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小さな池が囲われているのは何の為?

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周りの景色にそぐわない物を見つけると、興味が湧くと同時に少し恐怖を感じますよね。
その恐怖感が人間の生存戦略の一つなんだろうと感じたお話です。

目次

叔母さんの家へ

大学生の夏休み、しばらくの間、実家へ帰省することになった時の事、
「しばらくいるならアンタ~おばあちゃんをモモの叔母さんのとこに連れて行ってあげてよ」
と母に言われたのです。

モモの叔母さんは祖母の妹のことで、実家から少し離れた土地に住んでいます。
夏になると、祖母は毎年その叔母さんの家に泊まりに行っていたのですが、年をとって一人で行かせるのが不安になった母が私に頼んできたのです。
特に予定のなかった私は二つ返事で了承し、三日後に行くことになりました。

JRから私鉄に乗り換え、電車に揺られて二時間ほど。駅では迎えが待っているということで、ロータリーのベンチに座っていると一台の軽自動車がクラクションを鳴らして近づいて来ます。

「あらあら、まーくんが来てくれたわ」
そう言って祖母が手を振りました。
まーくんはマサヨシという名前で祖母の妹の孫で、私より一つ年上の男の子で、かなり幼いときに一度会ったことがあったのですが、私はほとんど覚えていなかったので初対面も同様。

「叔母さん久しぶりだね。遠かったでしょ?」
「電車乗ってるだけだからねぇ。今日はアヤちゃんも一緒だったから退屈しなかったよ」
軽く挨拶を交わし、荷物をトランクに詰むと車は走り出しました。

「叔母さん、悪いんだけどちょっと寄るとこあるんだ」
「全然構わないよぉ。悪かったねぇ用事あるんに来てもらって」
「そんな大したことじゃないからさ。アヤちゃんも大丈夫? 山道行くけど車平気?」
「全然大丈夫です!」
小さな商店街を抜け、住宅の多い場所を抜けるとすぐに田んぼばかり、それから川沿いの道を登って行きます。
川沿いにも家はあり、どの家も大きく畑が隣接していました。

「すごい田舎でしょ?」
まーくんが言いました。
「アヤちゃんは東京の大学に行ってるから、こんな田舎だとビックリしちゃうよねぇ」
「そこまででもないよ。うちよりちょっと田舎なだけ」
「新幹線の駅あるところは田舎とは言わないよ」
その後、祖母とまーくんが身内話に花を咲かせたので私は外の景色を見ていました。

囲われた池

十分ほど走ると家もほとんどなくなり、ぽつぽつと畑がある程度で、山肌ばかりになったのです。
ここまで来ると本当に田舎という感じだなぁと思っていると、突然風変わりな景色になり、フェンスが現れ、何を囲っているのかと思っていると小さな池が見えたのです。

池に変わった様子はありませんがフェンスが異様。
3メートル近くある高さと、金網部分がすべて有刺鉄線になっていて、さらに出入口であろう門がかなり重厚な門構えで、大人一人では開けられないのではないかと思える物。物々しい雰囲気が気味の悪さを助長していました。

「ねぇ、あのフェンスで囲まれた池なに?」
「あーあれねぇ。すごいよね」
まーくんは苦笑しながら言いました。なんだか話しにくそうな雰囲気。
「あれ? あすこはミカゲ池かね?」
「そうそう。なんかすごい感じになってるけど」
「はーまぁ、ずいぶんエラいことんなって」
「おばあちゃんも知ってるの? あの池」
「そりゃ知ってるがね。昔っからあるでね」
「昔からこんな風にフェンスで囲われてた?」
「いんや。昔はこんなじゃなかったけどねー。でも危ない池って言われてたでねぇ」
話をしている間に既に池は見えなくなっていました。

「数年前だよ、こんなフェンスになったのは」
「何かあったの?危ない池って言われてるみたいだし」
彼は一瞬だけバックミラーを見ると、また運転に集中し始めます。

「転落事故が多くてね。だから入れないようにしたみたい」
「転落事故って池の周りに家とか全然なかったのに?」
「うん・・・まぁいろいろあったんだよ」
それ以上は何も言わずに車を走らせ続けました。

程なくしてまーくんの用事があるらしい場所に到着し、用事を済ませると、モモの叔母さんの家に向かうのですが、帰りも池の近くを通ります。

何気なく池の方を見ていると人影のようなものが見え、それはフェンスの内側つまり池の敷地内にいたのです。
驚いて目を凝らして見ようとしましたが、あっという間に通り過ぎてしまい、見えなくなってしまいました。

あんな有刺鉄線まみれの高いフェンスを乗り越えて入り込む人などいるはずがありません。
きっと見間違えたのだろうと思い、すぐに忘れてしまいました。

夕食は親戚も集まってわいわいと賑やかに宴会となりましたが、私はほとんど知らない人ばかりなので、途中で席を抜けて縁側に行きました。モモの叔母さんの家は携帯の電波が入りにくく、縁側だと比較的入りやすいと教えてもらったからです。
彼氏とポツポツとメールのやり取りをしていると、部屋から出てきたまーくんが声をかけてきました。

