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転覆サンマ

遠野物語ではその昔、馬と契った娘が「おしらさま」、蚕の神になったそうですが、うちの地元にはかつて蛇と交わり、木に登る馬がいたのだとか。大いに怯え、怖れた村人はその皮を逆剥ぎにして淵に投げ込むと、たちまち洪水になった名馬里ケ淵(なめりがふち)の伝説です。

蛇と馬との怪奇はもとより、蛇の神秘性や、馬も竜に繋がる、”水”に関わる災害の示唆は興味深く。そもそも山中のささやかな渓谷、それが滝口に向かって軽くゆったりと湾曲して淵となった部分、降雨があれば多少は保水のナメリ・ヌメリ(=滑り)ですから、同時にその分だけ決壊の危険を孕んだ地勢だと教授してくれているのではないかと、そんな私見はさておき・・・。

我が家では幼い頃、食膳の焼きサンマなど、「ひっくり返して食べてはいけない」と、「獲った漁船が転覆するから」と、元漁師である父の戒めでした。

茨城の北部、漁師町のジンクスの類だったのでしょうが、厳命されればそら怖ろしく、拙いながらも精一杯、上身から中骨を外して懸命に努めた箸使い。
なにしろ、昭和一桁生まれの父を含め、漁師の本家筋には刺青の近親がちらほら。「船神様を敬い、船方の魔除け」とやら以上に、「もし海に落ちて水死とか、二三日もすると魚に肌をつつかれて誰だか分からなくなるし、彫り物が証拠に」なのだとか。

しかも「魚も柔らかくて美味い目ン玉とキンタマから食い散らす」などと聞けば想像するだにおどろ、間違っても自分がそんな転覆の原因になるようなことだけはと。
もちろん迷信でありゲン担ぎでも、つまりは食事の躾やテーブルマナーの訓えだったのかも。かくしてビビリまくったおかげ、人前でとにかく食べ汚すような不様さだけは免れているはずですし、この転覆サンマ、子や孫も素直に慄いて欲しいものです。

ペンネーム:たんぼマスター
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