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「進撃の巨人」の元ネタ!ソニー・ビーン一家の人喰い伝説とは

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「深淵をのぞくとき、深淵もまた、おまえを見つめ返している」という警句をどこかで見聞きしたことはないだろうか。

元FBI捜査官で、プロファイリングという捜査技術を世界中に知らしめたロバート・K・レスラー氏が講義で好んで引用した言葉であり、凶悪犯罪関連の書籍や創作作品にもこの警句を意識したフレーズがたびたび登場する。

オリジナルはフリードリヒ・ニーチェの『善悪の彼岸』第146節。「怪物と戦う者は自らが怪物とならぬよう、心せよ」につづく名句だ。日本には「ミイラ取りがミイラになる」という直球のことわざがある。

いけないこととわかっていても、「禁断」という響きに惹かれてしまう人間の性はいつの時代も変わらない。
残虐すぎるという理由で封印された事件もあれば、まだ世に知られていない狂気もある——そう聞くと、ちょっとだけのぞいてみたくなるのが人の性分というものだ。ただし安全地帯からという条件つきで。
人が物語を紡いできたのは、こうした欲望のせいかもしれない。この世の禁忌を神話や伝奇、お伽噺にひそませて。

諫山創氏の『進撃の巨人』に「ソニー」と「ビーン」と命名された2体の巨人が登場する。
元ネタは、スコットランドの伝説的食人鬼アレクサンダー・“ソニー”・ビーンとその一族である。

目次

役所に駆けこんできた男

時は15世紀。現在のイギリスとフランスの国境が決定した百年戦争の真っただ中。
スコットランド南西部のバナーン・ヘッドの海岸で、ここ20年あまり、旅人が次々と消える不思議な出来事がおきていた。1000人(諸説あり)もの人間が行方知れずになるという、謎の大量失踪事件。
事態を重くみたスコットランド国王は、犯人とおぼしき者を片っ端から捕らえては処刑するのだが、解決の兆しはいっこうにみえない。もはや打つ手なし。人々がそう思いはじめたころ、ようやく真相が発覚するときがやってくる。

ある夜、一人の男が血相を変えてグラスゴーの役所に駆け込んできた。見ると、着ている服はズタズタに引き裂かれ、全身は血だらけ。馬を飛ばして命からがら逃げてきたと言うのだが、興奮してわめきちらすばかりで要領を得ない。「化け物の群れ」「妻が食べられた」といった言葉が男の口から矢継ぎ早に飛びだしてくる。
手渡されたブランデーをあおって大きく息をついたあと、いくらか正気を取り戻した男は、つい先刻おきた信じがたい出来事を役人たちに話しはじめた。

妻と村祭りを見物し、二人で愛馬にまたがって家路についていたときのこと。
海辺の道にさしかかると、岩陰から怪しげな人影がぬっと現れ、行く手をふさいだ。その男が合図をすると、四方の物陰から恐ろしい異形の者が次々と姿を現した。
彼らの風貌は、どう見ても普通の人間ではない。神父の服を着た魔女のような女。女性の下着を身に着けた男。マントを羽織った大男。大人もいれば、子どももいる。なにより恐ろしかったのは、その目が異様な光を放ち、すさまじい殺気をみなぎらせていたことだ。

(殺される……!)

馬も危険を察知したのか、大きくいなないて立ち往生。つぎの瞬間、化け物どもが棍棒を振りかざし、奇声をあげながら襲いかかってきた。
男は剣を抜いて応戦するが、多勢に無勢。たちまち妻が馬から引きずり下ろされてしまった。地面に倒れ込んだ妻に、彼らが一斉に群がっていく。一人が刃物で喉を切り裂き、鮮血をすすりはじめた。腹を裂いて内臓にむしゃぶりついている者もいる。

