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最後の反乱で世界で最も知名度の高いPMCとなったワグネル

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2023年8月現在、ロシア・ウクライナ戦争におけるウクライナ側の反攻作戦は、残念ながら事前に一部で予期された程の成功は収められておらず、防備を固めたロシア側の陣地をウクライナ側が突破する事の困難さを改めて実感させられた。

ここに来てのウクライナ側の反攻作戦の停滞については、やはり西側諸国が供与した兵器の数が十分ではないとの指摘や、戦闘機を用いた近接航空支援なしに攻勢を行う事の非合理性が西側のメディアからも噴出している。そうした中、今年2023年の初頭から6月にかけてロシア側はバフムトの市街地を事実上占拠する事に成功したが、ここでその大役を全うしたのは同国の正規軍ではなく、PMC(民間軍事会社)のワグネルだった。

このバフムトの占拠と言う大きな戦果は無論だが、PMC(民間軍事会社)のワグネルはそのオーナーであるエフゲニー・プリゴジン氏のSNS等でのスタンド・プレーとも言うべきアピールも相まって、世界的に知名度を大きく向上させた。
そこで今回はこのエフゲニー・プリゴジン氏が率いるPMC(民間軍事会社)のワグネルについて、その概要とこれまでの事績を簡単に紹介してみたいと思う。

目次

そもそもPMC(民間軍事会社)とは何か

エフゲニー・プリゴジン氏が率いるPMC(民間軍事会社)のワグネルが、このロシア・ウクライナ戦争においては世界中で大きな注目を浴びる存在となったが、そもそもPMC(民間軍事会社)とは如何なるものだろうか。
PMC(民間軍事会社)とは、プライベート・ミリタリー・カンパニーの頭文字であり、主として紛争地域において実際の戦闘行為や、施設や要人等の警備、そして現地軍等への軍事教練や、兵站を支える輸送業務等を担う民間の企業とされている。

人類の戦争の歴史において軍事力を提供する事で金銭的な報酬を得る行為、またその従事者は主として傭兵と呼称されてきたが、PMC(民間軍事会社)は2000年代以後に中東地域の治安維持で大きく躍進したと考えられている。
そこではアメリカがイラクやアフガニスタン等へ正規軍を投入し戦闘行動を行った後、その後の治安維持の名目でPMC(民間軍事会社)が活用され、後方地域の警備を主体に業務を請け負う形で成長を遂げた事が顕著だ。

ここではアメリカ等の西側諸国のPMC(民間軍事会社)が多用されたが、紛争地域の後方の治安維持と言えば聞こえは良いが、要は正規軍では発生する人的損害を公表する義務が生じる為、その隠れ蓑に用いられたと見る向きも多い。
事実このPMC(民間軍事会社)の活用によって、アメリカは正規軍の兵員の損害を見かけ上は低く抑える事に成功し、国内の中東への派兵の政治的な反対の声を、出来るだけ抑制する事に利用したと言って良いだろう。
但しあくまでもアメリカ等のPMC(民間軍事会社)の活動は後方の補助的な任務に限定され、最前線における戦闘行為等には参加はさせず、経済的な合理性による業務委託という仕組みを戦地に取り入れた形だった。

PMC(民間軍事会社)としてのワグネルの起こり

今でこそロシア・ウクライナ戦争におけるバフムト占拠の戦果や、オーナーであるエフゲニー・プリゴジン氏の存在によって、ロシアを代表するPMC(民間軍事会社)と見做されるようになったワグネルだが、起こりは少々入り組んでいる。そもそもロシアの国内法では今に至るもPMC(民間軍事会社)の存在を公的に認めておらず、ワグネルは本拠を同国のレニングラード州のサンクトペテルブルクに構えてはいるものの、表の組織とは言い難い。

そんなワグネルが非合法組織ながら活動を始めたのは2014年の事で、今のロシア・ウクライナ戦争の引き金となったクリミア半島の併合に際して、その目的の実現に送り込まれた事が原点になったと考えられている。
そしてワグネルは同年、ウクライナのルハンスク地方におけるその地の親ロシア派と共に戦闘行動に参加、ロシア系のPMC(民間軍事会社)としては後発だったにも関わらず、大きな存在感を示す組織となった。

ここでワグネルの実働部隊の指揮を執ったのは、ドミトリー・ヴァレリエヴィチ・ウトキン氏であり、同氏はロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)傘下の特殊部の旅団長で中佐を務めた経歴の持ち主とされている。
ドミトリー・ヴァレリエヴィチ・ウトキン氏は2013年にロシア連邦軍参謀本部情報総局を退役した後、同様の退役軍人達が創設したモラン・セキュリティ・グループに参加、PMC(民間軍事会社)での経歴をスタートさせる。
シリア等での活動に従事した後、ドミトリー・ヴァレリエヴィチ・ウトキン氏は2014年よりワグネルの司令官となり、前述したウクライナのルハンスク地方や、シリアでの任務で指揮を執ったと目されている。

