15年以上前の投稿であるにも関わらず、語り続けられている有名な作品。
それが『リゾートバイト』。
本作は様々な怪談的要素を入れ込み、名作にふさわしい作品となっています。
今回はそんな『リゾートバイト』について、「タブー」と「母」という2つの要素を中心として考察していきたいと思います。
『リゾートバイト』の概要とあらすじ
『リゾートバイト』とは、2010年代に2chのオカルト板のスレッド「洒落にならない怖い話」通称「洒落怖」に投稿されました。元は閉鎖されてしまった怖い話の投稿サイト「ホラーテラー)」に投稿されたものです。
2chのオカルト板には多数の怪談が投稿されていますが、その中でも、怒涛の展開や構成の巧みさ、恐怖描写の凄まじさなどが挙げられ殿堂入りの作品となりました。
後日談も含めるとかなりの長編となっており、読み応えがあります。
2023年には、本作を原作/原案とする映画『リゾートバイト』も公開されました。
あらすじ
語り手である「俺」は夏休み中、旅行もかねて3人の友達(A、B)と共に海辺の民宿でアルバイトをすることになりました。アルバイト先は小さな民宿で、気のいい女将さんと旦那さん、そして近所で育った若い女性で切り盛りしていました。
しばらくの間、3人は何事もなく過ごしていました。そんなある日、「俺」はBから2階へ食事を持っていく女将さんの話を聞きました。2階は現在使っておらず、誰もいないはずです。
興味をそそられた3人は女将さんに気づかれないよう、こっそりと2階へ潜入することにしました。そこで「俺」は、とてつもない恐怖に襲われることになったのです。
タブーから考える構造
神話や昔話、怪談を読んでいると、「××してはいけない」という”タブー“がたびたび登場します。
「浦島太郎」の玉手箱、「鶴の恩返し」の見てはならない、古事記のイザナギ・イザナミの神話などが例として分かりやすいでしょう。
こうしたタブーは往々にして、物語を最悪の結末へと進行させる役割を果たします。
人間は好奇心が強い生き物です。「××してはいけない」と言われると、どうしても興味を惹かれてしまいます。好奇心からタブーを破ってしまうのは、人間の本能と言えるでしょう。
本作にもまた、重要なタブーが存在します。それが、「お堂(おんどう)の中で会話をしてはいけない」ことです。
このタブーは、物語の終盤、怪異が姿を現した段階において、それを祓うための決まり事としてお坊さんから提示されたものです。声や音から怪異に居場所がバレることを避けるため、暗闇の中、3人は声を出さず一晩を耐え抜くことになりました。
連絡手段も失い、真っ暗闇の中で一晩過ごすこと。すぐ近くにいる友人と会話ができれば多少恐怖感はまぎれるかもしれませんが、その後の結果は目に見えています。その上、お堂の周囲を恐ろしいものが徘徊している……。読んでいるだけで、その様子がありありと目に浮かんできます。
生き残りたい、助かりたいという感情。叫びたくても叫んではいけない恐怖。外から人間の言葉で呼びかけてくる「人間ではない何者か」。言葉で友達の無事を確認し、励まし合いたいのにできない環境。
前半は、民宿の2階を舞台とした、どちらかと言えば古風なおどろおどろしさを持つ怪談でした。しかし後半になると、古くから残るタブーを扱いながらも、江戸時代に書かれた『吉備津の釜』に、同じようなタブーが見て取れます。
人間的感情とのせめぎ合いを描き、より現代的で緊迫感あふれる「ホラー」に仕上がっているのです。
前半のおどろおどろしさ、そして、後半の感情とタブーのせめぎ合い。この2つの引き立て合いこそが、本作を名作たらしめているのではないでしょうか。
「母」という存在が内包する狂気
本作には、タブー以外にも見逃せない概念があります。それが、女将さんを代表とする「母」という存在です。
母は、良くも悪くも子に対して強い感情を抱きます。子と一緒にいることを望み、もし子がいなくなったとしたら取り戻したいと考え、そのために激しい行動を取ることがあります。女将もまた、子を亡くした母の一人で、子を取り戻すために行ったことが、本作のきっかけとなりました。
女将がとった行動とは、子供を蘇らせる儀式の実行です。民宿の2階に堂を作り、伝承に即してはいるもののあくまで自己流の、おぞましい儀式を密かに行っていたのです。
女将がどんな儀式を行ったのか。その詳細は本文中では明かされていません。分かっていることは、へその緒を使うことと毎日食事を堂に供える(堂の床に積み上げる)ことだけ。爪が大量にばらまかれている描写はありますが、それが女将のものなのか、それとも儀式によって生み出された怪異のものなのか、はっきりとは分かりません。
毎日毎日、真っ暗な部屋に食事を積み上げていく行為。放置された食べ物は腐っていき、激しい悪臭を放ちます。そうであるにも関わらず、その行動を続けようとする思い。
本来、子を思う気持ちは優しく、慈しみ深いものであるはずです。しかし、子への思いが強ければ強いほど、失った際の絶望感は深くなってしまいます。そして、本来の性格が優しければ優しいほど、絶望から狂気に陥りやすいかもしれません。事実、女将も本来は優しく、素敵な人柄であることが描写されています。
本作の中盤で、女将は主人公の3人に巾着袋を渡します。その中には、2階の堂にあったと思しき爪が入っていました。
この行動に関する描写は少なく、本文から、正確な意図を読み取るのは容易ではありません。しかし、「女将がわざわざ渡した」、「堂にあったものと同じ爪」、「儀式の目的」、「儀式によって蘇ったものが母を食う」という断片的な情報を踏まえて考えると、女将は主人公たちを生贄にしようとしたのではないか、と考えられます。
女将は、相手に好感を与える素敵な顔の下に、「子のためならば」という恐ろしすぎる狂気を隠していたのかもしれません。
ただ「怖い」だけではない
本作『リゾートバイト』は、2chに投稿された怪談の中でも恐ろしい作品といえますが、怖いだけの物語ではありません。
描かれる「母」の気持ちに感情移入し、タブーを必死に守ろうとする主人公3人を励まし、生理的嫌悪を催すような怪異に恐れおののく。
状況描写や恐怖描写が細かく描かれ、目の前で起こっているかのように物語を追体験できます。
「読むと高確率でトラウマになる」という評価も納得できます。
個人的には、トラウマになるほど怖いのは確かですが、それを上回るほどのおもしろさと読み応えのある怪談だと感じました。
恐怖耐性に自信がある人は、ぜひ一読してみてください!
※画像はイメージです。


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