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サガラ~Sの同素体~ 2巻を読んだ

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二人の男…サガラと成瀬完治が国をまたいで対峙し___その腕には赤く輝く同じ石がはめ込まれた腕時計が。
運命を感じさせるプロローグから、動き出すところにやっと差し掛かってきました。
一足飛びに舞台は中東、そしてインドへと移り変わっていくのです。

目次

東京

東京。
話題のアニメ映画が公開されたシネコンに、家族連れを装った男たちが集います。
彼らは国交省や警察庁などの官僚やシンクタンクの若手幹部、そして憲法学者といったラインナップであり、真藤官房審議官からの情報でサガラと堂殿が防犯カメラの映像をチェックしただけでもかなりの人数がそこに集結していたのです。
そしてビルそのものが成瀬完治の父親の会社・成瀬産業の商業施設であり、日常と隣り合った場所できな臭い陰謀が語られている様子がみてとれます。
成瀬完治が率いる組織を“26(ふたじゅうろくまる)”と称して追い始めた真藤審議官とサガラでしたが、その組織が軍事クーデターだけでなく、日本を再編していくために必要な独自の憲法草案も作り上げているのではないか、という事案も浮上してきたのです。

成瀬完治は紛争地帯で銃撃戦を経てアフガニスタンの国境を徒歩で超え、部下たちと合流するに至りました。
彼らのロジ担として日本国内から支援を行っていた成瀬産業の国際事業本部長・来島は、企業としての成瀬産業を守るために「現実の社会と折り合いをつけていく」というポリシーと、上からの命令の板挟みという苦境に立たされていたのです。

来島をマークしていた真藤審議官は、彼がとある特殊な建物に入ったことに気づきました。
「春霞会館(しゅんかかいかん)」と呼ばれるそこは霞が関の関係者や一部の政治家といったステイタスの者しか入ることが許されず、また、セキュリティも厳重な場所でした。
サガラは議員秘書に扮して潜り込むと、来島が面会している人物を探りあてたのです。
それは“26”に大きく影響を及ぼす人物___外務省の富岡岳史国際協力局長でした。
堂珍曰く、彼の好物は“権力”。
アフガニスタンや中東の紛争地帯にコネクションを持っているという彼に対し、サガラは“王立保険リスク査定協会の塚崎”として接触しました。

富岡はスノッブな雰囲気の男でした。
“塚崎(サガラ)”に興味を持った彼は「日本にも、外務省を母体にしたインテリジェンス部門を創設しようとの声がある」と語ります。
サガラは、そんな彼に成瀬完治の名前を出して反応を見ました。
来島が緊張を増す中で、富岡は在外公館にはイレギュラーな方法で正規のパスポートを得る仕組みがあるなどと語り、暗に成瀬らを支援していることや彼の現在の居場所のヒントをも与えていったのです。

富岡は、サガラ(塚崎)を注目すべき人物であると認識したのでしょう。
「(成瀬は)快適なホテルのプールで、冷えたビールでも飲んでいると思う」
その時期、該当する都市は、インドのデリーのみだったのです。

その頃、成瀬産業の一室では“26”のメンバーが塚崎の身元の照会を始めていました。
組織のシンパは警察の中にも存在し、その保有するデータベースにもアクセスする手段を持っていたのです。
真藤とその部下の穂積巡査部長は先回りしてデータを書き換え、危機的状況を回避していました。
彼女は古い雑居ビルの一室で特命を受けて真藤のために働いていたのです。
穂積は的確にデータを操作し、サガラが成り代わっているカバーの人物像を書き換え、サガラの警察官としてのデータを隠蔽し、事なきを得た後に、真藤に一つ質問をします。
「本物の“塚崎さん”は、どうしているんですか?」
真藤は「優秀だが…ギャンブルに目がなく、マフィアに借金を作った」と言い、その借金の清算をすることと引き換えに塚崎自身も別の身分を得て、ケイマン諸島で隠遁生活をしているのだと答えました。
“彼”が生きていることを知って穂積は安堵の表情を浮かべました。

