「空飛ぶ広報室」を読んだ

『空飛ぶ広報室』は、有川浩さんが2010年に発表した小説をTBSがドラマ化した作品です。
もともとは2011年初夏にハードカバーで出版される予定でしたが、東日本大震災の発災をうけて2012年に延期され、ほぼ同時に映像化が企画。
2013年4月期に新垣結衣さん主演でドラマ化されました。

もともとは『ミリタリー&ラブ』をスローガンに挙げて数々の小説を書いていた有川浩さんが、当時の空幕広報室長(作中の鷺坂室長のモデルになったA氏)の『うち(航空自衛隊)の仕事を小説に書いてみませんか?』との売込みから、自衛隊の“広報”に興味を持ったということで、徹底的にリアルを目指して広報室の取材を始め、この物語が構築されていきました。
意外性も大きく評価され、2012年には雑誌『ダ・ヴィンチ』で『BOOK OF THE YEAR 2012』で小説部門1位、翌年には直木賞候補にノミネートされるなど、話題になっていました。

小説版では、不本意ながら広報室に配属されてきた新人広報パーソン・空井大祐が主人公でしたが、テレビドラマでは、彼とともに仕事をすることになったテレビディレクターの稲葉リカにシフトしており、彼女の目を通して見る航空自衛隊、そして空幕(航空幕僚監部)広報室を描いています。

脚本担当は、今ではヒットメーカーとして知らない人がいない野木亜紀子さん。
こののち『重版出来!』や『逃げるは恥だが役に立つ』と、今作と同様に土井プロデューサーと組んで名作を製作し、今年は『アンナチュラル』や現在放送中の『獣になれない私たち』では職業ドラマとしても素晴らしい作品を描いています。

このドラマは、航空自衛隊のアクロバットチームであるブルー・インパルスが広く一般に知られるきっかけにもなりました。
いろいろな意味で『歴史を変えた』作品です。

Vol.1 人生どん詰まりの二人…君の涙が私の未来を変えた(演出:土井裕泰)

2010年の東京、季節は春。

帝都テレビのディレクター稲葉リカ(新垣結衣)は報道記者でしたが、とある事情で情報バラエティ番組の制作現場に放り込まれました。
不本意な仕事ゆえに、現場のカメラマンの坂手(渋川清彦)、そしてアシスタントの大津(前野朋哉)らとのやり取りもかみ合わず、上司の阿久津からもお小言ばかりをくらう日々。

その彼女があてがわれた仕事が『働く制服シリーズ』というコーナーの製作です。
鉄道や警察、宅配便など、さまざまな特色のある制服の職業をまとめる、というそのコーナーで、次に扱うのが自衛隊だというのです。

ADの佐藤珠輝(じゅえる・大川藍)のギャルなノリにもついていけないままに取材に出たリカは、初めて市ヶ谷の防衛省・航空自衛隊幕僚監部広報室を訪れました。
彼女の前に現れたのは広報室長の鷺坂一佐(柴田恭兵)、そして寡黙な青年、空井大祐二尉(綾野剛)です。
リカは、警視庁付きの記者でしたが、自衛隊に関しては興味も知識もありませんでした。
しかし、記者魂がまだ抜けていない彼女は暴走する勢いで鷺坂に食って掛かりますが、まるで煙に巻かれるようにあしらわれるのです。

鷺坂は『詐欺師・鷺坂』という異名を持つ遣り手で、自衛官・公務員らしからぬ巧妙な手練手管で物事を動かすキャラクターとして知られていたのです。

その彼に、担当としてリカに引き合わされたのが、新人広報官の空井大祐でした。
彼はまだ着任して日が浅く、これが初仕事だというのです。
『何かお勧めのネタは?』と問うリカに空井は『戦闘機パイロットの訓練』を提示しました。
彼は、戦闘機パイロットになることの厳しさ、難しさを熱く語り始めますが、リカはばっさりと『人殺しの訓練をしたいなんて、そんな人たちを特集するわけにはいかない』と口にしてしまいます。
その瞬間、彼の顔色が変わり___『人を殺したいと思ったことなんて一度もありません!』と激高したのです。

