SFと歴史浪漫が神秘によって紡がれる、未完の大河作品「トリニティ・ブラッド」をご紹介!

社会の影、闇と霧の向こうに超自然的な神秘が我が物顔で跋扈する世界。人類は正邪を確固として切り分ける厳格なる規律と戦う術を古き信仰へと見出し、閉ざされた生存圏を強固に固める生き方を採った…ダークエイジとも呼ばれる中世~近世欧州における歴史情勢を彷彿とさせる世界観に、現代から果ては超未来技術を織り交ぜたポスト・アポカリプスの如き退廃を感じさせる神秘の霧が立ち込める中を銃火に剣戟、権謀術数祈りと嘲笑が交錯する大活劇が、本作「トリニティ・ブラッド」の世界です。

「高度に発達した技術はやがて魔法と区別が付かなくなる」という言葉を地で行く、SFを土台とした神秘(オカルティズム)に結びつく洗練された退廃の霧が世界を覆う、血と鋼、規律と恐怖が織り為すハイコンテクストな黙示録世界には圧倒される事間違い無し!
本作はアニメ化もされた作品ではありますが、その圧倒的な情報量からなる世界観を味わう上で原作小説をおいて語る事は出来ないので、敢えて原作小説を軸に紹介致します。

SFとオカルティズムが鮮烈に彩る麗しき退廃!

SFとオカルティズムが鮮烈に彩る麗しき退廃!中世の風情を超技術で織り上げた、歪で精緻な世界にようこそ!

本作はその作品世界として、人類が遠宇宙への進出も目指せる程に技術を発展させた世界において、その生存圏を徹底的に破壊し、記録すらまともに残せない程の大災厄をもたらした後の世界。
SFでの分類におけるポスト・アポカリプスを背景として、生き残った者が荒廃した世界をようやく中世レベルにまで再建、かつての世界宗教を基盤とした権威主義を中央として技術や知識を配分し社会構造を維持・発展させる一方で、大災厄の過程で人から分離し、超常の存在となってしまった長命の者との生存圏争いや文化的対立を織り交ぜて行く事で、灯り無き闇と怪異が支配する中世の穏やかならざる空気を持ちながら、ある所では煌びやかな社交界を豪華列車や飛行船が結び、他方では機械化された異形の騎士が魔法の域に達した超技術と火花を散らす、豪華絢爛な世界が顕現しているのです。

この複雑精緻な背景世界を丁寧な筆致で描き出し、一癖も二癖もある魅力的なキャラクター達をこれでもかと深彫りしていく事で、その日常から様々な事件の謎へ迫る捜査、或いは銃火から陰謀までありとあらゆる手練手管で以て織り為される丁々発止の物語は、幾重にも重厚に絡み合いながら、而してとても小気味良く味わい深い没入感で以て楽しめる作品となっています。

特に本稿で以て触れておきたいのは、こだわりを持って描かれる武器と戦術描写の重厚さです。
主人公アベル・ナイトロード神父有するは古式ゆかしい回転式拳銃…わざわざ「パーカッション・リボルバー」とルビを振るこだわりようで、火薬が湿気ている為に不発するポンコツぶりを演じて見せる事もあれば、持ち主の鍛え抜かれた射撃技術を遺憾なく発揮するファニングで以て活躍を助けるなどいぶし銀の存在感を放って見せます。

主人公の怜悧な同僚トレス・イクスは「ガンスリンガー」のコードネームが物語るように、小口径砲かと言わんばかりの大口径戦闘用拳銃を両手に引っ提げ、戦闘機械よろしくの正確無比かつ迅速な大立ち回りを見せ付けます。
かと思えば彼らの宿敵として立ち塞がる事となる「薔薇十字騎士団」の怪人達は、単分子ワイヤーや電磁防壁、粒子加速砲にマイクロマシン等々超技術の産物をあたかも魔術の如きに扱っては途轍もない戦闘力を示していきます。

本作ではこのような数々の描写が1エピソード毎に趣を異にしてはこれでもかと積み重ねられていき、話が進む度に新鮮な驚きで以て物語が展開していきます。
武器と戦闘描写だけで何処までも語れてしまう、ミリタリー方面からも読み応え抜群という贅沢な作品となっています。

その背景に歴史有り

その背景に歴史有り。確固とした知識に裏打ちされる編み込まれた世界観は現実から見直しても好奇心が刺激される事間違い無し!

