夏休みの思い出

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夏休みの半ばを過ぎる頃には、プラスチック製の虫かごの中身は、生きた虫ではなく茶色く変色した脚や羽の塊になっていた。
セミ、カブトムシ、バッタ、カマキリ、捕まえてはかごに詰め込み、そのまま放置した。翌朝には動かなくなったそれらを庭の隅に投げ捨て、空にかごを持って出かける。餌を与えるという発想も、飼うという目的もなかった。
ただ、かごが埋まる感覚と、捕獲時の手応えだけを求めていた。

その日も昼過ぎまで近所の雑木林を回り、かごの蓋が浮くほど虫を詰めていた。緑色と茶色が中でひしめき合い、カサカサと乾いた摩擦音を立てている。

帰りは、おもったより遅くなってしまったので、近道の裏道を通った。人がひとり通れるほどの幅しかない、ブロック塀に挟まれた細い路地で、両側から民家の軒先が迫っている。

路地の真ん中に、それがあった。
最初は、誰かが置いた大きな緑色のプラスチックゴミかと思った。しかし、近づくにつれて、それがアスファルトの上に直立しているのが見えた。
バッタだった。
体長は一メートルを超えていた。人間の幼稚園児ほどの背丈がある。路地を塞ぐようにいる。
立ち止まり、声は出なかった。恐怖というよりは、あまりのサイズの異常さに脳の処理が追いつかなかった。
バッタは動かなかった。ただ、巨大な複眼がこちらを向いているように見えた。

不意に、自分の足元から音が聞こえた。
手元ではない。自分が抱えている虫かごの中からでもない。
足元だった。
見下ろすと、ブロック塀の根元やアスファルトの亀裂から、小さくちぎれた脚や潰れた羽の破片が滲み出るように湧き出していた。それらは生きているわけではなく、風もないのに微細に揺れ、集まり、足の甲に触れた。

顔を上げると、巨大なバッタの頭部が、ゆっくりとこちらへ傾いていた。
軋むような硬い音だけが、静まり返った路地に響く。
自分は虫かごをバッタに叩きつけ、振り向いて走った。
振り返らなかった。大通りに出るまで夢中で走り続けた。

家に戻っても、誰にも話さなかった。怒られる気がしたからだ。
翌日、恐る恐るあの路地を通った。
巨大なバッタはおらず、割れた虫かごも消えていた。
ただ、路地の中央、アスファルトの表面に、緑色の粘り気のある液体が円状に乾いた跡が残っていた。
その中心に、自分が昨日投げつけたはずの、ヒビの入った虫かごのプラスチック片が一つだけ落ちていた。

それ以来、虫を捕まえるのをやめた。

ひろ
子どもの頃って残酷ですよね

「奇妙な話を聞かせ続けて・・・」の応募作品です。
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※画像はイメージです。

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