これは10年以上前の話だ。
深夜、県道のトンネルを営業車で走っていた。時間は二時だったか三時だったか、そのくらいだと思う。
トンネルへ入る前、ラジオをつけていた気がする。でも、つけていなかったような気もして、そのあたりはもうよく覚えていない。
何気なくバックミラーを見ると、後部座席に誰かが座っていた。
白っぽい服を着ていたことだけは覚えている。顔は見ていない。というより、見ようとしなかった。
普通なら振り返るはずだ。誰か乗っていたら確認する。それなのに、その時はそんな考え自体が浮かばなかった。ただ、「見ない方がいい」と思ったのか、それとも何も考えていなかったのか、そのへんも曖昧だ。
そのあと、後部座席の方から「まだ着かないの」と声が聞こえた。その一言だけは、今でもはっきり覚えている。ただ、その前後の記憶がほとんどない。どれくらい走ったのか、速度を上げたのか、それともそのままだったのか。気が付けばトンネルを抜けていた。
抜けたあと、一度路肩に車を停めた記憶がある。どうして停めたのかも、どれくらいそこにいたのかも覚えていない。怖かったからだと思うけれど、その時の自分が何を感じていたのかは思い出せない。
次にはもう、自宅の駐車場で車を停めていた。その間の運転も記憶から抜け落ちている。
家に着いて後部座席を見ると、誰もいなかった。
シートだけが濡れていた気がする。
翌朝も濡れていたような気がするけれど、それも今では自信がない。本当に見たのか、それともあとからそう思い込んでしまったのか、自分でも区別がつかなくなっている。
何日かして職場でこの話をすると、「あのトンネルはやめとけ」と言われたことだけ覚えている。それが誰だったのか、相手自身の体験だったのか、忠告だったのかも思い出せない。
これを書いていて気づいた。
思い出そうとするたびに、細かい記憶が少しずつ違っている。
白い服だったと思っていたのに、今は薄い灰色だったような気もする。最初に誰かへ話した時は白と言った気がする。でも、その記憶すら本当に正しいのかわからない。
あの日、本当に後部座席に誰かがいたのか。それとも疲れて幻を見ただけだったのか。
何も映っていないと分かっていても、見ないまま走ることだけはできなくなった。
※画像はイメージです。


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