事務所のエアコン

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今年の夏もクソ暑くなりそうだから、今のうちに書いておく。
俺は普段、こんなネットの怪談募集だかに応募するような人間じゃねえ。だが、去年の7月に体験したアレだけは、どうしてもどこかに吐き出しておかないと気が済まねえんだ。
嘘だと思うなら思えばいい。
こっちは本気で胸糞悪い思いをしたんだからな。

俺は都内で内装業の会社をやってる。年齢はもう60を過ぎた。現場上がりだから口も悪いし、細かいPCの操作なんか大嫌いだ。今もスマホでこの文を打ってるが、イライラして指が震える。

去年の7半ば、とにかく異常な猛暑だった。連日35度を超えて、職人たちも熱中症寸前。事務所に戻っても、安物のエアコンが全然効かねえ。俺はケチだから、普段は電気代を気にして冷房の設定温度を27度とかにしてたんだが、その日はあまりの暑さにキレて、18度の「強風」でフル稼働させた。

ガタガタとけたたましい音を立てて冷房が回り始めて、ようやく一息ついたのが午後8時過ぎだ。職人どもはとっくに帰して、事務所には俺一人。缶ビールを開けて、机に足を乗せてくつろいでた。

異変が起きたのは、ビールを半分ほど飲んだ時だ。 やたらと寒い。
18度設定とはいえ、プレハブ小屋みたいな狭い事務所だ、冷えすぎることはある。だが、そういう寒さじゃない。肌の表面じゃなくて、腹の底がジワジワと冷えるような、嫌な冷気だ。 おかしいと思ってエアコンの送風口を見た。

風が出てねえんだ。
運転ランプは光ってるし、モーターの音もしてる。なのに、ルーパー(羽のところだ)からは1ミリの風も吹いてない。故障かよ、と思ってリモコンを操作しようとしたが、ボタンを押してもピーとも言わねえ。

イラツイてエアコン叩いた、その時、エアコンの本体からと、プラスチックが歪むような音が聞こえた。
ヤベえと脚立を持ってきて、送風口の隙間から中を覗き込んだ。懐中電灯で照らす。

奥に何かが詰まっているようにしか見えなかった。よくみれば、日焼けしていない、妙に白い肉の塊に見えた。
それが、あの狭い隙間の奥で、ファンの回転に巻き込まれているような、ベチャベチャした音が小さく響いてる気がした。
俺が18度で無理に回したから、どこかから引きずり出されて詰まったんじゃないか。そんなわけのわからない考えが頭をぐるぐる回った。

俺はパニックになって脚立から飛び降りた。足首をひねったが構うもんか。
そのまま事務所を飛び出して、軽トラに飛び乗って自宅へ逃げ帰った。
その夜は一睡もできなかった。本当にエアコンの故障か、それとも俺の頭がおかしくなったのか。警察に言うような話でもないし、かといって一人で確認に戻る勇気もねえ。布団の中で朝になるのを待つ時間は最悪だった。

翌朝、職人のハイエースが事務所に着く時間を狙って、俺も車を出した。一人じゃ怖くて入れなかったからだ。「昨日、エアコンが急に止まってよ」と職人に嘘をついて、先に事務所へ入らせた。

エアコンは18度のまま、けたたましい音を立ててキンキンに部屋を冷やしてた。中を覗いたが、何もねえ。職人は「昨日が暑すぎたから、室外機がバグったんじゃないすか」なんて呑気に言ってやがる。

それ以来、俺は夏場でも冷房を28度以下には絶対に設定しない。電気代がもったいないからじゃない。あの、エアコンの中に何かが詰まっているように見えた感触を、二度と思い出したくないからだ。
今年の夏も暑くなるらしい。お前らも、電気代をケチるケチらないの話じゃなく、冷房の入れすぎには気をつけろ。
奥に詰まってるぞ。

はじめ

「奇妙な話を聞かせ続けて・・・」の応募作品です。
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