あの頃、休みになればロードバイクを持ち出し、奥多摩方面まで走り出していました。
奥多摩、特に早朝は静かで車も人も少ない、聞こえるのは川の流れる音や風の音ばかりと浸ってしまいます。
都内とは思えないほど空気が澄んでいて、山道を走っていると頭の中が空っぽになるようです。
ただ走っているだけなのに、不思議と気分が軽くなります。
帰り道で迷う
奥多摩は走り慣れていて、自分の庭のような感覚になっていたので、地図は持ち歩いていません。
それにスマートフォンも無い時代でした。
その日も、いつものように山道を流していたのだが、途中で見慣れない脇道が目に入りました。
好奇心、いえ、知らない道なんかありえないという思いと、少し進めば元の道へ戻れる。
そんな軽い気持ちで入っていったのを覚えています。
ですが分岐が多く、気付けば、自分が今どの辺りを走っているのか解りません。
来た道を戻ろうにも、どこで曲がったのか曖昧になってしまいました。
まさか迷ってしまうとは。
いわゆるドツボにハマってしまったのです。
標識が見えた
私は焦りながらも、とにかく先へ進めばどこか大きな道へ出られるだろうと思い、自転車を走らせ続けました。
しかし、進むにつれて道はさらに細くなっていき、普通の舗装路だった道はいつの間にか砂利道になり、しまいには草が生い茂って、車が通った形跡がほとんどない林道になってしまいます。
まずいと思いながら走っていると、標識が見え、それには「この先、〇〇町」と書かれているではありませんか。
助かったと思い、そのまま全力でペダルを漕いで進んでいったのですが、しばらくすると「この先 崖崩れのため通行止め」と書かれたゲートが道路を塞いでいました。
仕方なく引き返し、「この先、〇〇町」の標識を過ぎて、もと来た道を戻っているはずだったのですが、しばらく進んだ先にまた現れたのは、「この先 崖崩れのため通行止め」と書かれたゲートでした。
どこかで道を間違えたのだと思ったのですが、分岐らしい分岐は無かったはずです。
私は確かに、さっき自分が走ってきた道を戻っていました。
疲れているから気のせいだろうと思い、もう一度引き返したのですが、またあのゲートに行き着いてしまいます。
そして、なぜか何度引き返しても、最後はそのゲートに辿り着いてしまうのです。
もうだめだ
私はパニックになりながら、ひとまず「この先、〇〇町」の標識まで戻りました。
その頃にはすっかり日も暮れていて、何が起きているのか理解できないまま、自転車を降りて標識の下でうなだれていました。
その時でした。
突然、眼の前を一台の車が通り過ぎていったのです。
しかも、その車は行き止まりになっていたはずのゲートの方向から走ってきたのでした。
驚きよりも、この車について行けばどこかへ出られるかもしれないと思い、慌てて自転車に乗って後を追いかけます。車も山道に慣れていないのか、ゆっくりした速度で走っていたため、なんとか見失わずについていけました。
すると、十分もしないうちに、突然見慣れた国道へ出たのです。
そこからは、何事も無かったように普通に帰ることができました。
今でも時々、思い出します。
何が起きたか解りませんが、狐にでもつままれていたのではないかと。
※画像はイメージです。


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