父の家では、毎年9月のお彼岸の時期に親戚一同揃ってお墓参りに行く習慣があるのです。

普通はお盆に行くものですが、お墓がとてつもない山の上にあり、真夏では暑くて行けるものではないので、少し涼しくなった9月のお彼岸に行くようになったと聞いています。
どれほど山奥にあるのかというと、午前中の早い時間に山の下に集合し、そこから登ってお昼前にお墓に到着。少し下りた所で持参したお弁当を食べ、それから下山して14時過ぎに朝の集合場所に到着するという、もはやちょっとした登山になるくらいの位置にあります。

そして、そのお墓参りにはいくつかの決まりごとがありました。
一つ目は、必ず15時までに山を下りきること。
二つ目は、一家全員揃って参ってはいけないこと。
三つ目は、一人でもはぐれてはいけないこと。

子どもの頃は特に気にしてはおらず、そんなもんかと思っていましたが、ある出来事が起こってから、絶対に守らなければいけないと思うようになりました。

その時のことを

私が小六の時のことです。
その年も恒例となったお墓参りのため、父の実家に帰省しました。

翌日のお墓参りに備えて、早く寝るようにと言われ寝支度をしていると、自宅に残っていた母から電話がかかってきました。
妹が話をし、それから私に代わり、たわいもない話をして切ろうとすると、いつしなく真剣な声色で「お墓参りに行ったら絶対におじいちゃんから離れないで」と言われました。
普段の母とは思えないほどの気迫を感じる言い方に、私は「はい」と答えるだけでした。それから珍しく叔母に代わってほしいと言われ、そのようにし、妹と床につきました。

翌朝、いとこ達も集まり、ちょっとしたイベントのような雰囲気にワクワクしていると、祖父に呼ばれたので駆け寄りました。すると、祖父は私はいとこと一緒ではなく、翌日にお墓参りをする叔母達と行きなさいと言われました。

二つのグループに別れてお参り

お墓参りには一家全員揃って行ってはいけないという決まりごとに乗っ取り、いつも二つのグループに別れていました。
初日は祖父と祖父の兄弟、いとこ達全員のおじいちゃん子どもグループ。
二日目は私の父と叔母達(父の姉と妹×2)と祖父兄弟の嫁達のオジさんオバさんグループ。

私はいつも初日のグループでいとこ達と楽しみながら行っていたのに、突然大人だけのグループと行けと言われ、納得がいきません。なぜなのか訊いても「いいから明日行きなさい」としか言われず、そのうち集まり出したいとこ達も加わって祖父へなんで?なんで?と責め続けました。

すると押し問答が面倒になったのか「絶対におじいちゃんのそばから離れないと約束できるなら連れて行ってやる」と同行する許可が下りました。

二台の車に別れて乗り、お墓のある山の下まで来ると再び祖父に「おじいちゃんのそばにずっといなさい」と言いつけられました。私は二つ返事をし、いとこ達と山を登り始めました。
山道は急な斜面などはなく、ただひたすら緩い坂を登って行くだけです。整備されてはいませんが、踏みならされた道なので子どもでも容易に歩けました。田舎の子どもにとってはこれくらいの道は慣れっこです。

途中で何度か軽い休憩を取りながらお墓に到着しました。
祖父達がお墓を掃除している間、子ども達はそばで見ているだけです。

そこで、ふとあることに気が付きました。
ずっと昔からあるお墓ですが、墓石がやけに新しいのです。そしてよく見ると、傷や欠けがそこらじゅうにありました。
さらに、お墓の周りにはたくさんの石が落ちているのですが、それらのほとんどが割れた墓石のようなのです。

ここには何件かのお墓があるので他もそうなのかと思い、私はフラフラとみんなのいる場所から離れて見に行きました。
他の家のお墓はどれも古い物らしく、墓石も苔むしており、やはりうちの墓石だけが新しい物なのだとわかりました。

