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夜の怪音

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夜2時頃にトイレに起きて、ベットに帰ろうとした時、何かザアーザアーと、掃除機の動くような騒音が聞こえた。不思議に思ってあちこちの部屋を覗いてみたが、別に変ったことは無い。眠たいのでそのままベットに行って寝てしまった。3時半ごろに再びトイレに目覚める。パンツ一丁で冷房をガンガン掛けているので、真夏でも結構冷えてくるのである。僕は冷房を止め、扇風機に切り替えた。ついでにトイレもして帰ろうとしていた時、やっぱりザアーザアーという音が聞こえた。

僕の部屋に入ってしまうと聞こえなくなるが、居間に戻ると聞こえるので何か気持ち悪い。誰か外で掃除でもしているのかとも思ったがこの時間である。水木しげるの妖怪図鑑で「掃除すまし」とか調べようかと一瞬頭に浮かんだが、そんな考えはもちろん否定する。それとも、小野不由美の「残穢」の世界か。もう一度部屋を検めたが、音の原因は解らない。その時ふっと誰も居ない居間に僕は何故居るのだろうと思った。

これはもしかすると現実の世界から離れてしまったのではないかという気がしたのだ。時々怖い話など無理して書いているので、その世界の入り口が開き、呼ばれているのではないかと、少し怖くなった。どこから聞こえてくるのだろう……。僕はもう一度夫々の部屋を開けてみた。部屋を開けて中に入ると音は消えてなくなる。

僕が入った瞬間、魔物は消えてしまうのだろうか。僕はたぶらかされているのだろうか。音の所在がつかめない――狂気と正常の境はごく薄い膜で隔てられていて、僕はそのマスクを破ろうとしていたのかもしれない。あわてて自分のベットに飛び込む。しかし気になって眠れない。僕は狂ってしまうのだろうかと本気で心配していたら、いつの間にか寝てしまっていた。朝のバイトの時間である。

現実の朝の光の中でも、あの音は鳴り続けていた。いっそママ(妻)を起こして幻聴かどうか確かめようと思ったが、すやすやと寝ているママの顔を見ると、ママの平安を邪魔する気にはなれなかった。バイトから帰ってから今一度ママにも聞こえるか確認してもらおうと思ったその時、ふと椅子の上のCDラジカセを見ると電源が入っているのである。スイッチを切ると、あっけなく雑音は聞こえなくなった。なあんだ――猫の通り道になっていたので、猫が電源を入れてしまったのだ。僕はあっけない結末にあきれると同時に安心した。

超常現象とかいうものは、ほとんど蓋を開けてみるとこういった事だろう。でも、その内のいくつかは真実であり、全てを否定しきれないと、思っている。「世の中の怪異というものは存在しないのだよ」と京極氏のようには断定出来ないでいる。平凡と小心さを絵にかいたような僕でもUFOを見ている。

子供の頃、風呂屋の帰りに七色のUFOが空にかかっているのを見たのだ。それは風呂屋のタイル画の富士山みたいに陳腐な姿でピカピカ黒雲の中で光っていたのではあったが、鮮烈に僕の記憶に残っている。また同じころ運動場で遊んでいると、後ろから何かが飛んでくる気がしたので、頭を下げると僕の頭上をボールが飛んで行った。僕は髪の毛にその風圧を感じた。周りはなぜかびっくりしていた。

成人してからは、会社のジャンケン大会、年末の余興だったのであるが、僕は何となく勝ち進んで優勝してしまい商品を貰ってしまった。本来なら僕はスタッフであったので、営業とかがもらえば良かったのだが……。同僚のそれはないよお前、という冷たい視線にもめけず、僕は貰うものはもらつたのだ。ジャンケンに強いわけではないが、子供の時でもある時期、全然負けない時があった。何故か相手の出す手が解ってしまうのである。会社に勤めても上昇志向のない僕を母が見て、お前は宝くじで一発当てた方が良いのかもしれないね、と言われた事がある。でも欲を漕いて買うと全く当たらないのだ。

最近では大きな本屋でうろうろしていて、急に視線を移すと、今まで見ていた本棚の端に女の人の残影を見てしまうことがある。えっ、と思って視線を戻してもそこには誰も居ない。まあ、僕に起こる事だから誰でも経験があるだろう。とりたてての大きな怪異ではない。でも日常の中にこのように小さな怪異が潜んでいる事は解るので、感知能力の高い人はより多くもっとすごい経験するのではないかと想像してしまうのである。

ペンネーム:工藤不羅
怖い話公募コンペ参加作品です。もしよければ、評価や感想をお願いします。

※画像はイメージです。

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