「エイドリアーン!」

妻はそれきり動かなくなった。
化け物の集団は、ざっと40人ほどだろうか。男が覚悟を決めたそのときである。神の助けか、村祭りの帰りらしき一団がこちらに向かってくるのが見えた。とたんに化け物どもは慌てふためき、妻の亡骸を引きずりながら、蜘蛛の子をちらすように逃げていった。男は無我夢中で馬を走らせ、命びろい。異形の集団は、狙った獲物の逃亡を許すという大エラー。

「なるほど。だいたいの話はわかった。ところで、きみの名を聞くのを忘れたよ」
「ロッキーです」
「では、ロッキーくん。ひとつ聞くが、神に誓って今の話は真実だと言えるかね?」
「誓いますとも!」

戦慄の洞窟探検

「うわーっははは! そうか、盗っ人どもはようやく尻尾をだしたか。手こずらせおって、成敗してくれるわ。ロッキーとやらにも同行せよと伝えるのだ、よいな!」
報告を受けたジェームズ1世は高笑い。その気合いの入りようは尋常ではなかった。ただちに400名からなる大捜索隊を組織し、自ら隊を率いて、盗賊団の捕縛に向かったのである。

現場は奇妙な形をした岩が複雑に入り組んだ海岸だった。鉛色の波が単調に打ちつけている。
ロッキーは青ざめた顔で、ここで奴らが襲ってきました、ここで妻が殺されましたと王様に説明していたが、そのうち感情を抑えきれなくなったのか、妻の名を叫んで泣き崩れてしまった。

しばらく捜索をつづけていると、どこからか鼻をつく悪臭が漂ってきた。腐敗臭のような、今まで嗅いだことのない奇怪な匂い。どこから漂ってくるのだろう。みんなで匂いのするほうへ進んでいくと、ある地点で猟犬たちが狂ったように吠えはじめた。
犬たちに導かれて歩いていくと、ぽっかりと口をあけた大きな洞窟があらわれた。洞窟の入口は、満潮時には海面の下に隠れてしまうらしい。そのため人目につきにくく、根城にするにはうってつけの場所だった。異臭の発生源は、ここだ。まちがいない。
踏み込むのは相当の勇気がいったが、さすがはジェームズ1世である。兵士たちは恐る恐る王様のあとにつづく。つづかないわけにはいかない。

死臭と排泄物と血生臭さが入り混じった、すさまじい異臭が漂う洞窟内。松明の明かりで、頭の上に人の腕や足が吊るされているのが浮き上がる。樽に詰められ、塩漬けされた人肉らしきものあった。誰もが恐怖に凍りつき、言葉もでない。松明のパチパチという音が不気味に響く。
長年にわたって繰り返された凶行の証拠は、至るところに確認できた。放置されて腐った首と骨。内臓を抜かれて吊るされた何十体もの肉塊。解体に使ったとみられる血のついた鉈(なた)と包丁。旅人から剝ぎ取った服、帽子、靴。そして、エイドリアンの変わり果てた姿。屈強な兵士ですら、その光景を目の当たりにしてしたたかに吐いた。王様も人目をはばからず盛大に嘔吐あそばされた。

■ 洞窟前に立つソニー・ビーンと人間の脚を抱えた一族の女
Unknown sourceUnknown source, Public domain, via Wikimedia Commons

人喰い族との戦い

化け物どもは洞窟の奥に集まっていた。彼らは捜索隊の姿を見るや、獣のようなうなり声をあげて威嚇し、次々と飛びかかってくる。凶暴きわまりないくせに、松明を向けると嫌がって後ずさりする。前代未聞の人喰い族との戦いがはじまった。

しかし、さしもの彼らも完全武装した兵士にはかなわない。まもなく捜索隊は盗賊団を制圧、化け物どもは一人残らず捕縛された。洞窟を棲家としていた異形の者は総勢48名(50名とも)。

