日本最古の道は試練の道だった!

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私は登山が好きだ。
日常の喧騒から離れ、自然の中を歩く時間が好きなのである。

高校時代は登山部に所属し、立山や穂高といった名峰にも登った。そこで山歩きの魅力を知り、それ以来、登山は長く続けている趣味のひとつになった。
もっとも、年齢を重ねた今では若い頃のような本格的な登山をする機会は少なくなった。
その代わり、標高の低い山を歩いたり、古道を巡ったりすることが増えた。

古道には独特の魅力がある。
何百年、あるいは何千年もの間、多くの人々が歩いてきた道には、観光地とは違う雰囲気を感じる。

そんな古道に興味を持つようになった私は、ある時ふと疑問に思った。
日本で最も古い道とは、いったいどこなのだろうか。
調べてみると、奈良県には「山の辺の道」と呼ばれる古道があるという。
山の辺の道は、現在の奈良県桜井市から奈良市にかけて続く全長約39kmの道で、日本最古の道のひとつとされている。古墳や神社、寺院が点在し、古代から多くの人々が往来してきた歴史の道だ。

興味を持った私は、この道を歩いてみることにした。
もっとも、その時は後になって妙な出来事を思い出すことになるとは考えてもいなかった。

目次

山の辺の道へ

歴史的な神社や寺院を見学しながら、自分のペースで進んでいった。
道中には古墳や集落も点在しており、ただ歩いているだけでも歴史の中を旅しているような気分になる。

急ぎ足で通り過ぎるには、少々もったいない道だ。
平日の昼間だったため、人通りはそれほど多くない。

天気は晴れていたが、木々に囲まれた場所は昼間でも薄暗かった。
私は地図を確認しながら歩いていた。
山の辺の道は案内標識も整備されているが、ところどころ分岐が分かりにくい場所がある。

問題の場所も、そんな場所のひとつだった。
やけに細い道で不安になったが、地図を見る限り間違っていない。
回りの風景や野鳥を撮影しながら、進んでいくと前方に一人の男性が歩いていることに気付いた。

年齢は六十代くらいだろうか。
チェックの服を着て、いかにも登山に慣れている雰囲気なので、特に気にも留めなかった。
ところが、しばらく歩いていて妙なことに気付いた。
男性との距離がまったく変わらないのである。

こちらは普通に歩いている。
相手も歩いているように見える。
それなのに、ずっと同じくらいの距離を保ったままなのだ。
五十メートルほど先を歩いているように見えるが、近付くことも離れることもない。

不思議に思った私は少し歩く速度を上げると、男性も同じように速くなったように思えた。
もちろん実際にそうだったのかは分からない。
だが、どれだけ歩いても距離だけは縮まらなかった。

そんな状態がしばらく続いたが、やがて森を抜けて視界が開けた。
私の前方には、そこにいたはずの男性の姿がなかった。

一本道だったはずである。
左右を見渡しても誰もいない。
近くに身を隠せるような場所も見当たらない。

私は首を傾げた。
単に見失っただけかもしれない。
どう考えても相手の方がペースが早いことは明白なので、先に進んだのだろう。
そう考えて、そのまま歩き続けた。

写真を見返して

自宅に戻った私は、その日に撮影した写真を整理していた。
その時、例の山道で撮影した写真が目に留まった。

前方には、確かにあのの男性が写っている。
それ自体は不思議でも何でもない。

問題は次の写真だった。
撮影時刻を見ると、わずか十秒ほど後に撮られたものだった。
しかし男性の姿はどこにも写っていなかった。
私は何度も写真を拡大し、画面の隅々まで確認したが見当たらない。

単なる見落としかもしれない。
写真の角度の違いかもしれない。
そう考えることもできるが、妙な違和感を感じた。

結末

山の辺の道は、日本最古の道のひとつとされている。
古代から現代まで、数え切れないほどの人々がその道を歩いてきた。

旅人もいただろう。
商人もいただろう。
神社や寺へ向かう参拝者もいたはずだ。
二千年近い時間の中で、その道には人々の記憶が積み重なっている。

あの日、私が見た男性が何者だったのかは分からない。
偶然見かけた人を見失っただけなのかもしれない。

あの時、私は確かに誰かの背中を追っていた。
もう少しで追いつけそうだったが追いつけない。
もし追いついていたら、なにか起きたのかもしれない。
そんな気が、今でもしてならないのである。

さすがは日本最古の道、一筋縄ではいかないようだ。

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