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ショッピングセンター迷宮

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著者は以前、迷路のような大型商業施設、Dマーケットに勤めていた。
100を越える店舗が軒を連ねる、地域に根差したショッピングセンター。二階までが売り場、三階は屋内駐車場。
元々は円柱形の建物を長方形に増築したため、随所に行き止まりがあり、死角だらけ。
そのせいか、目の錯覚が起きる。方向感覚があやふやになる。客どころか、従業員まで道に迷う。

「二階のAフロアの階段周辺、視線を感じるんだよね。わかる?」
 休憩中、テナントの帽子屋に勤めている男に呼び止められた。

「そこ、以前はマネキン置き場だったんです」
増築前、二階のAフロアの奥は従業員専用女子トイレだった。照明の寿命がやたらと短かく、昼間でも薄暗い一帯。
理由は不明だが、トイレの出入り口を塞ぐように、マネキンの集合体が置かれていた。

スキンヘッド、全裸の女性のマネキン。死蝋化した遺骸、大理石の彫刻の如く肌が白く、劣化によって鈍い光沢を放つ。
どうやって組み立てたのか見当もつかない。これ以上縺れることはあるまいというように、腕、脚、乳房、顔が複雑に絡まっていた。
全員同じ表情で、うっそりと微笑んでいるものだから余計に気味が悪い。

「何が嫌って、360度どの位置からでも目が合うんですよ」
マネキンは撤去されたが、残留思念のようなものが残っているのかもと囁いた。
男は顔をひきつらせて、「冗談きついよ」と苦く笑った。
いいや。Dマーケットは確かに、邪悪な気配が満ちている。

無造作に打ち捨てられたのはマネキンだけではない。
大がかりな増築工事を前に、Dマーケットの支配人は、一部の店子を強引に追い出した。
賃貸料をふっかけ、払えないならば出ていけと迫ったのだった。

閉店を余儀なくされたテナント店は数十店舗を越える。突如として職を失った人々の遺恨はいかばかりだったろう。
怨念は渦巻く。蠢く。蔓延る。建物に憑依する・・・・・・
その《よくないもの》が人々を迷わせ、Dマーケットを迷宮たらしめていたのではないか。

 Dマーケットは現在も、博多の地で営業を続けている。

ペンネーム:二之部 群青
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※画像はイメージです。

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