私の母は、いわゆる霊感があり、幼少期からしばしば不思議な体験に遭遇してきた。幸いにも私にはその能力は備わっていないが、折に触れ不可思議な話を聞かされて育った。
今回は、その中から印象に残るエピソードを紹介します。
冬空に現れた祭り提灯
当時小学生だった母が遭遇した不思議な体験。
近くの親戚宅から、実父と一緒に川沿いの道を歩いて帰る途中、向こう岸の上空に大きな赤い提灯がゆらゆらと揺れているのが見えたのだという。
風もなく穏やかな冬の宵。数個の提灯だけが、右に左に踊っている。
「父さん、あれ何? 今晩、祭りでもあるの?」
もうすぐ正月という時期ではあったが、付近で行われている祭りはなかった。
実父は、母が指差す方をひと目見るなり、
「ああ、あれは狸の仕業だ。狸や狐は、ああやって人を馬鹿すんだぞ、お前もだまされんな」と笑いながら教えてくれたという。
その後も、畑仕事に出たまま帰ってこない知り合いを総出で探しに行くと、行水でもするかのように裸姿で肥溜めに浸かっていた不思議な話も聞いたそうだ。
本人は「美人に誘われ、いい気分で温泉に浸かっていた」と話していたという。
私は泊まらない。なぜなら・・・・
母は幼い私と弟を連れ、よく伯母の家に遊びに出かけた。伯母宅のすぐ前には在来線の踏切があり、家の中にいてもカンカンと警告音がよく聞こえた。
当時電車が好きだった弟は、間近を通過する電車を飽かずに眺めていた。私は、年上の従兄弟とレコードを聞いたり、話すのが楽しみだったこともあり、そのまま伯母宅へ泊まることが多かった。
一方、母は喘息持ちだった弟を気遣ってか「私は泊まらない。明日迎えに来るから」と、私を置いて帰ってしまうことがほとんどだった。
大人になり、母と伯母宅の思い出話をした時のこと。母に「あの当時、どうして一緒に泊まってくれなかったの?(弟の)喘息がひどくない時もあったし、伯母さんだって、泊まって行けば、って勧めてくれたこともあったのに」と質問してみた。
すると、思いがけない答えが母から帰ってきた。
「あの家は、嫌だったの・・・。手と足が飛んで来るから」
一瞬何のことかわからず戸惑っていると
「あの家に一度泊まった時、夜、寝ていたら、ちぎれた手足が枕元に飛んできたの。多分、あそこの踏切事故の後だったんじゃないかな」と、戦慄の霊体験を回想する母。
霊感があるばかりに、見たくないものまで、見せられてしまうなんて・・・。
現在は伯母も亡くなり、家も取り壊され、跡地は駐車場になっている。
やはり、故人はあの場所に・・・
母とともに伯母の墓参りに行ったときのこと。
墓前で線香を焚こうとしていると、母が突然「あら、Mちゃんだ」と顔を輝かせた。
「Mちゃん」とは、伯母の愛称。私には墓石しか見えないのに、母には、墓石のそばに佇んで微笑む伯母の姿がありありと見えているのだ。
しかも、その姿は、割烹着に長靴という、働き者の伯母らしい服装だったという。
「墓前で泣かないで、なぜならそこに私はいないから・・・」という有名な曲があるが、故人は墓前で、訪ね来る人を待っていることもあるようだ。
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