空井は、元・戦闘機パイロットでした。
自衛隊の花形であるブルー・インパルスの操縦士にも内定し、あとは訓練を受けるばかりというところで、交通事故にあって重傷を負い、P免(操縦士格の喪失)の烙印を背負って広報室に異動してきたのです。
リカの言葉は、空井の胸の中にあったいろいろなものを抉っていました。

後悔しながらも詫びる方法すら思いつかなかったリカに、阿久津はドラマのロケの依頼の橋渡しをせよ、という業務命令を下します。
帝都テレビの人気ドラマ『報道記者、走る!』で、災害現場のリポートをするシーンに、自衛隊のヘリを使いたい、というのです。

広報室で気まずいままの再会となってしまった空井とリカでしたが、鷺坂はその話に飛びつきました。
準備期間も通常よりはるかに短く、まさに突貫工事の勢いで物事が決まっていく中で、リカは鷺坂の手腕の見事さを知り、その異名の意味を理解していきました。

現場では無理難題を押し付けられるばかりで、面食らう空井と先輩広報官の比嘉一曹(ムロツヨシ)でしたが、ドラマの撮影のルールなど理解していないリカが逆に突破口を開いて無事に撮影を終えたのですが。

そこは百里基地。
空井の古巣でした。

彼を知る者もあり、空井は“SKY”というタックネーム(コールサイン)で呼ばれますが、空井はそれを静かに拒むのです。

彼にとっては苦しいばかりの初仕事が終わりました。
撤収作業をしているところに、エキストラの少年が駆け寄って、空井に聞くのです。

『パイロットになるには、どうしたらいいですか?』

それは、彼にとっては鬼門でしかない問いでした。
少年はブルーインパルスを見てパイロットに憧れたというのです。
ドキッとして空井を見るリカですが、彼は膝を折って少年と目線を合わせ、丁寧に答えて『頑張れば夢はきっと叶うよ』と告げました。

全てを終えて、しかし、空井は誰もいないところで激白します。
『なんで俺なんだ?!この脚でも十分な奴は他にもいるだろう!』と。
リカはその哀しみに言葉を失いましたが、ただひとつ、できることをみつけました。
蹲り、泣いている空井の頭をなでること。
その瞬間が、二人の間の“何か”の始まりだったのです。

みどころ

リカは“ガツガツ”と評される猪突猛進型の記者でした。
トラブルで現場を外されて送り込まれた不本意な仕事でしたが、自衛隊関係の特ダネでもすっぱ抜けば報道に戻れるのではないか、と目論んで食らいついていくのです。
その反対に、空井は失ったものの大きさに、まだ呆然としていました。
そんな彼を気遣う元上官の村瀬二佐を演じたのは池内博之さん。
ほぼ同時期に大河ドラマ『八重の桜』では綾野剛さん演じる会津藩主松平容保公の家臣として共演、同じ枠では翌年の『S-最後の警官』でも同僚となり、ご縁がありましたが、そのいずれもで全く違うキャラを演じ分けているのは流石です。

カメラマンコンビの前野朋哉さんはこの後に大きくブレイクし、現在ではauのCMで一寸法師や彦星として出演。劇中劇の『報道記者、走る!』主人公のキリーは浦島太郎の桐谷健太が出演しています。

その撮影現場で切れているADは矢本悠馬さん。
昨年では大河ドラマのメインキャストを演じていた彼ですが、この一話の後半で、ある事件の切っ掛けとなるミスを犯していました。

ロケ地としては、防衛省、そして百里基地がメインとなりますが。
帝都テレビは、お台場の日本科学未来館でその外観とエントランスから続く大きな吹き抜けを使用しています。

Vol2. 浅学菲才・馬鹿丸出しの私…でも答えは自分で探す(演出:土井裕泰)

