私と弟は、以前は実家を離れて暮らしていましたが、
親の事業を手伝うことになり、実家の近くに戻って、二人でアパートに住んでいました。
弟が見たもの
ある夜、私はキッチンで洗い物をしていました。
その時、弟の部屋から突然「あれっ!!!」と、明らかに驚いた声が聞こえてきたのです。
何事かと思って弟の部屋へ行くと、弟は私の顔を見るなり、開口一番こう聞いてきました。
「風呂、入ってた?」
私はキッチンにいたことを伝えました。すると弟は「だよねえ」と、腑に落ちない様子で黙り込みます。
理由を尋ねると、部屋を出ようとしてドアを開けた瞬間、全裸の男が私の部屋に入っていくのを見たらしいのですが、
その直後、キッチンから洗い物をしている音が聞こえてきたため、驚いて声を上げたのだそうです。
もちろん、私は風呂には入っていません。仮に入っていたとしても、裸のまま自室に入るようなことはありません。
キッチンから玄関へ続く廊下は見通しが良く、誰も出入りしていないことは私自身が確認しています。
玄関のドアには鍵とチェーンロックがかかっており、外部から侵入できる状況ではありませんでした。
さらには、ここは8階です。壁をよじ登って入ってくる、などという現実的でない可能性も考えられません。
念のため、自分の部屋を確認しましたが、誰かが侵入した形跡は一切ありませんでした。
そもそも、その夜アパートにいたのは、私と弟の二人だけです。
全裸の男
人の目はいい加減です。
暗がりで揺れた影が、人の形に見えることくらい、誰にだってありますよね。
それにしても「全裸」というのが、どうにも引っかかり、むしろ、弟の事を「こいつは大丈夫なのか」と少し疑惑を感じてしまいました。
「まあ、気のせいだろ」
そう言って終わらせ、弟もそれ以上は何も言わなかったし、私自身、深く考えないことにしました。
弟も私も、そんな話はすっかり忘れていたときです。
その夜、私は自分の部屋でスマホを眺めながら、半分眠りに落ちかけていると、突然、弟の部屋から悲鳴が聞こえました。
それも、一度ではなく、途切れ途切れに、何度も、喉を引き裂くような声で助けを呼んでいます。
私は急いで、弟の部屋のドアを開けると、弟が寝ている布団の上に全裸の男がいた。
弟の身体を押さえつけるように、覆いかぶさっている。
顔ははっきり見えない。ただ、こちらを向いた瞬間、確かに目が合った。
「何をしている!」
叫ぶと、男は一瞬だけ動きを止め、獣のような冷たい視線むけてきました。
次の瞬間、男は弟から離れ、窓へ向か、ためらいもなく、窓を開けて外へ消えたのです。
落下音はなく、叫び声も、物音も、何ひとつありません。
慌てて窓の下を覗くと、暗闇が広がっているだけで何かが落ちた形跡すら、見当たりません。
弟は布団の上で震えていて、声をかけても、しばらく言葉にならない事を訴えています。
怪我はないようでしたが、布団が妙に生暖かく、湿ったいたのを今でも覚えています。
警察に連絡することを考えたのですが、「全裸の男が八階の窓から消えた」。
この状況をどう説明すればいいのかわかりません。
結局、その夜は何もできず、私たちはリビングに集まって、明かりをつけたまま朝を迎えたのでした。
なにが起きたのかは・・・
その後、弟と話し合い、私たちは実家に戻ることにしました。
あの部屋に、これ以上いる理由がなく、いや、正確に言えば、理由を考えられる状態ではありません。
両親には、下水の匂いがあがってくるとか、隣人の声がうるさいとか、適当な理由をつけました。
あんな出来事をそのまま話して、信じてもらえるとは思えなかったし、信じてもらえなかった場合の反応を想像するだけで、気分が悪くなります。
あの部屋で、何が起きていたのか、結局、分からないままですが、二人とも同じものを見たというのは事実です。
見間違いだとか、錯覚だとか、後からいくらでも理由はつけられますが、弟の震えと、あの視線の感触を、今もはっきり覚えています。
普通なら、引っ越すのに十分な理由です。
それでも、どうしても引っかかるのは、なぜ、あれは「全裸」だったのか?
恐ろしい怪異というより、変な欲求が溜まっていたと思われそうで嫌な話です。
説明がつかない出来事なのに、下世話な想像のほうが先に立ってしまう。
そのこと自体が、妙に気持ち悪いです。
※画像はイメージです。


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