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ロシア製狙撃銃VSSを解説

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旧ソ連軍時代から含めて現ロシア軍でもその特殊部隊と言えば「スペツナズ」の存在を連想される方が多いと思われるが、この「スペツナズ」自体は何か固有の特定の部隊を指し示す用語ではない。
「スペツナズ」とは旧ソ連軍や現ロシア軍内で編成された全ての特殊部隊の事を示す総称であり、この2022年のウクライナ戦争初期にウクライナのアントノフ国際空港の強襲に参加したとの説も囁かれた。

これは真偽の程は不確かな情報で公にはロシア・ウクライナの双方を問わず、こうした事実を確認できるものはないが、そうした説が巷間に現れる程に「スペツナズ」という単語はどこか脳裏に響く。
そんな独特の印象を醸し出さずにはおれない現ロシア軍の特殊部隊だが、そうした部隊専用での運用を想定し、極めてニッチなニーズを具現化した装備にVSSという狙撃銃が存在している。

目次

驚きの発想で消音化を実現すべく開発されたVSS狙撃銃

旧ソ連軍・現ロシア軍で狙撃銃と言えば1960年代に開発され今現在も使用されているドラグノフの知名度が高いだろう。こちらはAKシリーズの操作系を踏襲しつつ、7.62x54mmR弾を使用し分隊単位に配備されている。
その意味でドラグノフはアメリカ陸軍で言うところのマークスマンに相当する位置づけと言えるが、それらと異なりVSS狙撃銃は旧ソ連末期の1987年、特殊部隊に向けた専用の狙撃銃として開発された。

それまでの旧ソ連軍では特殊部隊向けの狙撃銃としても主力小銃であるAKシリーズに消音機を取り付けて使用していたが、銃口初速が7.62x39mm弾で730m/秒以上、5.45x39mm弾で900m/秒以上もあり効果が薄かった。
これは銃の発砲音は、銃口から弾丸の発射と同時に漏れる炸薬の爆発音と、弾丸自体が音速を超過して飛翔する場合はそこから生じるソニック・ブームの音も加味されてしまう為、避けられない現象だった。

音速は標準的な気温15℃で約340m/秒であり、先のAKシリーズの弾薬の場合でもこの基準の軽く2倍以上に相当する為、発砲音はある程度低減できても、ソニック・ブームを抑える事は物理的に困難である。
そこで旧ソ連軍が思い至ったのが銃口初速で音速の約340m/秒を下回る専用弾薬とそれを用いる狙撃銃の開発であり、そこで生み出されたのが9x39mm弾とVSS狙撃銃として具現化された。

これを開発した理由は、当時の戦場であったアフガニスタンやチェチェンにおいて、旧ソ連軍の特殊部隊が行っていた敵勢力の排除手法に必須であると言う、特殊部隊運用の戦訓からだと言える。
例えば拳銃の場合には今や世界標準となった9x19mm弾は銃口初速で音速の340m/秒を超過するケースが多い事から、一部の特殊部隊で亜音速の45ACP弾と消音機の組み合わせは今でも採用されている。
しかしアメリカを始めとする西側諸国の銃器開発の場では、この理論を拳銃よりも遥かに大型の狙撃銃に当て嵌めようとする試みは皆無であり、旧ソ連軍の発想には驚きを禁じ得ない。

Vitaly V. Kuzmin, CC BY-SA 4.0, ウィキメディア・コモンズ経由

VSS狙撃銃の仕様・概要

VSS狙撃銃は全長894mm、銃身長200mm、重量2,600g(光学照準器・弾薬込みの装備重量で3,410g)、9x39mm弾の10発若しくは20発箱型弾倉の仕様が可能で、反全自動の切り替えに対応している。
銃口初速は290m/秒に抑えられ、これによって短い銃身全てを蔽うように取り付けられた消音機の性能をフルに発揮し、一応使用可能な全自動時の最大発射速度は毎分900発に達する。

