年末は本来なら忙しくて、誰もがバタバタしている時期なのに、沖縄から突然おばあちゃんがやってきた。
理由を聞いてもなにも言わないけれど、なぜかとても機嫌が悪そうなのは解る。
かといって追い返すわけにもいかない。妻も息子も久しぶりの来訪を喜んでいたし、そのまま泊まってもらうことになった。
最近の俺
話は変わるが、この頃、悪い夢をよく見ていた。
場所は分からないのに、天井みたいな圧が頭の上に張りついている。音はほとんど消えていて、遠くで何か金属が擦れるような低い音だけが続いている。
それが近づいてくる気配だけが、やけに生々しい。
そのうち、なにか表現しがたいもの出てくる。人の形をしているように見えるが、顔の部分だけがぼやけていて、目があるのかないのかも分からない。
それなのに、こっちを見ているのが分かる。
恐ろしくて逃げるが、確実に追い詰められていく。
そして、洗面所にいる場面に変わる。
いつも通り顔を洗っているのに、水の音だけが異様に大きく響いている。ふと背中の下のほうに嫌な気配がして、視線を落とすと、長い髪の女のようなものがしゃがみ込んでこちらを見上げているように見える。
顔ははっきりせず、髪だけが異様に長くて現実的、濡れたような重さがある。
体が止まる。動かないというより、動かす判断そのものが消える感じだった。
そのまま視界が崩れ、喉の奥が詰まり、何度も目が覚める。
でも完全には起ききれていなくて、まだ夢の続きに引き戻される。
それを繰り返す。
朝食をとっていると
おばあちゃんがやってきた次の日の朝も、同じ夢を見た。
朝にはぐったりした状態で朝食を食べていると、妻が心配そうな顔で話しかけてきた。
「また、あの夢見たの?」
その会話を聞いていたおばあちゃんが、箸を置いて私の方を見た。
「ぬーぬくとぅやが? 話してみれー」
夢の内容を最初から最後まで話した。
何度も目を覚ましながら、同じ夢を繰り返していることも。
おばあちゃんは途中で口を挟むこともなく、ただ黙って聞き、話が終わっても何も言わない。
「まあ夢の話だからな」と思い、そのまま会社へ行く支度を始めた。
玄関へ向かおうとした、その瞬間だった。
突然、体が浮いた。
次の瞬間には床の上に転がっていた。
何が起きたのか理解できず呆然としていると、妻も息子も目を丸くして固まっている。
おばあちゃんに投げ飛ばされていたのだ。
おばあちゃんは何事もなかったように私の背中をトントンと何度か叩いた。
そして私の手を取って立ち上がらせると、「いってぃきみそーれー」とだけ言った。
その日の夕方
夕方、家に戻るとおばあちゃんの姿が見えなかった。
妻に聞くと、息子の帰りを待って、その後すぐに沖縄へ帰ったという。
俺に電話で連絡しようとしたらしいが、なぜかおばあちゃんが止めたそうだ。
おばあちゃんは、昔からこういう訳の分からない行動をよくする。
朝の出来事もそうだ。
ところが、その日を境にあの夢を見ることはなくなった。
家族には話していないが、おばあちゃんは沖縄のある離島の出身で、ご先祖はユタだったと聞いている。
普段から霊が見える人で、子どもの頃、何も言わずに何もない場所を指差すおばあちゃんが怖かったのを思い出す。
もしかすると、おばあちゃんは何もかも知っていて、助けるために来たのかもしれない。
本当のところは分からないし、おばあちゃんに確かめてもなにも言わないだろう。
ただ、あの日を境にあの夢を見ることはなくなったことは、まぎれもない事実だ。


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