無料物件についてきたおまけ・・・それは竹藪。
いつか都心を離れて、のどかな田舎に住みたいと考えていた。最近は無料物件もたくさんあって、条件はそれぞれ違う。
定年退職まえの2年のあいだに、終のすみかを探した。
のどかな山間の里
山梨県の山に囲まれたのどかな山間の里、築80年はそれほど古くは感じない、少しリフォームすれば暮らせる。
庭付きと図面にはあったが、家のまえは雑草が生い茂る、いかにも放置された土地がある。
雑草を刈ればいい土地になる。
裏には竹藪がある、背の高い竹は山肌に張り付くように生え、屋敷の裏側を塞いでいる。
この場所に日除けをつくり、小さな池に魚でも飼えばいい。
他にも幾つか物件を見て歩いたが有料物件も含めて、ここに決めた。
妻と2人ののどかな田舎暮らし、多少偏屈だと思われても周囲とはできるだけ関わらず、静かに暮らしたい。
ある晩のこと
ある晩、妻が奇妙なことを言い出した。
「あの橋のたもとの雑貨屋に双子が授ったらしいの。」
「でも、この村では双子は縁起が悪いから、お産婆さんが、産まれた赤子のひとりの口をそっと塞ぐらしい。」
「でも、今回はよそから来た気が利かない若い産婆で2人が産まれて来たんだって」
どこで仕入れて来たのやら、私はため息をついた。
「関わらないことだ」
よそ者が噂話なんて、首を突っ込むものじゃない、本来なら聞き捨てならない話だ。
「ねえ、ねえ、あなた。」
「あそこでよく釣りをしているお年寄りが亡くなったそうですよ、夜中にこっそりと網を打ったのを土地の神様に見られて、川に引きずり込まれたんですって」
台所の椅子に座って、なんでもないことのようにこんな話をする。
「おまえ、どこから仕入れてくるんだ」
「だって、ここに座っていると、聞こえて来るの、ほら」
どこから知ったのか?
妻が口元にしーっと指をあてた、ザワザワと裏山に風が渡る音がする。
妻は立てた指を外さない。
しばらく風の音に耳を澄ますと、微かにボソボソとささやく声が聞こえる。
『おおばらのむねおさんの嫁は困ったものだよ』
『学校の若い先生を家に引き込んで、仲良くやってるらしいよ』
『そんなら近々駆け落ちと洒落込むんじゃないか』
風の音に混じり途切れ途切れに聞こえてくる。
「ね、誰が話しているのかしら、見に行くわけにもいかないでしょ」
私は翌日、裏の竹藪にもぐった。
小さな石積みの祠を見つけ、お酒と、饅頭を備えて、そっとしておくことにした。
「誰かがお備えものをしたんですって、喜んでるみたい、笑い声で賑やかだったわ」
妻は、裏山で近所の誰かが噂話に興じていると思い込んでいる。
竹藪は
なれてしまえば、無料物件にはすごい恩恵がついていた。
『あそこの子が行方不明のだって、なにをやってるんだか、足を滑らしてひと晩、崖下にうずくまったままだ』
私は家を飛び出して崖下を見て回り、夕方、7歳ほどの女児を見つけた。
警察に連絡して、背負って山道を下り、ついでに病院まで運んだ。
女児は遊んでいて崖からすべり落ちただけ、軽い捻挫と打撲ですんだ。
私は山菜取りをしていたことにした。
裏のガラスを防音のアルミサッシに変えた、妻が噂でもしたら大事になる。
私はあずま屋を作り、池を眺めながら、ゆっくり老後の楽しみに興じている。
※画像はイメージです。
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