これは数年前の冬、友人2人と私の3人で、S高原スキー場へスノーボードに出掛けた時の話です。
夜の出来事
朝から夕方まで滑り続け、身体は疲れていましたが気分は最高。
ホテルへチェックインした後、着替えて外へ夕食を食べに行きました。
食事を終えて部屋へ戻ったのは夜8時頃だったと思います。
私たちはテレビを見ながら雑談したり、翌日の予定を話したりしていました。
その時、入口の方から「コンコン」と小さなノック音が聞こえたのです。
全員がその音に気付き、友人の一人が返事をしながら入口へ向かいました。
部屋の構造上、入口は居間から見えませんが、ドアの開閉音が聞こえたため、誰か来客だったのだろうと思っていました。
最初は大して気にも留めていませんでしたが、いつまで経っても友人は戻ってきません。
ホテルの従業員に何かの余事で呼び出されて、出かけていったのだろうと思っていたのですが、あまりにも戻ってくる気配がありません。
ふと時計を見ると、すでに20分近く経っているのです。
「何してるんだろうな」と話をしていた時です。
友人がようやく部屋へ戻ってきました。
ですが、その様子が妙で、俯いたまま一言も話しません。
誰が来ていたのか尋ねても返事すらしないのです。
顔色が悪いというよりぼんやりして、私たちの声が届いていないような雰囲気だったのです。
友人は私たちの話に加わらず、しばらくソファに座っていたかと思うと、突然立ち上がり、そのままベッドへ向かいました。
そして布団を頭まで被ったまま動かなくなったのです。
ちょっと変だと思いましたが、一日中滑って疲れていたこともあるので、そっとしておくことにしました。
訪問者
日付が変わる頃、私ともう一人の友人も寝ることにしました。
部屋の明かりを消して横になってから、どれくらい経ったでしょうか。
再び、ドアをノックする音が聞こえました。
私は目が覚めてしまいましたが、隣の友人は寝ています。
仕方ないと思って入口へ向かおうとした瞬間、私は驚きました。
ドアの前に人影が立っていたのです。
それは先ほどから様子のおかしかった友人でした、俯いたまま、じっと入口の前に立っています。
呼びかけても返事はありません。
私は不思議に思い肩を叩くと、友人はゆっくり振り返ります。
その瞬間、私は思わず息を呑みました。
今でも上手く説明できません。
確かに友人の顔ですが同時に、まるで見知らぬ老婆の顔を見ているようにも感じたのです。
深い皺に落ち窪んだ目、生気のない表情、ほんの一瞬だったと思います。
私は強烈な恐怖を覚え、反射的に後ろへ飛び退き、もう一人の友人のところまで逃げました。
友人を叩き起こすと、老婆のような顔になった友人に気が付き、二人で抱き合って震えていました。
すると友人は私たちの方を見ながら、低い声で呟きました。
「消えろ……」
その直後、友人は糸が切れた人形のようにその場へ崩れ落ちたのです。
忘れられない夜
私たちは慌ててフロントへ連絡しました。
ホテルの従業員が駆け付けたので事情を説明したのですが、私たちの訳の解らない話に戸惑っている様子でした。
それでも何か緊急事態だと察し、すぐに救急車が呼ばれました。
意識を失った友人は病院で診察を受けましたが、特に異常は見つかりませんでした。
翌朝、私たちが迎えに行くと、本人は拍子抜けするほど普段でキョトンとしています。
昨晩の出来事を話してみても、友人は首を傾げるばかり。
ノックの音がして部屋を出たことまでは覚えているそうですが、その後のことは何ひとつ記憶にないと言うのです。
すっかり元気そうでしたが、何かあってからでは遅いと思い、私たちは予定を繰り上げて帰宅することにしました。
友人はその後も変わらず元気に暮らしています。
後になってから知ったのですが、S高原には昔から妙な噂があるそうです。
もっとも、私は詳しく調べてはいませんし、あの夜の出来事と関係があるのかどうかも分かりません。
ただ、ドアの前でゆっくり振り返った友人の顔だけは、忘れることができないのです。
※画像はイメージです。


思った事を何でも!ネガティブOK!