密教の奥義を男女の性交に求め、得られる快楽こそが人を即身成仏の境地に導くとした。
真言密教の異端、立川流について紹介します。
真言立川流の成り立ちと彼の法集団の謎
実は、立川流には2つの流れがあり、本流と亜流ともいうべきものです。
本流とは、平安時代の真言宗の僧、仁寛とその弟子見蓮によって創始された真言宗醍醐派三宝院の宗派です。
一方亜流とは、荼枳尼天を信仰し、髑髏を本尊と崇め、その前で行う性交時の絶頂感こそが即身成仏にいたる道だと説き、邪教と言われることになった一派です。
この2つの立川流はいままで、同じことのようにあつかわれていましたがまったくの別ものです。それがいつのまにか同一視され、混同されて今に至っているのが実情です。実際、本流を継承する僧、心定は「受法用心集」という本のなかで、この一派を非難しています。
その時に使われた名称が「彼の法」の集団というものです。
この「彼の法」集団こそが、いわゆる邪教立川流なのです。
それでは、この「彼の法」集団の本当の名称は?創始者は?という話になりますが、これもまた詳しくはわかっていません。
インドのタントラ哲学と真言宗の教えをあわせたものだという人もいれば、当時の民間信仰に真言宗の教えを付け加えたものだという人もいます。現代でも、男根をご本尊にして、安産祈願をする民間信仰があることを考えれば、あながち嘘とも言えませんが、しかし、あまりにも資料が乏しいのが現実とは言え、残念でなりません。
その信仰と教義
「彼の法」集団が信仰するのは荼枳尼天(ダキニ天)という女性の神です。
もとはインド神で、夜叉の一種とされ、人が死ぬ数カ月前にそれを察知し、その心臓を喰らうと言われ、鬼としての一面も持っています。しかし日本では、このダキニの法を修すると自在の力が与えられると伝えられています。
「彼の法」はこの荼枳尼天の法を、性の交合を通じて会得し、自在の能力を手に入れようとしたというわけです。
人間の頭蓋骨に金箔を貼った髑髏を置き、そこに男女の精液、愛液をぬる。そして、その髑髏の前で儀式的な性交をおこない、歓喜のなかで悟りを開き、即身成仏になり、また、現世でのご利益を祈願したといいます。
当時、世間では墓荒らしが頻繁に起こり、髑髏を使い異様な儀式を行う僧が溢れかえっていたといいます。
後醍醐天皇は幕府にとって代わられた政権を取り戻すために、この信仰を利用したとも言われています。
隆盛と衰退
一時はこれだけの隆盛を究めた「彼の法」集団ですが、その勢いは急速に衰えます。真言宗、天台宗の密教本流派から、ほとんど一斉に批判を浴び、糾弾されてしまったからです。
明確な指導者がいなかったことも、衰退の原因だったに違いありません。14世紀半ば(室町時代初期)には消滅してしまったと考えられています。
今では失われてしまった教義ですが、たとえ今に生き残ったとしても、カルトとしての誹りは免れないだろうと思います。しかし、日本の異端の宗教、信仰を語る上では決して欠かすことのできないものであることはたしかです。
featured image:Osaka City Museum of Fine Arts, Public domain, via Wikimedia Commons
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