VSS狙撃銃の特徴はやはりその消音効果に重点を置いた造りに窺え、消音機に覆われ肉厚に見えるバレルと、下部は銃床に繋がったデザインの木製の穴あきピストルブリップが特徴的である。
旧ソ連軍がVSS狙撃銃の開発にあたって提示した指標は、400m程の中距離射撃で敵のボディアーマーを貫通する事が可能な威力を持ち、同時に高い消音性能を備えるというものであった。

この400mと言う距離は前述したアメリカ陸軍のマークスマン等で想定される交戦距離が凡そ800mと言われている事に比すれば圧倒的に短く、如何にVSS狙撃銃が狭い用途に絞った存在なのかを物語る。
通常の狙撃任務よりも遥かに短い距離での射撃を意図しているが故に、消音性能に拘ったと言う事も言えそうで、このために敵からの反撃を受けた場合も想定して制圧火力も持たせるべく全自動射撃も残したとされる。

VSS狙撃銃に開発された専用弾薬 9x39mm弾

VSS狙撃銃は、400m程の中距離射撃で敵のボディアーマーを貫通する事が可能な威力を持ち、同時に高い消音性能を備える事をコンセプトに開発された事は述べたが、それを実現させたのが9x39mm弾である。
この9x39mm弾はAK-47やAKM等に使用された7.62x39mm弾をベースに弾頭部分の直径を拡大したものであり、弾頭重量はその大型化によって凡そ18gとなっており、7.62x39mm弾に比べて約2倍程に増加している。

敵のボディアーマーの貫通を狙うという点においては、ベルギーのFN社のP90やドイツH&K社のMP-7等のPDWにも通じるものがあるが、これらが5.7mmや4.6mmと言った小口径高速弾を用いて速度でそれを達成したのとは対極にある。
9x39mm弾には主として2種類が生産されており、ひとつはSP-5と呼称される通常のフルメタルジャケット弾であり、もうひとつがSP-6とでこちらは所謂徹甲弾であり、より貫通力に優れた弾薬となっている。

VSS狙撃銃以外に9x39mm弾を使用する銃器たち

9x39mm弾はこれまで見てきたようにVSS狙撃銃のコンセプトを実現できるように開発された弾薬ではあるが、他にも使用する銃器を増やす事で、弾薬そのものを一定数以上生産してコストを低減する手法が図られた。
そうした銃には先ずAS Valがあり、VSS狙撃銃をベースに固定式の銃床を根元から銃本体側に折って収納可能とし、更に光学照準器を省略して通常のアサルトライフル的な運用に供する事を目的としている。

続いてがSR-3 Vikhrであり、こちらはAS Valから消音機を省いて折り畳み式の銃床を横折れ式ではなく、上部への回転式に改めており、運用上からはサブマシンガンに相当し、これを更に簡素化した9A-91と言うモデルもある。
複雑なのはこの9A-91をベースとしたVSK-94という狙撃銃がある点で、サブマシンガン化した筈のものに再度消音機と光学照準器を付与しており、VSS狙撃銃の廉価ヴァージョンと見做されている。

SR-3M / AS Val / VSS
Vitaly V. Kuzmin, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

ウクライナ戦争へのVSS狙撃銃の投入はあるのか?

2022年6月上旬の時点では東部のドンバス地方におけるロシア軍の攻勢が伝えられているウクライナ戦争だが、基本長距離での火砲の撃ち合いで戦闘の流れが左右されているようで歩兵部隊による制圧戦闘は少なく見える。
しかしこれまでのマウリポリの製鉄所の陥落に見たように、最終的には歩兵部隊による突入で完全制圧を実現するしかなく、激戦の続くセベロドネツク市街地でも同様な展開が予期されている。

そうした戦闘においては一部にVSS狙撃銃を装備したような特殊部隊が送り込まれる事があるやもしれず、確保した廃墟等の中から残存するウクライナ兵を排除する役割を担う可能性もゼロではないだろう。

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