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昔話「手なしむすめ」に描かれる文化上の忌避的存在

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知人との会話の中に、昔話の「手なしむすめ」が出てきた。当事者たる自分が振り返っても随分とマニアックな会話だったのだが、妙に会話がかみ合わない事態が発生。
すぐに解決し、その後そこから湧いた素朴な疑問が興味深かったので少しだけ掘り下げていく。

目次

昔話「手なしむすめ」

昔話「手なしむすめ」といえば、父により両の手を落とされた娘が様々な存在の力を借りて、子と一緒にたくましく生きる話だ。先述した「かみ合わない事態」は、同じタイトルの昔話がグリム童話と日本昔話にあったため。

大筋は同じだが、
「娘の両腕を削ぐように父に言いつけたのは誰か」
「己の欲のために、娘の不幸を切に願った存在は何か」
この点に大きな違いがあるようで、その実まったく違う文化圏に基づく『悪役』について語り合っていた。道理で議論が成り立たないはずである。

グリム童話『手なしむすめ』

1812年ドイツで出版された、ヤーコプとヴィルヘルムのグリム兄弟著『初版グリム童話集』に収録されている手無し娘。

困窮した粉屋の娘で、悪魔に命を狙われ、結果両腕を落とされ家を出る。娘の父に甘言を用いて契約を持ち込み、娘を連れ去ろうと目論むあたりは悪意に満ちているものの、ヨーロッパ含む諸外国に伝わる『悪魔』という存在は存外相手と交わした『契約』は律儀に守り、その身に課された『制約』にはしっかりと縛られる傾向がある。悪魔は娘を連れ去るためにアレコレ策を講じ腕まで切り落とさせたが、清い娘の涙に近寄る事すらできず娘を諦めている。

その後も信心深い娘を困らせるためにあらゆる妨害策に出るが、グリムの『手なしむすめ』に描かれる悪役像は「困る者の心の隙に付け入り欲のために動く悪魔」であるといえる。

日本昔話『手なしむすめ』

対して日本昔話の手無し娘はどうだろう。確認できる初掲載は1869年『高野山女人堂由来記』。

高野山は現在の和歌山県、娘の家があるのは佐渡・・・新潟県であるが、話自体は日本各地に分布しているようだ。娘への縁談が破談になるよう仕向け、両腕を切り落として家から追放するのは娘の継母。継母には血の繋がった連れ子があり、我が子を差し置き縁談が決まった娘への「私の実娘より幸せになるな」という身勝手な思惑など、伝わる地方によりバリエーションが認められたが、共通して凶行のきっかけは血の繋がらない娘への嫉妬であり、日本の『手なしむすめ』は代々継子譚として語り継がれている。

グリムの『手なしむすめ』と照らし合わせると、あちらでいう悪役、『悪魔』の立ち位置には「執念深く継子を蹴落とそうとする継母」が宛がわれる。

各文化圏では何を・・・

各文化圏では何を『善』『悪』『忌避』『救い』とするか
『手なしむすめ』の中で、その作中に登場する存在をそれぞれ見ていくと、各文化圏での『善の存在』『悪の存在』など象徴的なものが見えてくる。

例えば家を追われる苦難や腕が無くなる試練に苛まれる娘は共通して他者から救いの手を差し伸べられる清い心を持っており、これは「民衆が常日頃から心がけるべき振る舞いの模範」を現している。加えてグリム童話では『悪魔に打ち勝つほどの熱心な信仰心』、日本昔話では『夫に見初められるほどの器量と魅力』が描かれ、この辺りも文化の違いが見られる。
そして「抱くべきではない邪念」「こうなってはいけないという反面教師的存在」をそれぞれ『欲深い悪魔』と『嫉妬に狂った継母』が示唆している。こういった負の存在は物語に教訓的意味を持たせるために報復を受けて終わるパターンもある(継母が最後に盲目になるなど)。

更には娘を助ける存在にも相違点が見られる。グリム童話だと『天使』、日本昔話では『夫やその家族』…もう少し言えば『娘の境遇を受け入れる理解者』だ。違いはあるが、どちらも「娘のように困る他者にはこう接するべき」を示唆しているともいえる。

『罪』はどこからくるのか

それぞれの文化圏で『罪』はどこからくるのか。グリム童話が広まる西欧圏では罪は悪魔のような外部からもたらされるもの、対して日本では罪とは人間の内から湧き、人間が犯すものであるとの認識がある。どちらも宗教観が大いに影響しているので、最後に娘の両腕を生やす、いわゆる『救い』は神や地蔵の加護など信心深い娘への慈悲である点は共通しているようだ。

手無し娘は西欧・日本だけでなく他の文化圏でも類似した話が伝わっている。古い時代に分化したらしく「失うのは腕ではなく両目」など相違点も見られ、突き詰めればもっと興味深い文化圏と宗教観の違いも発見できそうであるが、またの機会に取り置き、一端ここで筆を置くことにする。

※画像はイメージです。

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