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サガラ~Sの同素体~ 1巻を読んだ

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「21世紀 日本_見えない戦争は既に始まっている」と、帯に書かれている文言は、ちょっと衝撃的。
ノンフィクションライターの経歴を持つ真刈信二氏の原作、そして巨匠かわぐちかいじ氏の作画という待望の“諜報物”です。

冒頭、2013年の福岡で、一人の警察官が麻薬組織の一斉捜査で銃弾を受け、重傷を負いました。
彼は卓越した身体能力と判断力を持ち、過去にも職務規定を逸脱しながら人命を助けるという活躍を見せていたのです。
その働きを警察上層部に見込まれて、彼はイスラエルや英国へ単身送り込まれ、実戦並みの厳しい訓練を受けていました。
そんな彼が日本に呼び戻されることになったのは、まさに現代、2018年秋だったのです。

彼の本名は明かされていません。
その素性も何もかもが謎のまま、読み手は物語の世界にぐいぐいと引き込まれていくのです。

目次

サガラ

彼は自ら『サガラ』と名乗ることを決めました。
それは、インドの神話に出てくる『海を創造した王』の名でした。
身分も本名も、全てを秘匿された“幽霊警察官”として、国際社会、そして日本国内にうごめいている謎の武装組織の全容と目的をつかみ、日本という国家を存続させ、守るために戦うことを決意したのです。

サガラ本人に関する過去は、警察官であった、そして並外れた能力の持ち主だということ以外は全てが謎、むしろ白紙の状態でそこに存在しています。

しかし、彼が追い求めることになる男___成瀬完治の姿は克明に描かれています。
元・陸上自衛隊三等陸佐で、防衛大の学生であったころから指揮官としては最高級だった、という人物です。
彼と、彼に関係する延べ200人を超える日本人がイラクを始めとする紛争地帯で武装・戦闘訓練を受けている、という事実と、彼の父親がオーナーを務める成瀬産業という巨大企業がそのバックアップを行い、何事かを企てている、と日本の警察組織は考えていたのです。

彼らを抑え、その組織を瓦解させるためにサガラを育てた、と言っても過言ではないのでしょう。
何故なら、成瀬とサガラの間には不可解な共通点があったのです。

警察官として働いていた頃から、サガラの腕には年代物のロレックスの時計がありました。
彼が撃たれた小倉の港で、その文字盤に埋め込まれたダイヤが、被弾の衝撃波で赤く光った、というのですが…それは亡き父親の形見だったのです。
それと同じダイヤが成瀬の手首に光ったのを、戦場を映した動画の中に見出したサガラは複雑な表情で凝視していました。
彼らの間には、深くて暗い縁がある…赤い光はその予兆だったのです。

さて、そんなサガラには成瀬に絡む新しいミッションが命じられました。
英国での訓練と教育により得た保険の知識を活かし『(英国)王立保険リスク査定協会東京事務所』の“塚崎”という名前で、脅威の牙城である成瀬産業に切り込むことになったのです。
彼が訪ねた相手は成瀬産業の取締役・来島というビジネスマンでした。
来島はその会社の“業務”として、企業人の常識の中で成瀬完治とそのシンパに関する仕事を行っており、それがまさか会社そのものを『テロ支援団体』に貶める危険があるとは、その時まで予想していませんでした。
彼は自らそれを望んで行っていたわけでなく、また、それが分かった時点で『仕事としてベストを尽くすが、私は現実の社会と折り合いをつけてやっていく』と宣言をし、自分が成瀬のシンパとは立場を違える人間であるのだときっぱり言い切ります。
英国の王立保険リスク査定協会とは、世界の保険の総本山です。
そこに目をつけられたとなれば、世界中で成瀬産業のそのものが立ち行かなくなるのです。