「こんなとこで何してんの?」
「ここだと電波入りやすいから」
「あぁ。メールか」

私はメールの返信をし、まーくんは庭の小さな池を見ているようです。
山の沢から引いた水で澄んでいて、中にはたくさんの金魚が飼われていました。

「今日見た池なんだけどさ」
「うん」
突然話し始めたことに少し驚きながら私は相槌を打ちました。
「小学校低学年のときに俺も落ちたことがあるんだよ」
「えっ」
「落ちたっていうか、引きずり込まれた? みたいな」
「……どういうこと?」

まーくんの話

まーくんは話始めます・・・・。

友達と自転車に乗ってどこまでいけるか試してみようって事で、「じゃあミカゲ池に行こう」に行くことになったんだ。
ちょっとした冒険みたいなそんな感じで、リュックに水筒とお菓子入れて、二人の友達と俺で出掛けた。

三十分くらいで着いてお菓子食べ、もうやることないなってなったときに友達が「誰が自転車で一番早く一周できるか競争しよぜ」って言いだしたんだ。
それで門の所まで行って、横一列に並んでスタートした。最初はみんな同じくらいだったんだけど、段々差がついてきて、
俺はビリになりたくないと思って踏ん張ってたら、ペダルから足が外れ靴が脱げちゃったので仕方なく止まってさ。
当然二人には置いてかれて、もう勝てないのは明らかだから追いかけるのはやめて、門の所に戻ろうとしたんだよ。

フェンスの内側にだれかいた

靴を履いて、自転車に跨ろうとしたところで視線を感じ、ふと池の方を見ると、フェンスの内側に誰かいた。
まだ俺が子どもの頃は普通の網フェンスだったから、よじ登れば中に入れないこともなかったんだけど、池には絶対に入るなって小さい頃から言われてたから、誰かいるってなったからびっくりしてさ。

誰だろうと思ってよく見て、さらに驚いた。だってそこには俺がいたんだもん。
服も靴も背負ってるリュックも全部同じ、鏡で見てるみたいだった。
意味がわからなくて硬直してたら、いきなりピカって何か光ったから思わず目を瞑ったんだ。

目を開けるとなぜか俺は池の中に落ちていて、俺そっくりの奴は自転車のすぐ隣りにいた。
慌てて池から出ようとすると、足が滑って全然あがれないんだ。池の縁の雑草を掴んでなんとかこらえていると、何かが足を引っ張るんだよ。

池の中を覗くと真っ黒い水で全然見えなくてさ。でも、何かが足を掴んで引っ張ってる。
このまま引きずりこまれて殺されるって思って「助けて」って叫んでいるのに全然声が出ない。

誰かいないかと思って周りを見回すと、フェンスの外側の俺にそっくりの奴がニヤニヤ笑ってこっちを見てた。
こいつは俺を乗っ取る気なんだってわかってゾッとしたよ。

その間もグイグイ足を引っ張られてて、雑草から手が離れたら一巻の終わりだと思った。
なんとかしないとって思ってたら、いつも首から下げてた鏡が見えた。この辺の地域は子どものお守りとして小さな鏡を首から下げる習慣があるんだ。
なぜかわからないけど、これをアイツに向けようって思った。片手を雑草から離すのは怖かったけど、そうする以外ないって。アイツは引きずり込まれる俺を見ようとして、フェンスのすぐそばまで来てた。

ニタニタと不気味な笑みを浮かべる奴の顔は俺の顔じゃなくなっていて、気持ちの悪い土気色の顔をした、いわゆる妖怪みたいだった。
ソイツと目が合った瞬間に鏡を向け、太陽が反射したのか、ピカっと強く光って思わず目を瞑っちゃったんだ。

目を開けると、俺は元通りに自転車の隣りにいた。
さっきのはなんだったんだろうと思ったら、真っ黒なヘドロみたいなものが脛のとこまでべったりくっついてた。
慌てて靴と靴下を脱いで、それは池に放り投げた。

そしたら友達が俺の所に来た。後ろからついて来てないし、ゴールの門にもいなかったから探しに来てくれたんだ。
俺はさっきあった出来事を話し、足についたヘドロを取りたいって言ったら、持ってきたジュースをかけて洗い流してくれた。なんとか落ちたけど、ちゃんと取れたわけじゃなかったから早く帰ろうってことになって帰った。

家に帰り着いたら

家に帰り着いたら、ちょうど家の前の畑にじいちゃんがいてさ。裸足で靴も持たずに帰ってきたから「なにした?」って聞かれた。それで池のことを話したら「なんで池になんか行ったんだ!」ってめちゃくちゃ怒られた。

それから家の裏の湧き水が出てる沢に連れてかれて、そこに入れって言われたんだよ。
「じいちゃんがいいって言うまで入ってろ! 絶対に勝手に出るな!」って。
それからじいちゃんがばあちゃんに「沢の水で風呂沸かせ! マサヨシがミカゲ池に魅入られた!」って言ったら、ばあちゃんが泣き出しちゃってさ。
「泣いてる場合じゃねー! さっさと風呂沸かせ馬鹿野郎! 俺はオカミさん呼んで来る!」ってじいちゃん怒鳴り散らしてどっか行っちゃった。

