私が中学生の頃、歴史の先生は授業が早めに終わると、残りの時間に生徒とのコミュニケーションというか、雑談をしてくれました。
その日、ふと思い出したように、自分が学生だった頃の不思議な話を始めたのです。
ある朝の話
先生は東北出身で、「朝、雪が積もってると歩きにくいよねぇ。」と故郷を懐かしむように話を始めました。
前日の夜から振り始めた雪は、朝には膝くらいまで積もり、田舎の朝は街灯も少なく真っ暗。雪もまだと降り続いている。
こんな日は臨時休校になることもよくありますが早朝でまだ連絡もない、けれど真面目な性格な事もあって、念のためにも、いつもより早い始発のバスに乗ることにしたそうです。
かなり早朝だったため、当然のように歩道は除雪されておらず、先生は膝まである雪を自力で掻き分けながら進んで行きました。ふと足元から目を上げると、自分の前方、イメージでは20mくらい先ではないかと思うのですが、だれかが一人歩いていた。
薄暗く、雪も降り続くなか見てみると、ちょっと特徴のあるハンティング帽を被って黒っぽいコートを着たおじさんの後ろ姿だった。
どうやらおじさんもバスターミナルに向かっているようで、自分の少し離れた目の前をずっと歩いている。安心した気持ちなのか親近感なのか、「こんな天気の日の早朝でも、バスターミナルに向かう人がいるんだ。」と思って、雪にかすれるおじさんの後ろ姿を交互に見ながら進んで行ったそうです。
不思議に思った事
ところが、しばらく歩いているうちに先生は妙なことに気がつきます。
「おじさんの足跡が、雪の上にないんだよなぁ。」
これだけの降り積もった雪なのに、前方を歩いているおじさんの足跡が、ひとつも雪の上になかった。
確かに雪は降り続いていますが、人が歩いた跡はそれほどすぐに埋もれて消えるなんて事はありません。
目の前の道の雪は、まったくの真っさらな状態だったようです。
急に先生は怖くなって、見つめていた足元の雪から前方に視線を移すと、さっきまで自分の前方を歩いていたおじさんの姿は忽然と消えていた。
一本道なので曲がったとも考えづらい。感覚では足跡が無いことに気づいてから、前方を見るまではほんの一瞬。
「確かに前方を歩いていたと思うんだけどね。」
話をしていた時も、先生は納得のいかない不思議そうな感じだった。
前を歩いているおじさんは誰だったのか?
先生は無事にバスに乗って学校にいったけれど、案の定、学校は臨時休校となり、また悪いことにバスもしばらく不通になってしまい、帰宅したのは夕方近くだった。
雪の中を歩き続けたせいか、疲れからか、その日から数日間は高熱が続いて、しばらく学校をお休みしたそうです。
話を聞いたみんなが怖いというよりも不思議だな?なんて話していると先生はつぶやきます。
「この話はね、これでおわりじゃないんだ。」
かなり時間が経って、こんな事すっかり忘れていた頃。
先生の地元は昔、鉱山で賑わっていた時期があり、社会の授業で地元の郷土史を調べる事になった。
資料を調べていくうち、古い写真の中にあの雪の日にみたおじさんに似た、特徴のあるハンティング帽と黒いコートを着ていた人が写っていたのです。
本人なのか?といえと全く解りませんが、先生はこの人だと確信したように思えたらしい。
もちろん調べても誰なのかは解らずじまいだったのですが、これがきっかけで歴史を調べていく事に興味が湧いて、歴史の先生になった。
誰かは全く解りませんが恩人のように感じるそうなのです。
※画像はイメージです。
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