成瀬完治の部下らは、指揮官である完治だけでなく、父親である成瀬会長、そして日本政府の中にも賛同する勢力があるのだと言いますが、来島自身にはその全貌がつかみかねていました。
かれもまた、会社側の駒の一人にすぎないのです。
しかし、来島がそのチームの実働部隊が使用するはずだったチャーター便をキャンセルしたことから、その実働部隊がイランから撤収できなくなるなど、影響が出始めました。
成瀬完治はその“異常”を即座に察知し、危機的状況に陥った部隊を救出するために自ら戦地へと赴くのでした。
作戦への支援者に『司令官は前線に立たぬもの。それでも行くのが成瀬完治…か』と言わしめた成瀬は直後にイランの最前線に降り立ち、本来の作戦を破棄し、アフガニスタンへと活路を見出して行ったのです。

サガラ=塚崎はその流れの表の事象を、政府などから公表された情報からつぶさに読んでいましたが、その裏側の動きを探っていたところで成瀬産業の来島から接触を受けました。

来島は、自分が手を引き、成瀬の部下らを撤収させるためのチャーター便をキャンセルしたことで彼らがひどい状況に陥るだろうことを予想し、企業における立場と日本人としての人道のはざまで板挟みになっていたのです。
来島が語る言葉の端々から、成瀬産業だけでなく、外交ルートに至るまで成瀬らの組織が侵食していることをサガラは悟りますが。
来島本人と、その家族の身の安全を守るために必要な情報を与える代わりに、組織の全貌を探ることを依頼したのです。
百戦錬磨のビジネスマンとはいえ、来島は諜報活動や反社会思想によって行動できる人間ではなく、既に現状は彼の予想をはるかに超えたところにいるのだと、ようやく気付き始めていたのでした。

成瀬に思いを巡らせているサガラの前に、イスラエルの日々を共に過ごした懐かしい男が現れました。
シシ・アシュケナージという彼はかつてサガラのために連絡要員として協力してくれていた人物です。
そして今、サガラの目の前に提示された情報は日本を含む数か国に成瀬が影響力を持っていること、そして今、サガラが行っていることでその緻密に組み上げられてきた計画にひびが入ったのだ、というのです。
サガラは、日本の政府と社会の裏側に人知れず深く根差してうごめいている組織を突き止め、彼らを取り除いても日本が国家として成立していけるのかを確かめることこそが、自らに課せられた責務なのだとシシに語るのでした。

みどころ

主人公がミステリアスです。
名前も経歴も謎。
ただ、警官として突出した働きがあったというだけの彼でしたが。
全ての経歴を決して臨んだ『幽霊警察官』という道をひた走っているのです。

何が彼にそうさせているか、その動機すらもまだ何も見えませんが。
初版一巻の巻末ページに、見開きの予告がありました。
サガラの父は、イラクに派遣された自衛隊員だった、というのです。
その『父の死の真相』こそが、サガラが追い求める真理なのかもしれません。

逆に、成瀬完治は物語の当初から経歴や家族についても全て揃えて公開されているような状態です。
表紙にはサガラと成瀬の二人の顔が並んで描かれていますが、そのあまりに対照的な立場や、それぞれの描き方にもかかわらず、どこかに共通する匂いが感じられるのです。
まだまだ物語は始まったばかりで、来春に発行される予定の二巻で少しはサガラのバックボーンが描かれるようになるのだろうという予感がありますが。
もしかしたら本人たちがあずかり知らない親の世代からの因果や、1990年代以降激変してきたリアルな社会・国際情勢が絡み合ってくるのかもしれない、と思っています。

しかし、何よりも『沈黙の艦隊』以来次々と大作を手掛け、しかも広げた風呂敷をきちんと畳むところまで描きつくしてくださるかわぐちかいじ氏の新作です。
そこに、数々の謎めいた物語の原作を送り出してきた真刈信二氏のテイストが絶妙にブレンドされ、予測不可能な展開に、これから恐らく長い間翻弄されることになるんだろうな、という嬉しい期待があります。

ねがわくば。
これが全て虚構であり。
『平和ボケ』と言われたとしても、人々が安全に暮らしていける日本が存続してくれますように___と平成が終わるこの時代に祈らずにはいられません。

(C) サガラ~Sの同素体~ かわぐちかいじ 真刈信二 講談社/モーニングコミックス

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