夢うつつ

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私が40歳だった頃の話です。
夫が会社でいただいたと言って、海外の大学教授であり精神科医でもあるB博士が書いた、前世を題材にした本を持って帰ってきました。
逆行催眠の治療をしていたところ、患者同士が前世での同じ体験を共有していたというような内容で、魂の生まれ変わりは存在するという事を理論から説明しています。
夫は宗教や霊の話をまったく信じない人なのに、なぜか「これは本物かもしれない」と妙に納得していました。
夫の思わぬ反応から興味が湧き、本を読んでみるとたしかにそうだと、手放しで信じてしまったのです。

そんな時、動画サイトでB博士本人による逆行催眠の導入動画を見つけた。
最初は、どんな感じなのか少し見ててみようと思っただけでしたが、動画が始まると急に強い眠気が襲ってきました。
頭がぼんやりして何も考えられなくなり、そのまま床に横になってうつらうつらし始めたのです。

目次

夢の中

気が付くと中世ヨーロッパのような石造りの宮殿の中にいました。
どうやら私は巫女のような存在で、国の政治の重要な部分を担っている立場。

それで宮殿の一番広い部屋の真ん中、男性と背中合わせに座っています。
男性は戦士で、顔かたちは全く違うけどリアルで知っているような雰囲気。

外からは刀や盾がぶつかる音、馬や人々の足音のようなものが聞こえてきて、戦争の最中だと察しました。
背中合わせに座っていた男性は、この世で一番愛している存在なんだけど本来敵同士。
戦いのどさくさに紛れ、誰にも内緒で合っているのです。

彼はさらに上の立場へ進まなければならず、そのためには私が邪魔になる。
葛藤と苦しみの中で彼は心を決めた、私はそれを全部わかっていたので、差し出しされた毒を自分から口にしました。

彼は無言で見つめています。
私は苦しくてもがきながら、必死に宮殿の奥にある玉座へ這っていき、あと少しのところでこと切れてしまった。

その瞬間フッと楽になって、夢だと気が付きました。
あー残念でした、ざまみろと思いつつ、あいつ自分のために私を犠牲にしたよねと腹立たしくなりました。
ですが、それよりも小学生が書いた陳腐なファンタジー設定、夢とは言え、お花畑な感覚に自己嫌悪です。

とはいえ、とてもリアルな感覚。
逆行催眠にかかったとすると、これが前世?
そう思ったものの、あまりにも馬鹿馬鹿しい話だったので、忘れることにしました。

施設長

それからしばらくして、私の働いていた施設に、新しい施設長が赴任してきました。
全くの初対面なのに、最初に顔を見た瞬間、妙な感覚が湧き上がったのです。
いつか夢の中で背中合わせに座っていた、あの男性に雰囲気が似ている気がしました。
顔はまったく違っていてブサメン。好みでもない。
ただ、なぜか昔から知っている相手のように感じが湧き上がるようです。

最初は普通に、同じ職場の上司とパートのおばちゃんという関係。
私は結婚していましたし、ただ少し身近に感じる、それだけだったのですが、いつからか気になるように。
同じ建物の中にいると、なぜか相手がいることがわかる、相手の感情まで伝わってくるような気がする。

あるとき、私が職場でミスをして焦ってしまい、とにかく施設長に確認しなければならないと思い、電話をかけようとした瞬間、電話がかかってきたのです。
それも、施設長はまるでこちらの状況を最初からわかっていたかのように、落ち着いた口調ですぐ答えてくれた。

電話を切った後、自分でも妙な感覚が残りました。
きっとあの時、私の焦りが相手にも伝わっていたのだと思ったのです。

そんな馬鹿な話があるわけないと自分に言い聞かせながら、少しずつ夢と現実を重ねるようになってしまい、気がつけば、私たちは不倫関係になっていました。

同じ結末

あっという間に職場で噂が広まり、ついには夫にも知られる事に。

彼を信じていたので、私は大丈夫だと思っていました。
少なくとも、あの人だけは最後まで味方でいてくれるのだと。
ですが、彼は自分の立場を守り、施設長であり続けることを選びました。
気が付けば、不倫関係を迫った中年女性という形で、すべての責任を私一人が背負わされていたのです。

もう誰も味方になってくれませんでした。
何とかしようともがきましたが、どうにもなりませんでした。
私は職場を追われ、夫とも離婚しました。

そこで、ふと思ったのです。
あれ、これ夢と同じじゃないか。

あの時も彼は、自分が上へ行くために私を切り捨てた。
私はそれをわかっていながら、結局また同じ人を選び、同じようにすべてを失ったのです。

あの夢が本当に前世だったのかは、今でもわかりません。
ただ、最近になって気付いたことがあります。
夢の中で、玉座まで辿り着けず這いつくばっていた私を、彼は冷たい目で見ていました。

あの時は愛されていると思っていたので気付きませんでした。
現実でも、同じだったのです。

※画像はイメージです。

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