複翼肉塊に人面蛇身女神!古代中国の奇書『山海経』を彩る妖怪

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皆さんは妖怪がお好きですか?
ぬらりひょん、唐傘小僧、ろくろ首、一反木綿、ぬりかべ……日本には実に多彩な妖怪が存在しますが、それは中国大陸も例外ではありません。

今回は中国の漢代に成立した地理書『山海経』から、人知を超えたユニークな異形たちをご紹介していきます。

目次

古代中国が誇る摩訶不思議な奇書『山海経』とは

まず最初に『山海経』の説明をします。『山海経』とは秦朝・漢代(前4世紀~ 3世紀頃)にかけて成立した世界最古の地誌に当たり、膨大な数の動物・植物・鉱物ほか、空想上の産物である妖怪や神々、精霊や魔物たちまでもが分類されています。

編者は夏朝の初代王・禹、およびその治水を助けた伯益であるとされているものの、実際には有名無名問わず多くの人々の手が加わり、長い歳月を経て完成に至ったと考えられています。もともとは『山海図経』と呼ばれ、広範な博物の図解を目的として編まれました。

されど古い時代に絵地図が失われてしまった為、現在『山海経』に収録されている異形は、後世の人間が本文の記述から想像したものになります。したがって正確な有り様を写し取った保証はなく、本来は全く別の姿である可能性に留意してください。ちなみに『山海経』とは『山経』と『海経』をまとめた書名で、『山経』には中国の地理と博物、『海経』には海を隔てた異国の情報が掲載されています。

次の章からは『山海経』を彩る珍妙な妖怪たちに焦点を当て、選りすぐりのスターを解説していきます。

七孔のない複翼の肉塊・渾沌

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渾沌(コントン)は『山海経』の『西山経』に登場する妖怪、または神で、天山の西南を司る帝江と同一視されてきました。
その見た目は『荘子』曰く目・鼻・耳・口の七孔がなく、二対四枚の複翼を携えた肉塊に三対六脚の短足が生えた姿だそうで、パッと見前後の区別も付きません。誤解を恐れず言ってしまえば、プリプリのお尻に羽と脚が生えた(キモカワな)化け物です。

なんとも奇っ怪な姿をした渾沌ですが、中国神話においては中央の帝として登場し、南海の帝・儵(シュク)と北海の帝・忽(コツ)を手厚くもてなしました。それに甚く感激した儵と忽が「お礼をしたい」と申し出て、渾沌の顔に七孔を穿ったところ、あっというまに様子が豹変し死んでしまった……と伝えられています。

この事から物事に対し無理に道理を通すことを、「渾沌に目口(目鼻)を空ける」と言うようになったそうです。
ちなみに渾沌と同一視される帝江は、黄色い袋のような体型をしており、頭どころか目・鼻・口もなく、短い六本の脚と四枚の羽を持った化け物として描かれてきました。豊富な鉱脈と玉石を産する天山に棲み、火のような赤い光を放って現れる性質も渾沌とよく似ています。

一方『神異経』では少々見た目が異なり、長い毛が生えた犬に似た姿と熊に似た爪のない脚を持ち、目はあれど見えず耳あれど聞こえず、常に自分の尻尾を咥えて回り続け、空を仰いで笑っていたといいます。善人を忌み嫌い悪人に媚びる天邪鬼な一面も、不気味なキャラクターを印象付けていますね。
孔子が編纂した古代の歴史書『春秋左氏伝』では、聖人と名高い黄帝の子でありながら悪徳に耽って人道を外れたルーツが明かされ、窮奇(キュウキ)・檮杌(トウゴウ)・饕餮(トウテツ)と並ぶ四凶に数えられています。

人類を創造した人面蛇神の女神・女媧

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続いて紹介する女媧(ジョカ)は古代中国神話に登場する、人類を創造した女神。全ての文明の祖である伏羲とは兄妹、または夫婦として扱われています。藤崎竜の伝奇漫画『封神演義』を読んだ方は、宇宙人のグレイに酷似した容姿を思い浮かべるかもしれません。
中国神話における女媧は蛇身人首、即ち下半身が蛇の女神として描写され、男女和合と子孫繁栄を司ります。歌舞音曲にも造詣が深く、笙簧という吹奏楽器と婚姻制度を作りました。淮南王・劉安が編纂した『淮南子』曰く、女媧は全ての人類の生みの親に位置付けられ、彼女が泥を捏ねて作った人形が人間の起源であると記されています。