ドラマが高視聴率で好評だったことから、そのお礼と挨拶に広報室を訪れたリカの前で、空幕長(モト冬樹)の記者会見が始まりました。
『入間基地近辺に輸送ヘリが墜落』という内容に色めき立つ記者たちの間を抜けて『特ダネGET!』と走り出そうとするリカを、空井が必至で止めます。
真に迫ったそのやり取りは、実はシミュレーション___『メディアトレーニング』だったのです。

空井は、鷺坂の指示でリカを懇親会に誘うのですが、彼女はまるで『慣れ合うつもりはない』とでもいうようにバッサリと拒絶します。
二人の間の空気のぎくしゃくは増すばかりでした。

リカは担当する『街角グルメ』の撮影で、『ナポリ』という洋食店を訪れていましたが。
通り一遍に撮影しただけのその映像を見て阿久津は『お前、そのままだと一生無能のままだぞ』と言い放ちます。

その頃、空井も広報官としての仕事にさっそく行き詰っていました。
外の世界の人に、航空自衛隊をどう知ってもらえるか、その方向性から模索し始めた彼はしかしまだそのベクトルも掴みかねていたのです。
作りかけた企画書をもって訪れた帝都テレビで、やはりリカに『面白くない』と言われてしまいます。空井の『常識』と、一般の感覚の間にあるギャップを、リカは言い当てました。
その帰り際に、空井はリカの秘密を知ってしまいます。

リカは、かつてその強引な取材で無実の人間とその家族を深く傷つけ、訴えられていたのです。
それがもとで報道記者としての信頼を失い、情報局に飛ばされたのでした。

数日後、リカは航空自衛隊入間基地に呼び出されます。
冒頭のメディアトレーニングの講評ということで、検証をするその現場に立ち会うことになったリカは、報道の在り方を模索している広報室の面々の姿を目の当たりにします。
報道班の柚木(水野真紀)や槙(高橋努)、そして片山(要潤)らとの会話で、自衛隊を表す4文字熟語を知るのです。

陸自:『用意周到 動脈硬化』
海自:『伝統墨守 唯我独尊』
空自:『勇猛果敢 支離滅裂』

これらはかつて防衛庁に出入りしていた記者が考えた言葉だということですが。
辛らつな言葉を並べたあとに、最後に自らを評して『浅学菲才 馬鹿丸出し』と言ったのです。
この流れの締めくくりに『その記者の言うことは信用できるだろ?』と片山は笑うのですが。
その言葉はリカの胸に刺さりました。

帰路、空井の車の中で、彼が洋食ナポリに行ったことを聞いて驚いたリカ。
帝都テレビに彼女を訪ねた空井はモニターで流されていた編集中の映像化を見て、実際に食べに行ったというのです。
その時に、彼は店主の生い立ちから、その味付けについても詳細に感想を述べ、楽しそうに語りました。
取材をしたはずの自分が知らないことばかり耳にして、リカは恥じ入りました。
そして、そのままでは放送できない、と感じた彼女は放送ギリギリに局に飛び込み、編集しなおしたそれを阿久津に土下座までして差し出しました。

リカは自らの『浅学菲才』ぶりを噛み締め、自分は何も知ろうとしなかった大バカ者だったのだ、と悟るのです。

みどころ

リカは、訴えられたことがただ『自分の運が悪かったのだ』と自嘲気味に話しますが。
周りに人に影響されながら、少しずつ変化していきます。
彼女の周囲にいるアナウンサーの藤枝(桐山漣)や報道記者のライバルだった香塚ともみ(三倉茉奈)とのやり取りで、以前の彼女と、今の彼女の様子が少しずつ掴めてきますが、鬱屈していリカの世界は広報室の面々とのやり取りで次第に変化していきます。
井の中の蛙であった彼女が、『自衛隊』という異世界をテーマに与えられたことから、凝り固まっていたものが解けていくのです。

