もう20年以上前のお話。
娘がまだ幼稚園児だった頃、K駅の近くにあった病院で働いていました。
地域の人にわりと愛される病院
一階が外来、二階と三階が病棟になっている、小さな病院。
院長先生は高齢の方で、建物自体もかなり老朽化していました。
隙間風がピューピュー入り込み、締まりきらない窓まであるような状態で、近いうちに建て替えて、娘さん夫婦へ代替わりするという話も出ていたぐらいです。
ある日、急に入院となった高齢の女性の着替えをお手伝いした際、服を何枚も重ね着されていて驚いたことがあります。
理由を聞くと、女性は笑いながらこう話してくれました。
「主人が、あの病院は寒いからもう一枚着て行けって言うんですよ。病院で風邪をひくぞって」
冗談めかして話されていましたが、地元の方たちの間では有名な話だったのです。
他にも、夜間に全裸の男性患者が廊下のゴミ箱に立ちションをしてしまった。冬場に入院患者が低体温症を起こしてしまった。夜中に話声がすると思ったら認知症の患者さんが見えない誰かと話してる。
等などとの珍事件が多発していましたが、患者さんの多くは昔からこの病院に通われており、院長の人柄もあって、まあまあ愛されている感じでした。
赤い着物を着た女の子
古い病院なので、幽霊が出るという噂もほどほどあります。
中でもよく話題になっていたのが、六人部屋の病室のに入院される患者さんが、決まって「赤い着物を着た女の子がいる」と言うのです。
ただ、その病室の前には消火設備があって、夜間は赤いランプが点灯しています。
その光が病室へ入り込み、できた影が原因で見間違いになっているのだろうと思っていました。
ある夜、その病室に入院していた患者さんが、突然強い口調で「赤い着物の女の子がいる」と訴え始め、一晩中ナースコールを押し続けて、落ち着かない様子だったそうです。
朝の申し送りの時に聞いたのですが、私は「またいつもの話か」としか思っていませんでしたが、その数日後、その女性患者さんは体調を崩して亡くなりました。
さらにしばらくして、別の患者さんが同じ病室へ入院しました。
その方も夜中になると「赤い着物の女の子がいる」と話すようになり、スタッフの間で「また始まったね」と半ば冗談のように話題になっていました。
ところが、その二、三日後に、今度は別の患者さんが亡くなったのです。
いつしか、「あの病室で赤い着物の女の子が見えると亡くなる」と噂をされるようになっていました。
もちろん、私たちも本気で信じていたわけではありません。
ただ、偶然にしては妙に続いていたのです。
赤い女の子
あの病室に高齢のAさんが入院され、一週間ほど経った頃、同じ部屋の患者さんが二人続けて亡くなりました。
老人が多い病院ですから、それ自体は特別珍しいことではありませんが、Aさんが妙な話をするようになったのです。
「夜中にふと目を覚めると、亡くなる方のベットの前に赤い着物を着た女の子が立っている」
認知症の患者さんでは無いので、私は少し気になりながらも「夢でも見たのだろう」くらいに考えていました。
ところが、一か月ほど経った頃、Aさんが「昨夜、変なものを見た」と深刻な様子で声をかけてきます。
「赤い着物の女の子が病室の前に立っていたと思うと、ゆっくり病室へ入ってきて、ベッドの横に立って、じっとこちらを見ていた」
ナースコールのボタンを押そうとしても身体が動かず、ただその女の子を見つめることができず、どれくらい時間が経ったのかわからないのですが気づくと女の子は消えていたそうです。
Aさんは「何か嫌な感じがする」と、本気で怯えていました。
私もその話を聞いて一抹の不安を感じたのですが、翌日から連休に入り、その話はすっかり忘れてしまいました。
数日後、出勤した私は、Aさんのベッドが空になっていることに気づいて、同僚に聞くと、私とあの話をした翌日に、急変して亡くなったのです。
しばらくこの病院に勤務していて気がついたのですが、他の病室に比べると「赤い着物の女の子がいる」病室で患者さんの死亡率が高いのです。
高齢者の入院が多いのは確かな事で、その殆どが寿命で亡くなったと言っても過言ではありません。
そうすると「赤い着物の女の子」は死神のようなものなのでしょうか?
しかし聞いた話からすれば、ほとんど方は安らかに亡くなったようなので、悪いものではないのかもしれません。
ただ少なくとも、あの病室の「赤い着物の女の子」の話を聞くたびに、私は少し嫌な気持ちになっていたのを覚えています。
※画像はイメージです。


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