その頃、相楽は新宿御苑で旧知のイスラエル情報部員・シシと会っていました。

かつて訓練を受けていたエルサレムを去る日、サガラはとあるダイヤモンド商に父の遺品だったロレックスに埋め込まれた石を見せたのです。
昔、テルアビブにいたダイヤ研磨の名人にとある男が持ち込んだダイヤ___37粒に割られたうちの8個だけが銃撃の振動で赤く発光する“ブラッドクロスダイヤモンド”になった、という話を聞き、その一つがサガラの手に、そしてもう一つが成瀬の腕時計に埋め込まれていたことが判明しました。
研磨を依頼した男は“キングダム”。
それはまさに、ギリシャから紛争地帯に飛ぶ成瀬を支援した人物でした。
サガラは彼に関する情報を得るためにシシに協力を依頼したのです。
J.P.キングダム。
彼は中東やアフリカに影響力を持ち、90年代にはテロ支援者として知られた男でした。
サガラは父の死の謎を知りたい、そしてこのダイヤがなぜ自分にもたらされたのかを知りたいのだとシシに語るのです。

ほどなくして、某国の幹部が夫人を伴って日本を訪れて、堂々と観光している、という情報がサガラのもとに舞い込み、それを外務省の富岡にリークしました。
富岡は「“未確認情報”として報告を受けている」と塚崎(サガラ)に答えましたが、内心は複雑でした。公安側や、海外の保険会社というルートがつかんでいる情報を外務省がきちんと把握できていない、そんな事態は見過ごせない状況だったからです。
堂殿は“26”を称して、まるでミルフィーユのようだ、と言いました。
成瀬らのように海外で戦闘を請け負う者、実務を担当する中堅幹部、局長クラス、と幾層にもわたってミッションを遂行しているが、上級者になるほど手厚い“保険”をもとめて策をめぐらしている、と。
そんな富岡にとって、サガラ=塚崎、ひいては“英国王立保険リスク査定協会”の情報量とネットワークは大変魅力的にうつったのです。
サガラが呼び出されたホテルには財務省の管財局長、総務省の官房長、防衛相の防衛政策局長らが富岡とともに待ち受けていました。
彼らは富岡が主宰するグループの共同代表であると告げ、塚崎(サガラ)が成瀬の名を知っていることも前提でするりと本題に入っていくのでした。
彼への興味は、そのまま“密入国”の情報元につながるものでした。
彼は、その詳細を語ります。
某国の要人らは、国外へ出るときに必ず中国の北京を経由して航空機を使うのですが、その際、偽造された他国のパスポートを使うのだと。
“情報”としては別人としてそこですり替わるのですが、顔認証のシステムは確実に本物の彼らの動きを把握しフォローし続けていくのです。
とある国は、それを監視する人員を専門に配置しており、彼らは世界中どこにいても追跡されていて、サガラはその“国”と情報を共有するコネクションを持っているのだと、富岡らは認識したのです。
彼らはサガラに言いました。
「日本のために、働く気はないかね?」
彼らは、今目の前にある切迫した状況をサガラに語り、協力を求めました。
富岡は歴史の教訓として、かつてインドがイギリスに蹂躙され支配されるに至った内乱の話を例に挙げ、日本が国際社会から取り残されることの恐れや自らが起つことの理由を語るのでした。

会合を終えて、サガラは真藤にその様子を報告していました。
真藤は、その時のメンバーの中に“26”の頭目がいるのではないかと考えていたのですが、サガラは直感的に「彼らは、誰かの指示で動いている」と考えていたのです。
富岡らの目的はクーデター後の官僚機構の設計、そして人事権の奪還という部分にのみ突出しており、国のトップを司ることではなかった、と報告します。
“蛇の頭”の気配はまだ見えておらず、しかし、そのクーデターは現在の衆議院の任期中に起こる可能性が高く、もし国会の解散があればその時期は前倒しになる可能性も高いのです。
サガラは、自ら成瀬に会って、その“蛇の頭”の存在を確かめたい、と真藤に進言、単身インドに渡航することを願い出るのです。