Vol.3 覚悟のいる結婚…いつも笑顔でいよう (演出:山室大輔)

リカは空井からの懇親会の申し出を受け入れましたが、その結果は散々なものでした。
彼女が無意識に発する言葉の無礼さに、周囲は驚き、そして面食らうのです。
そんな彼女が悩んでいたのは『働く制服シリーズ』としての次の展開でした。

リカがふと思い浮かべたのは、懇親会で話題に上がった『恋愛と結婚』だったのです。

広報室の面々に対してガツガツとそのプライベートを聞いて回るリカが得た結果は阿久津に酷評される散々なものでした。
それを愚痴ったリカに、空井はついうっかり、同期が結婚する、という話をこぼしてしまいます。
彼はナッシュ(峯永ニ尉)。
イーグルドライバー(F-15の操縦士)として、峯永は空井とはずっとライバルで、一番仲の良い友人だったのですが、空井が事故で百里を去って以来連絡をとっていませんでした。
リカは、そのごり押しで空井に辛い思いをさせようとしていることに気づきましたが、空井は仕事として割り切って段取りを進めるのです。

リカたちが撮影のために百里基地に峯永を訪ね、紹介されたのは婚約者の安奈でした。
空井をみつめる安奈の表情を見て、リカはその過去を察するのです。

峯永は事故の後、空井に『空で待ってる』と告げたその時、既に彼の膝は努力でどうにかなる状態ではなかったこと。
自分の発してしまった言葉の残酷さに、彼は『結婚式に呼びたいけど、自分にはその資格がない』と言っていたのだと安奈はリカに告白しました。

良く晴れた空のもと、峯永の乗機が着陸し、彼が降り立ったその時。
男たちは再会し、抱擁を交わします。
素直になれない、そんな表情から始まったぎこちない会話はすぐに打ち解け…まるで幼馴染のように時間が巻き戻されてじゃれ合うのです。
止まっていた二人の時間が新たに動き出し、それを見た安奈とリカは安堵しました。

結婚式の日、現場の裏側でリカと空井は走り回っていました。
リカがカメラマンの坂手たちに『いかにも自衛隊っぽい絵だけではなく、普段の彼らの表情を撮って欲しい』というと、空井も広報誌の担当者に同じことを頼んでいたのです。
少しずつ彼らの気持ちのベクトルが揃ってきたかに見えた時、リカがあることに気づきます。
安奈の両親の姿が、親族席からずっと消えていたのでした。

ホテルの館内を走り回る空井たちの前に、小さく言い争う夫婦の姿がありました。
安奈の父は、この結婚に賛成している訳ではなかったのです。
峯永の人柄を認めてはいたものの、その仕事の危険性を思うと『なぜそんな男と』と吐露します。
空井は『現場の隊員たちは日夜命がけで訓練に励んでいます。彼らの人間性を否定するような言葉は聞かせたくありません』というのです。
自衛官という仕事を理解してもらいたい、そのために誠心誠意努めたい、という言葉が彼の口から自然に流れるのを、リカは眩しい思いで見つめるのでした。

披露宴会場に戻った彼らの前で、広報室長の鷺坂のスピーチが始まりました。
愛妻家であった彼の言葉を聞いた夫婦は離婚しない、そんなジンクスがあり、峯永の上官である村瀬隊長が依頼した、というのです。

自衛官としてのちょっとした特殊性を織り込みながらも、その配偶者として、家を出る時には笑顔で送り出してほしい___そんな家族になって欲しい、という彼の言葉は心に染み入るものであり、安奈の父も涙を流して二人を祝福したのです。

空井は、リカに礼を言います。
リカの発案が無ければ、峯永の結婚式に立ち会うことはできなかっただろう、と。
広報官として少し自信と自覚を持った彼はすがすがしく笑うのでした。