「トリニティ・ブラッド」が語る作品世界は、物語としてはSFにおけるポスト・アポカリプス…人類による破壊的戦乱によって居住環境が大きく損なわれた地球を舞台とする、遠未来型の物語として描かれます。
しかし、その再建された世界はかつての中世欧州…史学においても暗黒時代(ダークエイジ)と呼ばれる事もある文化的退廃期から近世ルネサンス期の隆盛期にかけてをモチーフとした権力構造をベースに描かれています。
勢力圏はこれを単純化しており、人類側版図を取り仕切る「教皇庁」と吸血鬼(作中では長生種とも)側となる「帝国」の2大勢力を軸とした物語が展開されていきます。

一見してシンプルにまとめ上げられているこの構図ですが、物語が進んで行くにつれ、主人公らの「調査」が各地のより詳細な情勢を明らかにしていく中で、それがあたかも「現実の歴史」をなぞっているかのように細やかなやり取りが幾重にも重なり構築されている様を見事に描き上げているのが、本作が持つ醍醐味となっています。

表面上は真っ向から対立する人類と吸血鬼・・・しかしその衝突の合間において、緩やかな自治を構築し、或いはその超常の力を野心的に利用する繋がりが有り、或いは盲目的な恐怖から狂的な弾圧と排斥を生み、何処かで適度な距離を取って静かにお互いを見据え合うという・・・。
人と人が文化を作り上げては異文化を見出し、受け入れ、或いは排斥し合う関係が歴史を作り、歴史がまた文化を生み出しては人を作り上げて行った歴史模様を見返すような楽しみが、本作に通底する魅力として存在しているのです。

本作に数々登場するその歴史用語の片鱗・・・「教皇庁」を始めとする各国や都市の名称、引いては「薔薇十字騎士団(ローゼンクロイツオルデン)」といった秘密結社すら、実は歴史上に登場するものとして語られるものです。
オカルトもまた、歴史上その役割の一端を担う事があったというような「物語」に触れる楽しみにおいても、本作は存在感を示す作品であると言えるものになっています。

「トリニティ・ブラッド」

「トリニティ・ブラッド」は、ここまで紹介させて頂いたように、SFでありミリタリーであり、歴史伝奇でありオカルトでもあるという、サブカルチャーを愛好する者であればどれか一つは必ず刺さるであろうと言える程の要素を丁寧に織り上げ、その緻密な構成によって見事な完成度へと至らしめた作品であり、原作小説を始めアニメ化、コミックス化と展開されました。
惜しむらくは、作者である「吉田直」氏の急逝によって未完の物語となってしまった事に他なりません。

しかしながら、本稿の紹介をここまで興味を持って読んで頂いた方であれば、例え物語として語られる事はもう無くとも、作者である「吉田直」氏の作り上げた世界が大きな存在感を持って「息づいている」世界であると見てもらえるのではないかと思う次第です。

筆者個人として敬愛して止まないこの大いなる世界を愛好してくれる方が、このような紹介で一人でも触れる機会を得て頂けるのであれば望外の喜びです。
例えば冬の一日、お家時間を費やす一作として如何でしょうか。

科学・学習漫画から歴史好きを経てサブカルへと踏み込んでいったうんちくオタクにとって、これ以上無い程にド直球の超豪華全部載せ作品。語られる事の無くなった結末も含めて魅力を放つ圧倒的世界観は「体験」する価値ありです!

(C)トリニティ・ブラッド 吉田直 角川/角川スニーカー文庫

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