現在のアメリカ海軍の駆逐艦や巡洋艦、大型の原子力航空母艦、強襲揚陸艦等の艦艇は元より、海上自衛隊の護衛艦や他国海軍の水上艦艇でもその塗装色は割と明るい灰色が主流だ。こうした水上戦闘艦に施された明るい灰色の塗装は「低視認塗装」と呼ばれており、字面通りに広い洋上に展開するこれらの艦艇達を目視上で捕捉しにくくする効果を狙ったものと言える。
この傾向は第二次世界大戦後の艦艇への塗装として広く一般化したものだが、以前には別の塗装形式も存在しており、見方によっては奇抜にすら感じられるそれが「タズル迷彩」である。
「ダズル迷彩」の誕生
「ダズル迷彩」を発案しこれを実用化させたのはイギリス人のノーマン・ウィルキンソンという人物で、画家の彼が第一次世界大戦でイギリス海軍の予備役に志願したことが契機となった。ウィルキンソンはイギリス海軍の敵であるドイツ海軍の潜水艦・Uボートと対峙する事になり、イギリスに物資を輸送する船団に無差別な攻撃を行うUボートの脅威を間のあたりにする。
そこで本来画家であったウィルキンソンは自身のその能力を活かし、艦船にある塗装を施すことで敵に発見された場合でも、進路や速度などを錯誤させ攻撃を回避する方法を考案した。ここでウィルキンソンがイギリス海軍本部に提案したのが「ダズル迷彩」の起こりであり、迷彩の本来の目的である視認の困難さを追求するのではなく、視認された後の敵の錯誤を企図したものだった。
これはある種逆転の発想とでも呼ぶべきものであり、水上戦闘艦そものもの発見を妨げられないならば、発見された以後も敵から正確な攻撃を受けないようにとの「幻惑効果」を狙ったので、「幻惑迷彩(げんわく めいさい)」と呼ばれる事もある。
イギリス海軍が採用した「ダズル迷彩」の見た目と狙い
こうして提唱された「ダズル迷彩」は艦艇の船体に幾何学的な模様を施すものとなり、その模様が敵の目からは距離そのものから進行方向、速度などの情報を錯誤させるものと計算された。当時の水上戦闘艦の主兵装であった火砲の発射は、当然標的とする艦艇までの距離を測距儀等で確認し、その観測結果の計算に基づいて行われるため、その情報を攪乱させようとしたのだ。
もう一つの「ダズル迷彩」の狙いはこれを施す事によって、敵に視認された場合でもその艦艇の種別が何なのかを、その模様の効果で判断しにくくすることで攻撃を遅延させるようと意図していた。このウィルキンソンの唱えた「ダズル迷彩」は見事イギリス海軍の上層部に受け入れられ、彼を中心にして実施を命じ、実に第一次世界大戦中に凡そ4,000隻の「ダズル迷彩」塗装艦艇が出現する事になった。
イギリス海軍が「ダズル迷彩」を即座に普及させた理由としては、ドイツ海軍のU-ボートによる無差別な攻撃作戦に対し、何とか対抗策を講じる必要性に迫られた時代背景が大きかったと推察される。
各国の「ダズル迷彩」採用の艦艇たち
本家のイギリス海軍では前述の様に多数・凡そ4,000隻以上の「ダズル迷彩」が施されたが、この当時の最大の戦力である戦艦「ラミリーズ」や「リヴェンジ」は第一・第二の両世界大戦で使用された。
またアメリカ海軍でも第二次世界大戦時の駆逐艦「チャールズSスペリー」やテネシー級戦艦、エセックス級航空母艦のなどに「ダズル迷彩」が導入された。
日本海軍でも航空母艦「瑞鳳」の飛行甲板や、戦艦「榛名」の主砲等に「タズル迷彩」を施した例が見られるが、イギリスやアメリカに比べれば導入例は少ない。
第二次世界大戦時のドイツでは戦艦「ビスマルク」や重巡洋艦「プリンツ・オイゲン」に「バルティック・スキーム」と呼ばれるゼブラ模様が施され、これも広義の意味で「ダズル迷彩」の一部と見られている。
「ダズル迷彩」の効果と現在
イギリス海軍によって広まった「ダズル迷彩」ではあったが、第二次世界大戦でレーダーが普及し、また火砲の射撃管制技術が進化すると、目視で錯誤を誘発しようとする意味が薄れ下火となった。
また「ダズル迷彩」を施した艦艇とそうではない艦艇の比較をした結果でも、その優位性を示すほどの差はなかったと見るのが現在の一般的な解釈と言えそうだ。
しかし実際に艦艇に乗務する乗組員たちの心理的な感覚としては、「ダズル迷彩」を施した艦艇の方が安心感が高かったとも言われており、現場のマインド面には貢献したと考えられる。
冒頭のように現在は主要国で「タズル迷彩」が施された艦艇は皆無と言えるが、一部北欧のノルウェーやフィンランドにおいて河川や沿岸向けの小型艦艇にその名残を見る事ができる。
またファッションや美術の分野では「ダズル迷彩」をモチーフとして用いる例もあり、デザインとしての「ダズル迷彩」は現在でも健在だと言えるだろう。
eyecatch source:Unknown – US Navy, Public domain, via Wikimedia Commons
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