みどころ

峯永のタックネームは『ナッシュ』。
彼と安奈はワイン好きで、特に好みなのがグルナッシュというワインでした。
これは一般の店舗でも販売されていることが多いので、興味のあるかたは探してみてください。
結婚式・披露宴の会場になったのは市ヶ谷駅近くの『グランドヒル市谷』です。
披露宴会場には入れませんが、空井たちが走り回っていたフロアやエスカレーターのエリアは普通に歩くことができます。
カメラマンの坂手は、このあたりから急激に自衛隊のファンとなり、撮影に積極的になっていきますが、家族の心温まるシーンなどにはとても弱く、号泣する姿が見られるようになります。
渋川清彦さんの軽妙な演技や表情はドラマの中で節目ごとにみられるようになり、彼はリカや空井たちをバックアップしていく力強い後ろ盾になっていくのです。

Vol.4 美女がおっさんになった理由(演出:山室大輔)

『働く制服シリーズ』で峯永の結婚式のドキュメンタリーが放送されたことで、リカと空井は弾みがついて次の企画を考え始めます。
『女性自衛官から見た自衛隊』を発案したリカは広報室報道班の柚木に協力を求めますが、すげなく断られてしまいます。
彼女は『あたしに女性目線期待するなんてどうかしてる』とオッサンぶりを加速化させていくのです。

その姿を意味ありげに見ている鷺坂は何事かを思っていますが、周囲は柚木のガサツさにただため息をついているのでした。

そんな時、ADの佐藤珠輝(じゅえる)が広報室の面々との合コンを発案します。
女性と知り合う機会がない片山は大乗り気で空井と槙を連れ出し、さらに員数合わせで妻帯者の比嘉まで担ぎ出しますが、その結果は無残なものとなり果てました。
その席の片隅で、空井はリカに『防衛大に取材に行くので、一緒に行きませんか?』と誘いをかけ、そこにネタがあるのなら、とリカも快諾し、週末に出かける約束をしたのです。

オフィスにいたリカは『即戦力』として報道にピンチヒッターとして担ぎ出されることになりました。
古巣に戻った彼女の前で、ライバルだった香塚ともみが泣いていました。
リカが報道局を離れている間に新しく採用されてきた男性記者がパワハラ・セクハラの限りを尽くしていたのです。
意趣返しをしてすっきりと返品されたリカは「男も女もなく、普通に働きたいだけ」と言いますが、それを聞いた柚木は「同じ場所でずっと働かなきゃならない女の子がそんな軽率なことをしたらどうなると思う?自分の知ってる世界だけが全てだと思わないで」と言い返しました。
彼女は、かつて配属された部隊でたった一人、孤立し、心を病むところまで追い込まれた経験があったのです。

同じ専門分野で働いていた鷺坂はそれを知っており、防衛大・剣道部の後輩だった槙もまた、その経緯を知って心を痛めていたのです。
空井やリカはそのことを知り、なぜ彼女が美人なのにガサツでオッサンのふりをしなければならないのか、その理由に絶句しました。
しかし鷺坂は、彼女の濃やかさ、優しさを説くのです。
「柚木さんと話をしてみたい」というリカに、彼らは画策し、空井は本来自分が行くはずだった防衛大の取材に柚木を行かせることになりました。

防衛大に向かうリカと柚木の後をそっと追う空井と槙でしたが、柚木はリカに防衛大のことをつぶさに語ります。
柚木は防衛大の女子の三期生。
倍率数十倍を突破して入った世界は物珍しさで見つめられるパンダのようだった、というのです。

彼女がかつて通っていた剣道場で、一人の女子学生がその厳しさに泣いていました。
驚くリカの前で、柚木は「ほっとけ」と言います。
柚木は、自分のふがいなさと悔しさに泣いている彼女に、かつての自分を見ていました。
リカは「女を捨てるしか生きていく道を切り拓けなかったのだ」という柚木に「女を武器にするのも、女を捨てるのもどちらもしたくない。普通に認められたい」と言います。
そして、女子学生にあげられる『希望』はないのか…と言うのです。