片や『風俗通義』では人類誕生の過程がもう少し掘り下げられ、作り始めの頃に丁寧に黄土を捏ね整えた人間が後世の貴人になり、やがてそれが量産体制に移行し、縄で泥を跳ね上げた飛沫から生まれたのが凡庸な人間であると説かれました。『楚辞』と『天問』には「女媧以前に人間は在らず、ならば女媧は誰が作りしか」という謎かけが残されています。

さて、『山海経』における女媧の扱いはいかがでしょうか?挿絵にはインパクト抜群な人面の蛇が描かれており、その独特な風貌は秀でた額に太眉と福耳、どっかり胡坐をかいた団子鼻とたらこ唇を備え、人々の夢の中に現れる都市伝説上の存在「This Man」を彷彿とさせます。ラミアのような妖艶な美女を連想した方は、少々がっかりするかもしれませんね。

女媧と伏羲が兄妹(夫婦)であることは前述しましたが、この兄妹が瓢箪から作った船に乗って大洪水を生き延び、人類の始祖となった伝説は苗族やチワン族の間にも広まっています。『淮南子』では太古の時代に天を支える四極の柱が傾いて天地が裂け、世界が滅亡の危機に瀕した際、女媧が五色の石を錬って天を補修し、大亀の足を四柱に代え、黒竜の体で土地を均し、芦草の灰で洪水を堰き止めた活躍が語られていました。

仙界の主審にして全女仙の頭首・西王母

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西王母は古くから中国で信仰されていた仙女。道教においては全ての女仙の頭首にして仙界の主神に祭り上げられ、西王母の名前は「西方に聳える崑崙山と天界を統べる母なる女王」の意味を帯びています。

九霊太妙亀山金母、太虚九光亀台金母元君、白玉亀台九霊太真元君ほか数々の異名を持ちますが、大抵は親しみを込め、俗称の王母娘娘(ワンムーニャンニャン)で呼ばれているようです。字面と響きが一気に可愛くなりましたね。
『山海経』の『西山経』に登場する西王母は「人の姿で虎の下半身と豹の尾を持ち、よく唸る。蓬髻長髪に玉勝(宝玉の髪飾り)を冠し、天の厲と五残(疫病と五種類の刑罰)を司る」と書かれています。前述の女媧が人首蛇身の女神であるのに対し、こちらは人首虎身の女仙といったところでしょうか。

姿こそ人と獣のキメラめいた西王母ですが、その生活スタイルは意外にも人間に近く、歩く際は杖を付き、机に寄りかかって休みます。食事は大鶩・小鶩・青鳥の三羽の鳥が運んでくるそうで、これが後代の神獣、三本足の烏の原型になりました。

そんな西王母の勤めは崑崙山の頂に生る不老不死の仙桃(蟠桃)、ならびに天界に湧く瑶池を管理すること。小野不由美のファンタジー小説『十二国記』を既読の方は、物語との符号にニヤリとするでしょうね。
ちなみに三月三日は西王母の誕生日に当たり、この日に女仙たちが蟠桃園に集って生誕を祝ったのが、今日まで続く桃の節句と始まりと言われています。

胸に穴が開いた貫匈人が住む貫匈国

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『山海経』に載っているのは妖怪や神仙だけではありません。当時の人々が実在を信じていた、異邦の亜人たちの生態も収録されています。

古代中国の南方・盛海には、多種多様な異形の人々が住む国が栄えていました。そのうちの一国・貫匈国に暮らす人々は胸に大きな穴が穿たれ、本来よりかなり下の位置に心臓が存在します。高貴な者は己の胸の穴に竹や木の棒を通し、それを下僕に担がせて駕籠のように移動しました。

大昔、英雄の禹によって防風氏が討たれました。主君の死を嘆き悲しんだある臣下は、同じように胸に穴を穿って後を追ったものの、これを不憫に思った禹が不死の薬を飲ませた為、体に穴が開いたまま甦りました。貫匈人はその遠い子孫に当たり、何世代も経て繁栄を遂げた彼等が、盛海の果てに貫匈国を作り上げたのでした。

この逸話は日本の浮世絵師の創作意欲を甚く刺激したようで、葛飾北斎の『北斎漫画』や河鍋暁斎の『朝比奈三郎絵巻』に、貫匈国の有り様が生き生きと描かれています。

まだまだいるぞ、語り尽くせぬ『山海経』の魅力

以上、中国の奇書『山海経』に登場する妖怪・神仙・亜人を紹介しました。
原典にはまだまだ膨大な数が載っているので、妖怪好きを自認する方はぜひ手に取ってください。
必ずお気に入りと出会えますよ。

featured image:韓国国立デジタル図書館, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で

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