その決意を知った真藤は、サガラをとあるビルの一室に導きました。
そこで彼は自らの容貌を変え、また次の人物に成り代わることになったのです。
頬に傷をつけ、骨格を偽装し、認証装置すら騙せるレベルの“整形”を施したサガラ。
その顔で作られたパスポートにあった名前は垣内 鋼(カイト ハガネ)。
日本人でしたが、インドを中心に中東や北アフリカを結ぶ送金ネットワーク“ハワラ”で働いていた人物です。
「ハワラ」とは「信用」を意味し、裏社会に深く根差したそのシステムで世界の半分をつないでいるとも言われているのです。
真藤が手渡したのは一本の古いカギでした。
「デリーに到着したら“ミルクマン”に会え」という指示を与えられたサガラ=カイトはそのまま成田に向かい、インドへと発ったのです。

機内で、彼は父親が亡くなった時のことを回想していました。
彼自身が警察官として任官した頃、陸上自衛隊に勤務していた父親が、イラクで殉職したのです。
その部隊が帰国し、行動を共にしていた部下らが弔問に訪れたのですが、誰一人、父の死の真実を語ることができませんでした。
その頑なさに、サガラは関係者の箝口令を悟り、背後の大きな謎を感じ取ったのでした。
その折に、彼はロレックスのことを彼らに問うています。
古い腕時計はイラクから父親の遺品としてもたらされたのですが、息子のサガラ自身、父親がそれを身に着けていた記憶がなく、そして部下たちからも何の情報を得ることもできず…この事件が、今に至るまで彼を突き動かす原点だったのです。

インド・デリーの雑多な街並みに“カイト”として降り立った彼は、露天でミルクを商う老人を尋ねました。
粗末な服に素足、小柄ではありましたが、眼光は鋭い…そんな彼こそがハワラを司る“ミルクマン”でした。
カイト(サガラ)は彼に古びた鍵を手渡すと、ミルクマンは彼を街中のとある場所に導きました。
そこは“貸金庫”だというのです。
ミルクマンが古いカギを示すと、小さな袋が手渡されました。
中から出てきたのは見事な大粒のダイヤです。
部下が検めて「全部あります」と告げると、ミルクマンはカイトをおおらかに抱きしめて言いました。
「今日から俺をダダ(じいちゃん)と呼べ…俺は、お前の家族だ」

ミルクマンはそんな組織を統べる身でありながら、路上でのミルクの商いを続けていました。
それが彼のカーストだから、というのです。
彼はカイトに告げました。
「俺がお前のボス(真藤)と取引した通り、俺のネットワークはお前の物だ」

サンジャイというミルクマンの部下の若い男がカイトをデリーの街に連れ出しました。
車と人があふれる街並みを抜けながら彼は「ミルクマンの”ネットワーク“は凄いんだ」と自慢げに語ります。
デリーでの人探しは朝飯前___その言葉通り、カイト(サガラ)の前に、その人物…成瀬完治が現れたのでした。

カイトは引き留めようとするサンジャイを抑え「挨拶をするだけ」と言って雑踏に足を踏み入れました。
悠然と歩く成瀬の背後には不穏な空気をまとう男らが尾行していたことに彼は気づいたのです。
すれ違った瞬間、カイトは成瀬に声をかけました。
「アンタ、尾行がついてるぞ…」
成瀬は驚く様子もなく「知っている」と視線を合わせることもせずにすれ違っていったのです。
二人の“接触”はあっけなく過ぎ、成瀬の滞在先を確かめたカイトはミルクマンのもとで仕事をするようになりました。