現れた槙に促され、柚木は剣道場に立ちました。
体力では華奢な彼女が見事な竹刀さばきを見せるのを、女子学生は眩しい思いで見つめました。
槙は、4年間の柚木の研鑽ぶりを語るのです。
彼女は誰よりも努力をし、自分と戦ってきたのでした。

槙は、柚木にずっと胸の内に抱えてきた想いを告げました。
かつて軽んじられ、組織の中から弾かれた連中を交わすためにオッサンのふりをしている柚木に、叫ぶのです。
「俺をそんな奴らと一緒にするな!!」
防衛大を卒業して10数年、胸の内に秘めたそれは、恐らく恋でした。

そんな二人を気遣うリカと空井ですが。
夕焼けの見える屋上でしばし語る時間を得ました。
空井はお土産を渡します。
売店でみつけたという小さなF-15戦闘機がついたボールペン。
「『男と女』が『男と女』でしかいられない世界なんて、つまんないですよね」と言う空井を、リカは驚きを隠せない表情で見つめたのです。
空井が『僕たちはエレメントみたいなもの』と言います。
一緒に空を飛ぶ最小単位を戦闘機の世界ではそう称するのだとか。
この言葉と、ボールペンは、二人の間に大切なものとなって残るのです。

みどころ

舞台は2010年。
まだガラケー全盛の頃ですが、作中でキャラクターたちが使っている携帯電話にも個性が出ますね。
シンプルなものを使っているリカや空井に比べて、こだわりの強いギャル気質な珠輝が使うのは赤のケイト・スペード、もちろんオシャレなストラップ(赤いバラとパール)がつけられているというこだわりようです。
出会いに焦る片山が口にする自衛隊用語はギャグのようですが、自衛隊という世界が一般とは隔絶されているというところを暗に示しているようで興味深いですね。

空井がリカに差し出したペアのボールペン。
頭に取り付けられている小さいF-15は美術さんのお手製だそうですが、同じデザインの量産品がDVDとブルーレイボックスの初版特典として封入されていました。今では類似品が航空祭などのイベントで購入することが可能です。

Vol5. 過去との再会・初めての告白(演出:土井裕泰)

柚木が担当する機動展開訓練が目前に迫ってきていました。
ちょうどその頃、碓氷リュウという漫画家が広報室を訪れていました。
新しい作品の舞台は日本、テーマはSFでもモデルは航空自衛隊だから、と言うことで参考資料の提供や取材の協力を申し込みに来ていたのです。
片山は碓氷のファンということで大いに盛り上がりましたが、面倒ごとは空井に押し付けてしまい、自分は好きなことばかりを追いかけていました。
スーパーマリン・スピットファイヤー(SS:ダブルエス)という航空機マニアのビッグネームのミュージシャンが結成20周年のイベントを行うので、それに空自の飛行機を飛ばすという企画を持ち込んでいたのです。

そんな彼らの前で、昼休みの広報室のソファの上に伸びている柚木。
“風紀委員”の槙が彼女の行動に口出ししなくなってからオッサン化が加速しており、そんな二人を皆が遠巻きにしていました。
その空気の悪さを案じた片山が空井とリカをけしかけて、柚木と槙を飲みに連れだしたのですが…ただ二人を対面させればよいというものではなく、余計にこじらせて終わってしまいました。
そのバーで、空井は一人の男と出会います。
帝都テレビのアナウンサー、藤枝でした。
彼はナッシュの結婚式の司会を買って出ており、空井のことも覚えていたのです。
リカをめぐって、なんとなく牽制しあうような会話になってしまった二人ですが、ADの佐藤珠輝から『藤枝とリカが付き合っている』という言葉を聞いていた空井にとっては複雑な瞬間でした。

機動展開訓練は予定通り行われることになり、その中に、新人時代の柚木につらく当たった古賀准尉が部隊を率いて参加することを知った槙は鷺坂に自分も立ち会いたいと申し出ますが、柚木はそれを拒みます。
『機動展開訓練ごとき、アタシ一人で十分よ!』と。