あるものの気配

そうしてみんなのいる場所に戻ろうとしたところで、視線を感じました。お墓の奥の山の中から何かが見ているような気がしたのです。よく見ようと顔を上げたところで、物凄い力で腕を引かれました。
「何やってたんだ!離れたらダメだと言っただろう!!」
怒鳴ったことなど一度もなかった祖父が凄まじい剣幕で言いました。私は怒られたショックで何も言えません。
すると、私の両頬に手を当て目を見ながら「見られたのか!?大丈夫か!?」と祖父が言いました。

何のことを言われているのかわからなかったので戸惑っていると、祖父は私を抱きかかえるようにして自分達の墓の前に行き、そのまましゃがみ込みました。
それから、祖父の兄弟といとこ達に自分達を取り囲むようにしろ言いました。

しばらく動くことなく祖父の腕越しに線香台を見ていました。すると、僅かに燃えていた線香が突然大きく燃えて炎に包まれました。驚いて身じろぐと「じっとしてなさい」と小声で言われ、抑え込まれました。
あっという間に線香が燃え尽き、あたりは煙でいっぱいになりました。煙で息が苦しいと感じると、祖父が私を開放しました。

「大丈夫か?」
「うん。なんでもないけど、どうしたの?」
「山を下りるまでおじいちゃんの手を離したらダメだからな」
そう言って手を握られましたが、祖父の手は汗をかいていたのにとても冷たくなっていました。

「見つからなかったみたいだな」
「うまく隠れられただけかもしれないから、急いで下りよう」
「ヒョウソウは鼻がいいから線香の匂いが消えたらまずい」
祖父が兄弟とそう言っているのを私は黙って聞いていました。

それから、みんなが私と祖父を取り囲むようにして、急いで山を下りました。いつもはお弁当を食べるのに、そのときは小休憩すら取らずに一気に下りたのです。
低学年のいとこ達はツラそうでしたが、物々しい雰囲気の祖父達に何も言えず、ただひたすら歩きました。

山を下りきり車に乗ると、私を真ん中にして座るようにいとこ達に言いつけ、家へと戻りました。
車を庭に停めると「もう大丈夫だ」と言って私達を下ろしてくれました。その祖父の表情はいつもの穏和な祖父でした。

お墓での出来事は何だったのか気になりましたが、いとこ達も誰一人口に出しません。なんとなく言ってはいけない空気があったからです。
あまりに早い帰宅に父と叔母達が驚いていましたが、私は「お腹すいたー」と呑気な子どもを演じて、その場を取り繕いました。

ヒョウソウってなに?

その日の午後。夕食の支度の前のゆったりした時間を狙い、台所にいた叔母に私は「ヒョウソウってなに?」と訊ねました。
叔母はお墓での出来事を聞いていたようでしたが、私の問いに驚いた表情をしていました。

「おじいちゃんから聞いたの?」
「ううん。話してるのを聞いただけ」
「お墓では何も見なかった?」
「見てはいない。けど、何かから見られてる感じはした」
「危なかったね。やっぱりあんたは私達と行くべきだったんだよ」

それから叔母はヒョウソウについて教えてくれました。
ヒョウソウというのは正式な名前ではないらしく、勝手にそう呼んでいるだけだそうです。猩々(しょうじょう)が訛ったものではないかと叔母は言っていました。

もう何代前かわからないほどの昔、お墓があった山にいわゆる口減らしとして病人やお年寄りを捨て置いていたらしいのです。姨捨山というやつですね。そんなことを繰り返しているうちに、山に入るとなにかに襲われるようになったそうです。
何なのかはわからない。人間ではない「なにか」に。

襲われるのは決まって父の家の者で、しかも成人した女性だったそう。それを恐れて最低限しか山に入らなくなると、今度は墓を荒らされるようになったらしいのです。
何度墓石を換えても、数年経つと粉々にされてしまう。墓を壊した後は、骨壺も取り出して割砕き、あたりにバラまくのだそう。
墓石が新しかったのに加え、傷だらけだったのはそのせいでした。
それでも直接襲われるよりはマシなので、今でも年に一度の墓参りのときにしか山には入らないそうです。

