皆さんは古代中国の変わった妖怪、飛頭蛮(ひとうばん)をご存じですか?
日本のろくろ首やペルーのウミタ、チリのチョンチョンやマレー半島のペナンガランと同一視されるこの妖怪は、どんなルーツを持っているのでしょうか?その正体を考察していきます。
類書『三才図会』にて初登場
飛頭蛮が初めて歴史に現れるのは古代中国の奇書、『三才図会』。曰く大闍婆国(だいしゃばこく)に頭を飛ばす者がおり、この者は目に瞳を持たず、現地では虫落(むしおとし)、落民(らくみん)と呼ばれていました。
唐代の『南方異物誌』にも似た異形が登場し、洞穴の中に住んでいると記録されています。
飛頭蛮の特徴は首に赤い傷跡があること。夜になるとこの線に沿って首が分離し、好き勝手に周囲を飛び回ります。さらには耳を翼のように羽ばたかせて虫を食べ、夜明けには元の体に戻ってきました。
昼間の飛頭蛮は通常の人間と全く変わらない見た目をしている為、首の傷跡を確認しない限り、見分けるのは困難です。
飛頭蛮はろくろ首のルーツだった
日本にも似た妖怪がいますね。皆様ご存じのろくろ首です。名前の由来は三種あり、1がろくろを回し陶器を捏ねる情景、2が長く伸びた首の様子と井戸のろくろ(桶を引き上げる滑車)を掛けた比喩、3が傘の開閉時の仕掛けから来てます。
なおろくろ首には首だけ伸びるタイプと首が抜けて自由に飛び回るタイプの二種類が存在し、日本では前者が圧倒的メジャー。後者はより飛頭蛮に近く、ろくろ首が中国伝来の妖怪である事実を示唆しています。
性別は女性が多数派を占め、『曽呂利物語』では「女の妄念迷ひ歩く事」と題されています。飛頭蛮にせよろくろ首にせよ、何故女性に偏りがちだったのでしょうか?
飛頭蛮は罪人の生まれ変わり
古代中国や日本では斬首が一般的な刑罰でした。当時の処刑は一種の見世物であり、晒し首を目にする大衆が多かったことを忘れてはいけません。よって飛頭蛮の首に浮かぶ赤い傷跡を、斬首の名残と見ることもできます。
飛頭蛮とろくろ首を前世で斬首された罪人の生まれ変わりと見なすのは、些か短絡的でしょうか?
ろくろ首に関しては見間違い説も有力。昔の光源は蝋燭や行灯が主流で、部屋中を照らすのは不可能です。
暗闇の中で寝ている人間を見た時、遠近感が狂って胴と首が離れてると錯覚することもないとは言えません。首から下が布団で覆われていれば尚更で、怖がりな人ほどに見間違えの可能性は高まります。行灯の炎が風に吹かれて揺れ動き、壁や天井に映った影が不気味に伸び縮みすれば、人々はろくろ首が出たと思い込むでしょうね。
飛頭蛮も似た経緯で発生した怪異ではないかと筆者は考察しました。日本の古語における玉の緒が魂と同義なら、就寝中に首と胴が離れる現象は、臨死体験や幽体離脱の隠喩なのかもしれません。
featured image:Terajima Ryōan (寺島良安, Japanese, *1654, †?), Public domain, via Wikimedia Commons


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