皆さんはゾンビがお好きですか?B級・Z級のいわゆるクソ映画も多い為、ゾンビ映画は好き嫌いが分かれるジャンルかもしれません。にもかかわらずハリウッドで量産され続けるあたり、アメリカ人のゾンビ好きには、必ず理由があるはずです。
今回は欧米の人々がゾンビに熱狂する理由を、多方面から考察してみました。どうか最後までお付き合いください。
土葬が慣習のキリスト教にとってゾンビは身近なモンスター
欧米人の最も身近なモンスターとしてゾンビが愛される理由を語る上で、キリスト教の影響は切り離せません。
大前提として、最後の審判の日に死者が甦るとされるキリスト教は土葬が一般的。死体は棺に納められ埋葬されます。
片や日本は明治以降火葬に切り替わり、一部の職種を除いて、死体と接触する機会が極端に減りました。
言い方を変えれば、キリスト教信者にとって、最後の審判前に甦ってしまうのは大変不名誉なこと。信仰心が疑われます。故に歩く死体=ゾンビは、人々の畏怖と嫌悪の対象となったのです。
墓泥棒が見た腐敗死体がゾンビのルーツ?
さて、欧米には棺に副葬品を入れる習慣があります。この副葬品は故人が生前大切にしていた物で、当然貴金属などの貴重品も含まれました。
墓泥棒なんて時代遅れだ、と思っている方には、2020年12月にアメリカフロリダ州で起きた事件をご紹介したいです。
後にこの事件は中年男性二人組の犯行と発覚、霊園の墓を暴いて死体の頭部を持ち去ったと告白しています。
犯人たちはあるカルト教団に関与しており、墓から盗んだ頭部を儀式に用いたそうです。
金品目当ての墓荒らしが最も猖獗を極めたのは、18世紀~19世紀のイギリス。
彼等は死体盗掘人と呼ばれ、夜な夜な墓を暴き、副葬品や死体を持ち出しました。
また、解剖学者に雇われるケースもありました。医学の進歩に解剖は大いに貢献したものの、当時のイギリスにおいて、解剖用の遺体の入手は大変困難。
故に解剖学者たちは、非合法なルートから遺体を手に入れざるを得なかったのです。
中でも有名なのが1828年に起きたバークとヘア連続殺人事件、別名ウェストポート連続殺人事件。
犯人のウイリアム・バークならびにウイリアム・ヘアは、娼婦や孤児、浮浪者を17人殺害し、その死体を解剖用としてエディンバラ医学校に売り付けていました。
死体盗掘人にとって最大の恐怖は、棺を開けた時に死体が生き返ること。
キリスト教の教義に背き、タブーを犯した罪悪感が、被害妄想を増長させたのは否めません。
当時はネズミが忍び込んで棺を動かしたり、死体の腐敗ガスが音を立てるなどした為、上記のような誤解をする盗掘人が絶えませんでした。
やがて時代は下り、アメリカへの植民が始まります。ここでも貧しい人々は墓を漁り、副葬品や死体を売り捌いて生計を立てたのです。
生前埋葬事件もまた、ゾンビの発想のベースになりました。これは何かの手違いにより納棺されてしまった人間が、埋葬後に目覚めるケースで、土葬が主流のアメリカでは決して珍しくなかったそうです。
20世紀初頭時点では平均週一のペースで発生したというのですから、過失で生き埋めにされた人々に同情を禁じ得ません。
死体盗掘人から医者に引き渡され、体にメスが入ると同時に覚醒した例もありました。
土中で目覚めた人間が棺の蓋をずらし、地面まで這い出たところで力尽きたとしたら……それを見た人は、ゾンビと間違えるのではないでしょうか。
アメリカは独自のモンスターを持たない国だった
日本には鬼、ルーマニアには吸血鬼、ドイツ・フランスには魔女や人狼がいます。彼等は多くのおとぎ話や昔話に登場し、人々に恐怖を与え続けてきました。
