戦国時代大河ドラマや映画など、さまざまなコンテンツで描かれる人気のテーマ。
綺羅星のように輝く武将の生き様や血湧き肉躍る華やかな合戦のストーリーは世代を問わず多くの人々を魅了してきた。
今回ご紹介する漫画『雑兵物語 明日はどっちへ』(やまさき拓味)は、そんな戦国時代の裏面「雑兵」を描いた物語だ。武将でも軍師でもない、戦に必要不可欠な存在でありながら、時代に名を残すこともなく、消えていった雑兵たち。今回はそんな彼らの生き様に、マンガを通じて迫ってみよう。
漫画で知る雑兵ライフ!そのあまりにシビアな現実とは
今回ご紹介する漫画『雑兵物語 明日はどっちへ』。その名の通りメインとなるのは「雑兵」。群雄割拠が覇を競う戦国時代、戦に欠かせない兵力として戦場に赴きながら、もっとも「安い命」として使い捨てられていった名もなき兵士たちである。
彼らはそのほとんどが生きるために戦場に身を置くしかなかった百姓たちで、成り上がるなど夢のまた夢。その日生き残ることすら幸運と思わねばならないような過酷な日々を必死で生き抜いていた。作中でも、野伏の暴虐や、強力な騎馬隊の前ではなすすべもない足軽など、そんな過酷な雑兵のリアルが徹底して描かれる。
作画のダイナミックさも相まって、劇中の雑兵たちの運命は思わず目を背けたくなるほど。一方で、武具を奪って相手方の兵になりすます、主人公の高級な武器を売りとばして一儲けをたくらむなど、生きるため、出世して「一抜け」するために抜け目なく行動する雑兵たちの姿が描かれているのも本作のポイントだ。
「雑兵」は使い捨ての末端兵士だが、彼らもまた彼らなりに牙を研いでいる……食うか食われるか、本作からは、そんな戦国の生々しい世界観が伝わってくる。彼らのように戦国に生きた末端兵士たちの生き様は、エンタメで描かれることはあまり無かった。
あったとしてもサクセスストーリーの一部として描かれ、主人公が出世すればそれまでといったものがほとんどだった。本作で描かれる世界は、まさに底辺から見た戦国。
有名武将の事跡からは見えない世界がそこにはある。読めば間違いなく新しい視点で戦国を見ることができる作品と言えるだろう。
戦国ド底辺青春物語? 雑兵物語 明日はどっちへ
さて前置きが長くなったが、本作で主人公となるのは春と捨丸、雑兵の青年二人だ。
野盗に家族を奪われた春と、孤児として育った捨丸の二人は、のちに「長篠の戦い」と呼ばれる合戦の中で出会い、意気投合。
春の「天下人になって世に泰平をもたらす」夢のために戦場をサバイバルしていくことになる。とは言っても二人は「雑兵」。そして本作は雑兵の過酷な生活を描く『雑兵物語』。その道のりは一筋縄ではいかない。
「勝てるほうにつき、裏切り、寝返りも厭わず生き延びる」捨丸のポリシーのもと、時に大胆に、時に卑怯に乱世を二人が渡っていく様子が描かれていく。
そのさまは文字通り「生き汚い」もので、エンタメ的な立身出世物語を想像していると面食らう読者も多いだろう。だが一方で、理想家で純粋な春に、極端な現実主義者で手段を選ばない捨丸が感化され、逆に春も捨丸の生き方から戦国の厳しさを学んだりと、過酷な日々を生き延びるごとに二人に変化が生まれていくのもポイント。過酷な現状を逃げずに描くからこそ、主人公たちの人間関係も際立つ。本作は過酷な戦国雑兵ライフであるとともに、青春物語でもあるのだ。
二人の関係が物語の進展とともにどう変わるのか。二人は立身出世を果たして夢を叶えるのか。それとも雑兵のまま歴史に埋もれるのか。今後の展開が気になるところでもある。乱世の殺伐とした空気感もさることながら、主人公ふたりの命運も大きな見どころとなっていく作品。先の展開が気になる漫画であるのは間違いないだろう。
雑兵物語 明日はどっちへ
今回ご紹介した漫画『雑兵物語 明日はどっちへ』は、「雑兵」の視点から戦国の乾いた世界観と、そこを逞しく生き抜く雑兵たちの生き様を描いた良作だ。大河ドラマではめったに描かれない「雑兵」の世界。気になった方はぜひ、覗いてみてはいかがだろうか。
雑兵物語 明日はどっちへ (C) やまさき拓味 リイド社
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