第二次世界大戦では共に連合国として戦ったアメリカとソ連だったが、ここで共通の敵であったドイツと日本が敗戦を迎えた後は冷戦構造と呼ばれる対立関係となり、それぞれが自陣営を形成して対峙した。
日本に対して2発の核爆弾を投下し、その核の力をアメリカのみが独占していた以後の10年間は、アメリカ国民の中ではソ連を深刻な脅威と捉える事はなかったが、1995年にソ連も核兵器を保有するとその構図は崩れた。
それに伴い次に戦争が生起した場合には、世界の全てが滅亡する事態になりかねないと言う風潮が強まり、米ソによる宇宙開発競争の激化はその感を更に強くさせ、今に続くある分野もまた隆盛を見せる。
その分野とは米ソの軍事的な対立を背景とする実しやかな陰謀論の世界であり、ソ連を凌駕する為にアメリカは極秘裏に様々な新兵器を開発しており、エリア51として広く知られるようになる施設もそうした流れの中にあった。
エリア51には異星人と手を結んだ当時のアメリカ政府によって、その所謂UFOのテクノロジーを応用した様々な機体が開発されていると言う陰謀論が唱えられ、1990年代まで日本ではテレビ番組でも度々取り上げられていた。
そうしたエリア51絡みのエピソードのひとつに、今回取り上げて見たいSR-91オーロラと呼称される偵察機も位置づけられており、その意味ではある種の王道中の王道を地で行くような存在だと言ってもよいだろう。
米空軍の高高度偵察機の系譜 U-2偵察機
結論から述べれば、SR-91オーロラは2022年の今に至るまでその実在が確認されていない幻の偵察機だと言う事が出来るが、実際の高高度用の偵察機も冷戦時代から現代に至るまでほんの僅かしか実用化はされてはいない。
そんな中で1955年の初飛行から今でも現役の機体として就役を継続しているのが、当時のロッキード(現ロッキード・マーチン)社のスカンクワークスが手掛けたU-2偵察機で総数104機が生産された。
U-2偵察機は同じロッキード社製の戦闘機・F-104スターファイターをベースに開発され、S型の場合で全長が19.13メートル、全幅が31.39メートル、全高が4.88メートルで最高速度はマッハ0.8、最高高度27,000メートルとされる。
ベースのF-104スターファイターと同様にU-2偵察機も単座であるが、20,000メートル以上の高高度を飛行可能な性能と搭載する精緻な画像撮影を行えるカメラによって、冷戦期のソ連に対する情報収集に貢献した。
就役後のU-2偵察機はその20,000メートルを超える飛行高度から敵戦闘機による迎撃は不可能だったが、1960年にソ連領空に侵入したCIA所属の同機が地対空ミサイルによって撃墜される事件が発生、新時代の到来を予感させた。
米空軍の高高度偵察機の系譜 SR-71偵察機
CIA所属のU-2偵察機が1960年にソ連による地対空ミサイルで撃墜された事件はアメリカでも衝撃を以て迎えられたが、既に同機を凌駕する性能の機体の開発はロッキード(現ロッキード・マーチン)社のスカンクワークスで進められいた。
SR-71偵察機はスカンクワークスが1950年代に開発していたA-12偵察機をベースに開発され1964年に初飛行、アフターバーナーを使用した場合の最高速度はマッハ3.3にも達し、実用化された有人ジェット機では未だ最速である。
SR-71偵察機はA型で全長が32.73メートル、全幅が16.94メートル、全高が5.63メートルで最高速度はマッハ3.3、高度25,000メートル以上を巡行時に飛行可能な性能を持ち、その速度で地対空ミサイルから逃れる事を指向していた。
1996年から運用が開始されたSR-71偵察機ではあったが、U-2偵察機のようなソ連領空内に露骨に侵入して撃墜されるような運用は控えられた事や、軍事衛星の偵察能力の向上もあり、1989年には退役を迎えている。
但し1991年の湾岸戦争や北朝鮮による核開発が懸念された際には、敵側が有効な迎撃手段を保有していない状態ならば軍事衛星よりも精緻な偵察が可能とも考えらえ、1997年には一時的に2機が現役復帰した事もあった。
ただこの体制も翌1998年にはすぐに廃止されSR-71偵察機の運用は再び終了したが、同分野の優先順位はアメリカ空軍の中で相対的に比重を下げた為、未だ同軍では旧式のU-2偵察機の運用を継続している。
しかし2013年にはスカンクワークスによって、SR-71偵察機の直接の後継機と考えて良いSR-72偵察機が開発中である事が明らかとなり、最高速度は何とマッハ6とも言われ、2030年前後での配備を目指している。
このSR-72偵察機の最高速度のみを鑑みた場合、実在が確認されていない幻の偵察機 SR-91オーロラと近いものがあり、それがあながち空想のみの機体とは言えなかった事を体現しているようにも感じられる。
そして実在が確認されていない幻の偵察機 SR-91オーロラ
幻の偵察機・SR-91オーロラが一部の人々の間で実しやかに極秘に開発されているとの憶測を呼んだ背景には、大きく分ければ2つの出来事・要素がその話に信憑性を持たせる要因となった事が挙げられる。
先ずはアメリカで航空宇宙関連の情報を発信しているアヴィエージョン・ウィーク・ネットワークと言う企業があり、ここの旗艦誌がアヴィエーション ウィーク&スペース テクノロジーである。
1990年にこのアヴィエーション ウィーク&スペース テクノロジーが、1985年に行われたアメリカの予算申請の中にオーロラ・プロジェクトと呼称されるものが含まれているとの内容を報じた事に端を発する。
これが極秘裏に幻の偵察機・SR-91オーロラを開発する為の予算申請ではないのかと言う疑問を提起し、スカンクワークス等の当事者側が否定するも巷に流布され広まってしまったと考えられる。
またこれに先立つ1989年にROC(英国防空監視隊)に所属する技術者らが、勤務地の北海周辺の上空において、KC-135空中給油機から給油を受けながら飛行する全翼構造の機体を目撃したと証言した。
この見慣れぬ全翼構造の機体らには、F-111アードヴァーク戦闘爆撃機2機も随伴しており、それらはソニック・ウェーブを発しながら飛び去って行ったとされ、これをSR-91オーロラの目撃例とする説が勃興した。
この目撃例の真偽の程は定かではないが、そもそもKC-135空中給油機の最高速度は音速に遠く及ばす、ソニック・ウェーブを聞いたと言う説明自体が物理的に起こり得ない事は大きな矛盾点であろう。
因みにWikipediaによればSR-91オーロラの推定のスペックは、全長が35.0メートル、全幅が20.0メートル、全高が6.0メートルで最高速度はマッハ5.0~10.0で、形状は上下から見た場合二等辺三角形のような全翼機とされている。
陰謀論が流布しやすくなったインターネット社会の脅威
かつての超音速機であるSR-71偵察機、そしてその直接の後継となるSR-72偵察機が現ロッキード・マーチン社のスカンクワークスで開発されている現状を思えば、SR-91オーロラのコンセプトは実現しつつある。
その意味では幻の偵察機・SR-91オーロラとは決して技術的に非現実的な機体であったとまでは言えないと思えるのだが、今後は仮に撃墜されても人的な損耗を伴わない無人航空機が中心になるのだろうと個人的は感じる。
かつての時代には情報の発進は媒体を持つ主体に限られていた為、どのような荒唐無稽な陰謀論だろうと世に流布する事には時間を要したが、今のインターネット社会がそうした垣根を超えた事に大きな脅威を感じずにはいられない。
※アイキャッチはイメージです。
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