私をスキーに連れていって

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大学時代、友人と蔵王のスキー場で二週間だけリゾートバイトをした時の話です。

目次

スキー場の宿舎

寝泊まりは、スキー場から少し離れた場所にあるペンションを利用した従業員用の宿舎でした。
宿舎といっても、古い建物を無理やり使っているだけの、いかにもな場所で、建物の中は薄暗く、壁や窓の隙間から冷気が入り込んできます。そのうえ暖房の効きも悪く、とにかく寒い。
ただ、同年代のアルバイト仲間が多く、仕事自体は楽しく、宿舎での生活もそれなりに賑やかでした。

ある日、私は風邪をひいてしまい、仕事を休むことになりました。
私ひとりだけが宿舎に残り、完全に独りぼっち。
夕方になる頃には熱も少し下がり、ずっと部屋に閉じこもっているのも気が滅入ってしまったので、気分転換のつもりで上着を羽織り、外に出ました。

吹雪の出会い

ところが外は、1メートル先すら見えないほどの猛吹雪。

携帯を見ると、友人から
「吹雪がひどくて仕事にならないから、少し早めに戻ることになった」
というメッセージが届いていました。

「たしかに、これじゃね」
そう思い、すぐに部屋へ戻ろうとした、その時です。

宿舎の出入口のすぐ近くに、人影が見えました。

スキー場との位置関係的に、一般の人が立ち寄るような場所ではありません。
一瞬、不審者だったらどうしようと身構えましたが、よく見るとスキー場で支給される防寒服を着ていました。
関係者だろうかと思い、「大丈夫ですか?」と声をかけました。

すると、その人影はくるりと振り返り、
「すごい雪ですね」
と話しかけてきました。

マスクをしていて顔はよく見えませんでしたが、声から男性だと分かりました。ただ、その声には聞き覚えがありません。
でも、こちらから話しかけてしまった以上、無言で引き返すのも不自然。けれど、その時宿舎には私しかおらず、正体の分からない男性を中に入れるのは正直不安でした。

不審な男性?

迷っていると、その男性は
「寒いでしょう。すみません、中に入りましょう」
と言ってきました。

咄嗟に私は確認しました。
「バイトの方ですか?」

一拍おいて、返ってきた答えは
「いいえ」
でした。

全身が一気に凍りついたような感覚になりました。
吹雪で周囲に人の気配はなく、病み上がりで声も力も出ない。
この人と中に入ったらどうなるのか分からない。
何で外に出てしまったんだろう。
一か八かで部屋に逃げ込んで鍵を閉めたら大丈夫だろうか。

そう考えているうちに息が荒くなり、男性は
「どうしたんですか?大丈夫ですか?」
と言いながら、こちらへ近づいてきました。

思わず
「やめてください!」
と叫び、その場にしゃがみ込んだ、その瞬間。

「どうしたの?!」
という声とともに、ちょうど帰ってきた友人が声を聞きつけて走ってきてくれました。

その途端、目の前にいたはずの男性は、いなくなっていました。
まるで、吹雪の中に溶けるように消えてしまったかのように。

男性はだれ?

その日の夕食時、食堂で私が体験した出来事を話すと、古株のバイトの一人が、こんな話をしてくれました。

バブルの頃、この建物のペンションはとても賑わっていたそうです。しかしバブル崩壊後、客足が徐々に減っていく、経営が悪化していきました。
巻き返しを図って設備投資もしたものの、状況は好転せず、借金ばかりが膨らんでいった。
悩んだオーナーは、ある猛吹雪の日に外へ出て行き、そのまま戻らなかったそうです。
後に、近くの川辺で凍死体となって発見されました。

自殺だったのか、遭難だったのかは、今もはっきりしていないそうです。
それ以降、この近辺では、スキー場の防寒服を着た男性の幽霊を見かける、という噂が立つようになったのだとか。

もちろん、私が見たものが何だったのかは分かりません。
吹雪と艦船に回復していた状態で、判断力が落ちていた可能性もあり、実在の人物だった可能性も否定できません。

ただ、今更ですが、
「どうしたんですか?大丈夫ですか?」
という声に、はっきりとした悪意は感じなかったようでもあります。
脅すわけでも、怒鳴るわけでもなく、ただ淡々としていた印象に残っています。

もし、あれが噂通りの存在だったとしたら。
宿舎の外に一人で立っていた私を、ただ気にかけただけだったのかもしれません。
あの時は本当に怖かったけれど、そう思うと、少し申し訳ない気持ちにもなりました。

もし幽霊だったのなら、どうか迷わず成仏してください。
そう心の中で手を合わせたことを、今でも覚えています。

※画像はイメージです。

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