作業着は注意のサイン

私には「霊が視える」のような、霊感は無い。
ただ、これまでに何度か、亡き父の「存在」を感じた不思議な体験がある。

最初の体験は、父の葬儀が終わって数ヶ月が過ぎた頃のこと。私以外には誰もいない部屋でぼんやりしていると、不意に肩をポンと叩かれた。一瞬慄いたけれど、その感触には覚えがあった。職工だった父の骨太の手の圧によく似ていたからだ。

「元気か」とでも聞かれたかのようで、不思議と怖くはなかった。
案外、父は近くにいるのかもしれない、そう感じた瞬間だった。

次の体験は職場で起こった。冬の寒い朝、着てきたコートをハンガーラックに掛け、席へ着こうと振り返ると、私の机のそばにグレーの作業服を着た人が立っているのが見えた。
職場は広告の制作会社なのだが、作業服を着て仕事をする社員はいない。窓の清掃などで、たまに業者が来ることはあったが、当日はそんな予定もなかった。

一瞬で姿は立ち消えてしまったのだが、怖いことに作業服の人は首から下しか見えず、体格の感じから男性のようだった。
「気のせいだったのかな」気味が悪かったが、仕事に追われるうちにすっかり忘れてしまっていた。夜になり、帰宅後ベッドでうとうととしていると、不意にケータイが鳴った。

電話は実家からで、弟が帰宅途中で交通事故に遭い、救急搬送されたという連絡だった。突然の知らせに心底驚いたのと同時に、朝方に見た不気味な作業服男がよみがえった。

「あれは、父だったのかもしれない」。

生前、父がグレーの作業服をよく着ていたことを今更思い出していた。「注意しなさいよ」という忠告だったのかもしれないが、その姿と身内の不幸を結びつけられるはずもなかった。
弟はわずかに後遺症が残ったが、元気に暮らしている。

また、つい最近では、同居する母の目の前に作業着姿の足下だけを見せにきた。霊感の強い母には、それが父だとすぐわかったという。
「何かあるのかねぇ」と話していた矢先、大きな地震に見舞われた。

タンスが倒れたが、下敷きにならず二人とも無事だった。亡くなる数年前から大病を患い、好きだった仕事も続けられなくなった父。作業着は、生前の誇れる自分を表現する姿なのかもしれない。

今後も続くのかどうかわからないが、何かを知らせてくれることをありがたいと思っている。

ペンネーム:かげぼっくり
怖い話公募コンペ参加作品です。もしよければ、評価や感想をお願いします。

※画像はイメージです。

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