青空に一筋の白い軌跡が描かれた。
母は「あら、飛行機雲」と言った。
少年は「白い蛇みたいだね」と言った。
甘えたい年頃の少年は目だけは空を追いながら母の大きくなったお腹に頬を押し当てた。

少年の家は田舎町にあった。
とある日、納屋に積んであった麦わらに横たわり少年はいつしか寝入ってしまった。
しばらくすると、ざわざわ、じりじり、するする、と土間のあたりで音がする。
首をかしげ音のする方へ眼をやると稲藁が動いている。
よく見ると白蛇が背中に数本の稲藁を乗せ鶏小屋の方へ向かっている。
この村では大概自宅で鶏を飼っており卵は大切なたんぱく源となっていた。
しばらくすると蛇が納屋に戻ってきた。
体の中腹あたりが妙に丸まっていた。
突然体を尺取虫の如く丸くしたかと思うと、空中で頭と尻尾を一直線にピンと伸ばした。
と、そのままの体形で地面へと倒れこんだ。
少年はいつしかテレビで見た光景を思い出した。
信仰心の厚いある民族の礼拝の姿に似ていた。
「五体投地!」少年はそうつぶやいた。

数日後の事であった。
玄関口から足音が聞こえた。
隣の婆だ。
少年はその婆が嫌いであった。
もらい湯と称して、自宅で風呂を沸かさない日は我が家の風呂に入りにくるのだ。
その日も野良仕事の帰りであろうか、鍬とモッコを担ぎ母屋に近づいていた。
しばらくすると叫び声がした。
「毎日卵がなくなると思ったら、おめえの仕業かい!」
何か鈍い音がした。
少年が壁の隙間から覗くと、隣の婆は手にした鍬を洗っていた。

しばらくたったある日、母は突然産気づき病院へ運ばれた。
数か月後の出産予定と聞かされていた少年は嫌な予感がした。
待合室に座っていると医者が口を曲げ、腕を組んで近づいてきた。
「ご主人ちょっとよろしいですか?」
父だけが別室に呼ばれた。
室内から漏れ来る話声に耳を傾けた。
「ご主人、お悔やみ申し上げます。流産でした。今まで順調に来ておりましたので残念でなりません。しかしそれ以上に不思議でならない事があるのです。」
何か包みをほどいているようであった。薄い殻がひび割れるような音がした。
「奥様にはこれ以上のショックを与えたくないのでご主人にだけにはお伝えしますが、見てください、この胎児を」
「これは・・・」
父が絶句している様がドア越しにも伝わってきた。
「ええ、哺乳類が卵から生まれるわけはあり得ないのですが・・・」

9月11日の出来事であった。

ペンネーム:仲手原和彦
怖い話公募コンペ参加作品です。もしよければ、評価や感想をお願いします。

※画像はイメージです。

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