ミルクマンは、本物のカイトのことを語りました。
ハワラを介してベルギーのアントワープに送ったダイヤモンドが消えるという事件が三か月前に発生、運び屋らも消されるという異常事態に、ミルクマンは信頼していた垣内鋼(カイト)を現地に派遣したのです。
しかし、彼も重傷を負い、倒れました。
真藤とその配下の者たちは、世界中の在外公館を経由して情報提供者・協力者を探し求めている中でカイトをみつけ、それ以前に接触を図っていたのです。
その彼が真藤に助けを求め、その病床でミルクマンに最後の言葉を真藤に託したのです。
ほどなくして亡くなった彼は、真藤との約束でその死を三年間隠し、その間にパスポートの名義を貸すことと引き換えにして日本の家族のもとへ帰すことになった、というのです。
そのプロセスで、真藤は鍵をカイトから受け取り、ミルクマンはそのカギを持って現れる者を新たな“カイト”として迎えると決めていたのです。

ダイヤを取り戻すために尽力してくれた真藤、そして日本の警察への恩返しとして、ミルクマンは新たな“カイト”に協力することに決めたのだと言います。
その信頼の上で、カイトは“デリバリー”の仕事を受けたのです。
一抱えもある袋を運んだ先には一人の老人が待っていました。
袋の中身は、彼の幼い孫娘。
何者かに狙われた彼女を救い出すために、老人がミルクマンを頼ったのです。
追手に対し、カイトはミルクマンの名を告げて少女を奪い返そうとする男らを撃退したのですが、そこに居合わせた男が手を貸してくれたのです___それは成瀬でした。
この出会いは、ミルクマンによってつくられた“再会”だったのです。

成瀬が興味を示したのは「ミルクマン」の存在でした。
カイトはハワラとミルクマンについて語り、自分がその配下で働いているのだと話すと、成瀬は「貴方にも興味があるが…ミルクマンにはもっと興味がある」と言って会わせてほしいと願うのです。
社会を動かす人に会い、その力に触れたいのだ、と彼は言いました。

サンジャイの導きでミルクマンのプライベートな住まいを訪れた成瀬は彼に握手を求めますが、ミルクマンはインド式の流儀で合掌をするのです。
「育ちが良いな…自分の運命を疑ったことがない男の顔だ…」
ひとしきり会話を交わすと、ミルクマンはカイトと成瀬を見比べて評したのです。
「カイト、お前は育ちが良くない。俺と一緒だ…二人は正反対だ、磁石の+と-みたいにな…だから、二人は似ているのか」

磁石は、+と-なら接続できる…だが、+と+なら強く反発する…我々はどちらかな…?

成瀬は意味深な言葉を残し「また会おう」と告げて去って行ったのでした。

みどころ

舞台が日本からイスラエル、ギリシャ、アフガニスタン、そしてインドへと大きく動きました。
ちょっと前のことが全て吹っ飛びそうな勢いで物語は進んでいきます。

春霞会館のモデルとなった建物は、東京の九段会館です。
2.26事件の歴史を刻む重厚で瀟洒な建物でしたが、残念ながら東日本大震災で被害を受け、現在はクローズされています。
そこを舞台にして交錯していく人間同士のつながりというのは、この国のトップに近いところを表しているようであり…また、後半で語られるインドの“ミルクマン”の組織との対比が興味深いなと感じました。

社会の底辺をも含み張り巡らされた人の“信用”のネットワーク。
貧しいものも救い、独特の倫理観で動くそのハワラは、一朝一夕に積み上げられるものではなく、ミルクマンの老成した姿に重なるようにそこに存在していると描かれています。
前半で、富岡らが比喩としてイギリスに蹂躙され植民地化されたインドの話をしていましたが。
しかしそのインドでも逞しく生きている人々の姿を重ねることで原作者の真刈さんは何某かの主張を組み込んでいるようにすら感じます。
成瀬ら“26”のメンバーが国民に見えない形でこの国を動かし、変えていこうとしているのと真反対に、民に根差す形で社会を動かしていくハワラ。
その対比は、磁石の例えになぞらえて成瀬とサガラを語っている様子にもつながりますね。

ミルクマンの言葉はさらりとしていながらとてつもなく重たいものを含んでおり、まるで修行僧の語り口のようです。
何もかもが対照的な二人の邂逅。
インドの地から、さて、次はどこに物語は飛ぶのでしょうか…?!

(C) サガラ~Sの同素体~ かわぐちかいじ 真刈信二 講談社/モーニングコミックス

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