次々と洞窟から連れ出される彼らの姿は、まさに奇怪であり、醜怪だった。盗賊団のわりには女も子どもいる。しかも赤ん坊までいるではないか。この集団が旅人をさらっては洞窟で解体し、食べるという忌まわしい行為をつづけてきたことはまちがいない。
調べが進むにつれて、さらに驚愕の事実も判明した。彼らはなんと、一組の夫婦が生んだ子どもたちの成れの果てだったのだ。
家長の名をソニー・ビーンという。

幼少期の闇

スコットランドのイースト・ロージアンにアレクサンダー・”ソニー”・ビーンという少年がいた。
貧しい日雇い労働者の父親は、ソニーに暴力をふるっては、「よく働く孝行息子になれ」と口うるさい。ソニーは父親の期待に応えるべく懸命に働くが、生来の怠け癖が顔をもたげ、真面目に働くことに嫌気がさしてきた。あげくに労働を放棄して故郷を飛びだしてしまった。

まもなくソニーは性悪なあばずれ女と出会い、意気投合。やがて結婚し、自由気ままな放浪生活の末にバナーン・ヘッドの海岸にある洞窟に住みついた。
夫婦そろって働く気など毛頭ない。二人は旅人を襲って金品を奪い、それを暮らしの糧にした。
とはいえ、そう都合よく金づるが目の前を通ってくれるわけではない。ある日、彼らは空腹に耐えきれず、旅人の死体を口にする。

飢え死にする心配から解放されたあとは、ひたすら妻と性を貪り合う日々。性欲が旺盛な夫妻は14人の子をもうけ、さらに親子や子ども同士で近親相姦を繰り返すことで、ついには48人という大所帯になった。
子どもや孫は外界との接触を一切もたず、洞窟で行われるカニバリズムのカルト集団のごとき環境で育った。幼少時から当たり前のように人肉を食し、成長すると、何の疑問も感じることなく旅人狩りに参加する。学校と無縁だった彼らは言葉すらろくに話せず、知能も低かったが、人狩り・解体・加工の技術にはきわめて長けていたのである。おぞましい人喰い集団はこうしてできあがった。

滅びのとき

故郷を捨て、妻とこの地に流れ着き、洞窟を棲家と定めて25年。
ようやく捕らわれたビーン一家は首都エディンバラに連行され、裁判を省略して全員の公開処刑が確定した。その処刑は、悪辣な所業に負けず劣らず凄惨なものだったという。

男たちは刑場に引きずりだされ、斧で四肢を切断したのち、失血死するまで放置された。女たちはその一部始終を見届けるように強制され、そのあと火刑に処された。ソニー・ビーンとその家族たちは誰一人として罪を悔いるそぶりを見せず、それどころか、なぜ自分たちがこんな目に遭わなければならないのか最期まで理解できないようだった。彼らは息絶えるまで、執行人や見物人に嚙みつくように罵声を浴びせつづけたと伝えられる。
信仰心も倫理観もなく、物心ついたときから人狩りを仕込まれてきた人間たちの哀れな末路だった。

補遺

ソニー・ビーン一家の奇談はロンドンの監獄の犯罪カタログに記載されたものがソースとなっているが、残念なことに事件と同時代の公文書、日記、書簡のたぐいには記述が確認できないという。このことから、信憑性を疑問視する歴史家もいる。一方で、同時代の記録が残っていないのは、事件の残虐性を鑑みた当時のスコットランド王朝が事実を封印したためとする説も強い。いずれにしても真相は歴史の闇に埋もれたままだ。

ソニーはこう吐き捨てて絶命した。

「これで終わりだと思ってるようだな。だが、そいつはとんだ大まちがいってやつよ。終わりなんてきやしないぞ、絶対に!」

そのとおり。終わりなんてこない。近親相姦も人殺しも人喰いも、人の営みがあるかぎり絶え果てることはないだろう。

※事件発覚の最大の功労者となった夫妻の名は仮名です。
※引用画像以外はイメージです。

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