ワグネルのオーナーとしてロシア・ウクライナ戦争で露出を増加させたエフゲニー・プリゴジン氏と異なり、ドミトリー・ヴァレリエヴィチ・ウトキン氏は2016年末のクレムリン主催のパーティ以後は公には姿を見せていない。
しかしPMC(民間軍事会社)としてのワグネルという組織の名称は、ドミトリー・ヴァレリエヴィチ・ウトキン氏がロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)から用いていた偽名(コールサイン)に由来すると言う説も流布されている。

PMC(民間軍事会社)ワグネルの主な活動

PMC(民間軍事会社)としてワグネルは、前述したように2014年のクリミア半島の併合に暗躍した他、2015年にはシリアのアサド政権の支援にロシア正規軍の投入以前に送り込まれ、その地ならし的な活動に従事したとされる。
次いで2017年にワグネルの部隊は、リビアの反体制派組織で同国の東部を支配下に置いていたリビア国民軍の支援に赴き、これを皮切りにスーダン、モザンビーク等の多数のアフリカ諸国に派遣された。

これらの派遣先のアフリカ諸国においてワグネルは、現地の軍の教練や警備任務に従事する傍ら、実際の戦闘行動にも参加するなど、ロシア政府の意向を受けてその先兵としての活動を正規軍の代わりに請け負った。
ワグネルはPMC(民間軍事会社)として、これらの派遣先のアフリカ諸国で軍事的な活動を行う事と並行し、多数の子会社を用いて鉱山の採掘権や森林の伐採権等の利権を握り、大きな経済的な利得も手にしている。

西側諸国のマスメディア等でワグネルの名が広く報道されるようになったのは、2020年以後の西アフリカのマリ共和国における行動がきっかけであり、同国やロシア側は否定しているがロシア軍の支援の元、イスラム勢力への軍事行動を行ったと見られている。
ロシア政府は表立って正規軍を投入した場合、国際的な問題に発展する事を危惧し、ワグネルを正規軍の支援の元で活動させたと見做されており、正にロシア政府の意向を体現する先兵となっていると言えるだろう。

ワグネルの部隊が派遣されたシリア・アラブ共和国や中央アフリカ共和国等の政府は、そのロシアの支援を自らの存続に貢献しているとして容認しているが、西側諸国の多数からその行為は戦争犯罪の疑いがもたれている。
ワグネル部隊員のこれらの派遣先での行為には、民間人に向けた強姦や略奪、敵兵の捕虜に対する拷問等の疑いがかけられており、殊にマリ共和国や中央アフリカ共和国においては民間人の虐殺行為が指摘されている。

こうした疑いから2021年12月にはEUがワグネルを含む3社と元ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)の人物らに経済制裁を課し、アメリカもエフゲニー・プリゴジン氏の動きに香港系の企業も関与したと見做し、同様の対応を行っている。

ロシア・ウクライナ戦争におけるワグネルの反乱

ロシア・ウクライナ戦争において、2023年5月下旬にウクライナのバフムトの事実上の占拠と言う戦果を挙げたワグネルだったが、それ以前からオーナーであるエフゲニー・プリゴジン氏はロシア軍の上層部を非難していた。
それは度々SNS上でエフゲニー・プリゴジン氏が汚い口調で、ロシア軍のショイグ国防大臣やゲラシモフ参謀総長を罵倒する動画等で公然の事実となっていたが、ワグネルのバフムトでの任務完了に伴う撤退で一気に事態が動いた。

エフゲニー・プリゴジン氏曰く、バフムトから撤退するワグネルの部隊の進路にロシア国防省が妨害を企図して複数の地雷を敷設していたと主張、2023年6月23日に同氏はこの行為への抗議として、モスクワへの進軍を開始した。
このワグネル部隊の進撃は、ロシア軍の回転翼機や輸送機を撃墜すると言う事態に迄及び、世界の耳目を集めたが、翌24日にはモスクワ迄凡そ200キロメートルと言う地点で停止され、あっけなく終焉を迎えた。

エフゲニー・プリゴジン氏がモスクワへの進撃を突如として中止した理由は、ベラルーシのルカシェンコ大統領が仲介役を果たし、思いとどまらせたと公には発表されたが、何とも不可解な幕切れに映った。

ワグネルの今後の個人的な予想

モスクワへの進撃を僅か1日で停止したとは言え、ロシア国防省、引いてはロシア政府そのものに弓を引いたエフゲニー・プリゴジン氏が、公的に罪に問われる事も無く、今も自由の身である事には違和感しか感じない。

何れかのタイミングでプーチン政権がエフゲニー・プリゴジン氏を暗殺する可能性はあるかも知れないが、これだけ世界的な有名人と化した人物に対して、あからさまな行動はプーチン政権も取り辛いのかもしれない。
しかしこれを国家反逆罪としないのであれば、何を今後その対象とするのかすら危うくなってくるようにも感じられ、プーチン政権の権威はかなり棄損させたであろうと個人的には思う。

ワグネル自体は事実上解体され、他のロシア系の企業がその後釜に座るだけなのだろうが、ロシア国家≧ワグネルと言う当然の図式が否定された事は、ロシアと言う国の今後の体制に大きな禍根を残すのではないだろうか。

featured image:Clément Di Roma/VOA, Public domain, via Wikimedia Commons

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