一つの疑問

そこで一つ疑問が浮かびました。成人した女性しか襲わないはずなのに、どうして私はヒョウソウから見られたのだろう?
それを叔母に訊くと、初潮を迎えると成人としてみなされるとのことでした。

「昨日、お母さんから先月に来たって聞いたよ。だから私達と一緒に行くはずだったのに。おじいちゃんも孫に甘いからねぇ」
「なんでおばちゃん達と行くの?」
「大人の女が山に入るときはずーっと線香を焚くんだよ。線香の匂いでごまかすのさ。そうすればヒョウソウは襲ってこないから」
「なんで大人の女の人だけ襲われるの?」
「さぁね。私もそれは知らないよ。まったく迷惑な話だよ」
忌々しそうに叔母は言って続けました。
「あんたも襲われかけるなんて、なんの因果かねぇ」
「あんたもって私の他にヒョウソウに会った人がいるの?」
「今ここにいない人だよ」
「お母さん?」

母はいつも帰省していませんでした。物心ついたときから、母だけは一緒に行かないのです。親戚一同の集まりなのに。
そして、そのことについて誰も文句を言いませんでした。
父は長男だったので、親戚の集まりにその嫁が来ないとなれば小言の一つでも言われてもおかしくありませんでしたが、何一つ言われたことがないのです。
私もどうしてお母さんは行かないのかなぁとは思っていましたが、昔からそうなっていたので特に訊ねることもありませんでした。
叔母は「何も聞いてないの?」と訊き、私が頷くとさらに話をしてくれました。

母とヒョウソウ

父と結婚してから初めてお墓参りに参加した母は、ヒョウソウのことは聞かされておらず、はぐれないようにと言われただけでした。しかし、初めての登山墓参りは都会育ちの母にはキツく、段々と遅れを取ってしまいました。気付くと前にいた叔母達の姿が見えなくなり、一人で山を登っていたそうです。

すると、突然道の横からガサガサと音がし、ヒョウソウが現れました。
何も知らなかった母はその場に座り込み、恐怖から声すら上げられません。
真っ黒く長い髪の毛のような体毛に覆われたそれは、猿のように四足歩行をしていましたが、猿とは明らかに違う顔付き。爛れた皮膚の中からギョロギョロした大きな黒目が覗き、大きな口が裂けるように弧を描いて不気味な笑みを浮かべていたそうです。

一歩一歩と母の元に近づき、もうダメだと思った瞬間、なぜかヒョウソウの動きが止まりました。
じっと母を見つめたそれは顔をしかめると、何もせずに立ち去ったのです。
それから、母が付いて来ていないことに気付いた叔母達に発見され、墓参りすることなく下山しました。

「どうしてお母さんは襲われなかったの?」
「まだ気付いてなかったんだけど、お腹の中にあんたがいたんだってさ。ヒョウソウは男と子どもは襲わないから、お母さんは助かったんだね」
そんなことがあったなんてまったく知りませんでしたが、母が帰省しないことに納得しました。

「お母さんは一度ヒョウソウに会ってるからまた襲われるかもしれないでしょ? だからこっちには来ない方がいいっておじいちゃんが言って、あれから来てないんだよ」
「じゃあ私ももう来ない方がいいの?」
「どうだろうね。本当にヒョウソウに見られていたのかどうかもわからないし、おばちゃんはなんとも言えないよ」

それから夕飯の支度をするからと話を切り上げられ、私は台所を後にしました。まだ訊きたいことはあったけれど、父や祖父に訊くのはなんとなくできませんでした。

あれから

あれから私は一度もお墓参りはしていません。
今ではあの山の上に墓があるのは父の家だけとなったそうです。
本当ならば行きやすい山の入口近くに下ろしたいそうですが、墓を襲うヒョウソウも一緒に下りてきては困るので、不便ですがそのままにしているらしいです。

いったいなんの因果で、父の家の女性だけを襲うのか。
そもそもヒョウソウとは何なのか。
訊いたところで誰も答えられないと思うので、訊けずにいます。

※画像はイメージです。

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