しかし建国から歴史の浅いアメリカは、独自のモンスターを持ちません。ネイティブアメリカンの人々が信仰する自然の神霊は、入植者たちの価値観と相容れませんでした。
アメリカ植民者の大部分を占めるのはイギリス人。彼等の祖先はケルト神話をルーツとする妖精や魔物に親しみ、ルーン占いやドルイドの魔法を知っていました。
1775年4月19日、北アメリカ東岸のイギリス領13植民地とイギリスの間で戦争が勃発。
この戦争は1783年9月3日まで続き、のちにアメリカ独立戦争と呼ばれました。早い話がイギリスの支配から離反し、アメリカ合衆国として歩み始めたのです。
そんな独立精神旺盛な彼等は、英国ルーツの妖精を否定し、新たな国を代表するモンスターを求めました。
ゾンビはブードゥー教の儀式から生まれた
1915年から1934年までの20年間、西インド諸島に位置するハイチはアメリカに占領されていました。この際アメリカ人は、西アフリカからハイチに持ち込まれたブードゥー教に着目します。
ブードゥー教におけるゾンビは、司祭の黒魔術によって生み出されます。
彼等はゾンビ・パウダーを用いて人を殺し、棺桶に入れて埋葬します。数時間~30時間が経過する頃、棺桶の中から呻き声が漏れ、死者が甦りました。
甦った死体は自発的な意志や言語能力を一切持たず、司祭の指示に服従したそうです。
結論から述べれば、これは狂言でした。ゾンビ・パウダーの正体は人間の代謝を抑制し、仮死状態にする神経毒。
服用した者のうち、運よく即死を免れた人間も、棺の中で重度の酸欠に陥って前頭葉を損傷します。
ハイチにて初めてゾンビを見たアメリカ人は衝撃を受け、この話を本国に持ち帰り広めました。
なおブードゥー教におけるゾンビは、犯罪者への死後の刑罰として生まれました。ゾンビ化が成功した人間は、残り一生奴隷として働かされるのです。
ゾンビブームの火付け役はアメリカ人ジャーナリスト、ウィリアム・シーブリック
ブードゥー教のゾンビ化儀式にカルチャーショックを受け、この知識を祖国で広めたのがウィリアム・シーブリック。彼はアメリカ出身の探検家兼ジャーナリストで、世界各地を精力的に飛び回っていました。ハイチでの体験を赤裸々に描いたシーブリックの著書『The Magic Island』はベストセラーを記録し、メディアで大々的に取り上げられ、アメリカ国民はゾンビに夢中になります。
1930年代のハリウッドは未曽有のホラー映画ムーブを迎え、吸血鬼や狼男などの古典的モンスターが銀幕を彩っていました。
似通ったモンスター映画が封切られれば、マンネリ化は避けられません。
そこでゾンビに白羽の矢が立ったのです。
ハルベリン兄弟は『The Magic Island』を原案に『恐怖城』を製作、ゾンビのプロトタイプをハリウッドに送り出しました。
ハルベリン兄弟の目論見は見事に成功し、『恐怖城』は大ヒット。以降続々とゾンビ映画が作られ、アメリカは希代のゾンビ大国へと成長しました。
ブードゥー教のゾンビとアメリカゾンビの違い
最後にブードゥー教のゾンビとアメリカ生まれのゾンビの違いを説明します。
ブードゥー教のゾンビは言語能力こそ退化しているものの、アメリカのゾンビのように無差別に人を襲ったりはしません。喜怒哀楽の感情も備わっており、痛覚は健在です。
これはブードゥー教が魂の存在を信じており、ゾンビの状態を「死後の懲役」と見なすのと無関係ではありません。
対するアメリカのゾンビはグール、もしくはリビングデッドと呼んだ方がしっくりくる能動的なモンスター。
人を襲って人肉を喰らうのも、アメリカならではのアレンジでした。
※画像はイメージです。
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