訓練当日、入間基地ではカメラマンの坂手が久々の飛行場のロケに大喜びしていました。
リカと空井はぎこちなさを伴ったまま、高射隊の取材に入りました。
高射隊とは、迎撃ミサイルを運用する部隊___そこは、柚木の古巣でした。
『もしも他国から攻め込まれた時、航空機や艦隊が突破されてしまったら、高射隊の迎撃のみになる。高射隊は最期の要だけど、そんなものの出番はない方が良い。でも訓練する。いざという時と言う時に“守る”ために』
そのプラットフォームが展開していく様子を見ながら、柚木は『高射隊はチームワークが大切。技術が発達しても、それを使うのは人間だから。でも自分はそのチームには入れなかったけどね』と寂し気に呟くのでした。

日が暮れて、真夜中に始まる訓練に向けて習志野や武山から部隊が移動し始め、展開場所になる入間基地でも報道陣の受け入れが始まりました。
その移動中に習志野の部隊の車両同士が軽微な衝突事故を起こしました。
報告に現れたのが、柚木のかつて対立した部下、古賀准尉だったのです。

苦い再会は、しかしその事故処理と報道陣への説明、訓練開始の遅延など、さまざまな要素のもとに時間の中に流れていきました。
記者たちへの対応は、メディアトレーニングを経た空井や柚木の独壇場、突出する記者の暴言にはリカが助け舟を出すという連係プレーが見られ、無事に機動展開訓練は始まりました。

そこに現れたのは中島ニ尉、若い女性の幹部でした。
習志野からの、事故を起こした部隊の指揮官は彼女だったのです。
古賀は彼女に敬意をはらう態度を見せており、それは柚木にとっては複雑でもあり、眩しいものでした。
中島は配属されて一年、仕事にはやりがいを感じている、と柚木に語るのです。

古賀は『自分のくだらない自尊心で組織を停滞させることが二度とあってはならない、と考ました』と吐露し、柚木と互いにねぎらいあうことができたのです。

互いに変わったのだ、と柚木は思い、入間基地の滑走路越しに見る朝焼けを『槙にも見せてやりたかったな』と言いますが、槙も、防衛省の窓から同じ空を眺めていました。
彼も、離れた場所から柚木の仕事を見守っていたのです。

広報室に戻った柚木は、鷺坂らに温かく迎えられました。
ソファでの『打ち上げられたアザラシ』のような爆睡は、古賀と対峙することへの緊張から眠れない日々を過ごしてきた表れだったと、鷺坂は見抜いていたのです。
やっと、トラウマを一つ克服した柚木は『今度こそ、自由にやれそうです』と笑うのでした。

リカは勇気を振り絞って“プライベート”で飲みに行きませんか、と空井に電話したのですが、すげなく断られてしまいます。
リカに見えない彼の表情は実はとても複雑なものだったことを、リカは知りません。
彼にも、素直にその言葉を受けられない事情があったのです。

みどころ

一進一退を繰り返す空井とリカの関係ですが、同僚の藤枝や後輩の珠輝らに翻弄されて悩ましいものとなっていきました。
しかし、彼ら二人の距離は少しずつ近づいており、まさにエレメント、仕事上の同志という関係性が構築されつつあります。
ここで登場した碓氷リュウはおぎやはぎの矢作さん。
彼が描こうとしているSF作品は、原作者の有川浩さんがかつて書かれていた自衛隊三部作の『空の中』です。
SSは某有名音楽ユニットを連想させてくれるビッグネームのイメージですね。
この二つのテーマは、次のお話にも波乱を見せる材料として大きな意味を持っています。

さて、車両の事故のシーンですが。
市街地でなく、これは入間基地内で撮影されていますので、暗い画面の中の背景をよく見てみてくださいね。特徴のある基地内の建物が見えてきますよ。

(C) 空飛ぶ広報室 有川 浩 幻冬舎

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