なんかとんでもないことになったって思ったら泣けてきてさ。
まだ五月だったから沢に入ってたらすごく寒かったし、でも出ちゃダメだって言われてたからガタガタ震えて泣きながら入ってた。もう手足の感覚もなくなるくらいになったところでやっとじいちゃんが戻って来た。

「今から風呂に入れるからな。絶対に足着けるんじゃねーぞ、いいな。風呂までじいちゃんが運んでやるからな」って言って、麻袋みたいなやつに入らされてから、じいちゃんに抱きかかえられて家に戻った。
当時はまだうちには土間があって、そこから風呂場に行けたんだけど、そこに行くまでの道に麻袋が敷かれてたんだ。

じいちゃんはその上を慎重に通りながら俺を運んで、服を着たままの俺を湯船に放り込んだ。それから、じいちゃんは俺を抱えたせいで濡れた服を脱いで湯船に入れた。そして、麻袋を回収しながら出て行って、窯にそれを放り込んだみたいだった。
窓から煙が見えたからたぶんそうだったと思う。
その時はまだガスじゃなくて薪でお風呂を沸かしてたから。お湯はすごくぬるかったけど冷え切ってたから十分あったかく感じたよ。

しばらく入ってたらお湯の温度もちょうどよくなってきたんだけど、なぜかお湯が真っ黒になってたんだ。びっくりしてじいちゃんを呼んだら「オカミさん来るまで辛抱しろ」って言われて。オカミさんって誰って訊こうとしたらちょうど来たとこだった。神社の神主さんみたいな恰好の人が入って来た。

オカミさん

「よく無事だったな。ちゃんと鏡持ってたんだな」
「うん。鏡はいつも持ってるよ」
「えらかったな。じゃあ鏡は交換しよう。こっちの新しいやつを掛けてから、古いやつを渡しなさい」
言われた通りにしてオカミさんに鏡を渡した。
そのとき見えた鏡は真っ黒になってて、何も映せなくなってた。
それからオカミさんが祝詞? 呪文? みたいなやつを言いながら紙がついた木の棒を振り始め、しばらくすると、真っ黒だったお湯がみるみるうちに薄くなって、最終的には透明ないつものお湯に戻ってた。それから「よく見てなさい」って言って、さっき渡した鏡を床に置いて、木の棒で割った。
真っ二つに割れた鏡はまるで炭みたいになってた。

「これでもう大丈夫だ。けどもう二度と池に遊びに行ったりしてはいけないよ。約束できる?」
俺は全力で首を振りながら「もう絶対に行かない」って誓った。

あとから聞いたことだったけど、ヘドロみたいなのがついた靴下と靴を池に捨てて来たのと、その場で汚れた足を洗ったのは正解だったんだって。そのまま家に帰って来てたら連れて行かれてたかもしれないって。
あの池は大昔から人を食うって言われてて、それでみんな近づかないんだ。鏡をお守りにするのも、池の妖怪が鏡を嫌うからなんだって。今でも一年に数回は池で人が亡くなるんだよね。

お守りの鏡

まーくんは手に持っていたビールを飲み干し「というわけで、あの池はあんなに厳重なフェンスに囲まてるんだ」と言った。

そこで私は気になったことを尋ねた。
「もしかして、亡くなるのは鏡を持っていない人?」
「そういうわけでもないよ。ただ、亡くなるのは決まって子ども」
「大人は大丈夫なの?」
「大人が池に近づくのは年二回の草刈りのときだけだからじゃないかな?」
「なるほど。面白がって池に行く子どもが犠牲になると」
「ううん。ミカゲ池が人を食うなんて言われてることは今ではほとんど知られてないよ」
「どうして?」
「面白がって近づかないようにするためと、もうそんな話誰も信じてないからじゃない? けど、子どもは俺みたいに何気なく遊びに行ったりするから」
そういうものなのかと思いながら、私も残り少なくなっていた酎ハイを飲み干した。
「じゃあ鏡のお守りももう持ってないの?」
「いや、それはまだ続いてるみたいだよ。けど、首から下げるのはしてないみたい。引っかかったりしたら危ないから」
「じゃあどうしてるの?」
「ランドセルに入れてるみたいだよ」
そう言われて、思い出した。

私も小学生の頃に祖母にかわいらしい手鏡をもらい「これをランドセルに入れておきなさい」と言われ、入れっぱなしにしていたのだ。おそらく私が住んでいた地域では首から下げる習慣がなかったので、ランドセルに入れるように言ったのだろう。
ミカゲ池はなかったが、魔よけということで祖母は信じていたのかもしれない。

「そうなんだ。まあお守りだもんね」
「そうそう。持ってることが大事だからね」
そう言うとまーくんは自分の部屋に戻って行きました。

私が昼間に見た池の人影はおそらく気のせいではなかったのでしょう。ただ、車で通り過ぎてしまったので引きずり込まれずに済んだのかもしれません。あの池に行くことはないと思いますが、手鏡はいつも持ち歩くことにしようと心に決めました。

※画像はイメージです。

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