むかしむかし、ある田舎の寺にそれはそれは生き物をかわいがる和尚さんがいたんじゃと。
犬や猫はもちろんの事、小鳥、ちょうちょ、ハエや、蚊からのみにいたるまでまで、何でも自分の友だちのように、かわいがっておったんよ。
もったいない、もったいない。
ある日、となり村の旦那から、
「法事があるけん、ほとけさんを拝みにきてください。」
と、言ってきたんじゃと。
和尚さんは、さっそく支度をしたんじゃと。衣を着てお経の入った包みを持ち数珠を手にかけ、白いはなおの下駄はいて出かけたんじゃ。
ちょうど、田植えの終わった頃で、一面の青田じゃったんよ。ことりことりと田んぼの道を歩いて、やっととなり村の家についたんよ。
長いことお経を読んで、おつとめをしたんじゃと。それから、ご馳走や、お酒をよばれたんじゃ。そうしちょるうちに すっかり夜になってしもうたんよ。
「どうも大変ごちそうになったのう。そろそろおいとましようわい。」
「まあまあご遠方をご苦労さんでした。どうぞ気をつけてお帰りください。暗いのでこれを持って帰ってください。」
と、家の人がちょうちんを貸してくれたんよ。
和尚さんは、ちょうちんをつけてまた、こっとりこっとりと帰って行ったんじゃと。
夜になると、昼間よりだいぶ涼しくなってきたんよ。田の上を吹く風が、お酒をよばれたぽかぽかのからだに気持ちよく、グワァ、グワァ、グワァと、そこらへんに泣いているカエルの声を聞きながら、歩いていたんじゃと。
ちょうど、村のはずれの分かれ道まで来ると、ローソクが消えてしもて、ふっと火が消えて、急に真っ暗になってしもうたんじゃ。
「あ、これは困ったな。でもしょうがないわい。ゆっくりそろそろと帰ろうかの。」
と、和尚さんはまた歩き出したんじゃと。真っ暗な空には星がいっぱい輝いていたんと。
ちいと行ったところで、
「きゅーーうぅ。」と何かを下駄で踏んでしもうたんよ。
「なんじゃろう?」
和尚さんは暗くてわからんのじゃが、どうも、カエルの大きいのを踏み潰したような気がしたんじゃと。
「かわいそうなことをした。どうしよう。どんなカエルじゃろう。何をしていたんじゃろう。ああかわいそうに、痛かったろうに。」
と、もう気になってしょうがないんよ。
「かわいそうに、かわいそうに。」をくり返しながら、やっとお寺へ帰ったんじゃと。その晩は、カエルの事を思って、なかなか寝つかれんかったんじゃと。
夜の明けるのを待ちかねて、村のはずれの分かれ道の近くまで行ってみたんじゃと。
かわいそうなカエルのお弔いをしてやろうとおもい、道をよく見ながら探して行ったんよ。ここらあたりだと思うところまで来たんじゃ。すると踏み潰されたものがあったんよ。ように見ると、大きな腐ったなすびじゃったんじゃよ。
和尚さんは、
「ああよかった。カエルでなくて。これもほとけ様のおかげじゃ。もったいない。もったいない。」と、たいそう喜んだとさ。
おしまい。
解釈と考察
愛媛の田舎村に昔から伝わる民話です。
昔の田舎の法事の情景や静かな夜の田圃道にノスタルジーを感じる背景が好きです。
法事帰りの夜道の不気味さなのか嫌な予感しかしない話運びや、結局のところ殺生していない和尚さんの気持ちなど安心感とほっこりとした雰囲気がこの話の醍醐味かと思います。
※画像はイメージです。


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