太平洋戦争末期、日本軍は松の根っこから摂れる油、松根油で零戦など航空機を飛ばそうとしました。
今、それを聞くと「そら、負けるわな」と思ってしまうほど、何だか馬鹿げた話に聞こえますが決して荒唐無稽な夢物語ではありません。
松根油(しょうこんゆ)
松根油とは松の切株から、乾留という製法で得られるテレビン油の一種です。
そんな油で飛行機が飛ぶのかと疑問に思いますが、海軍の技術大尉が松の枝から高オクタン価のガソリン抽出に成功しています。
その後、海軍軍令部、軍需局、燃料廠の会議で松根油から精製したサンプルはオクタン価90越えと報告され、飛行実験でも使用可能な事が実証されました。
因みに当時の海軍が使用していた従来ガソリンのオクタン価は92だと言われています。
松根油は以前から薬剤やクレオソートなどの製造に使われており、それらを燃料用に集約すれば計算上は石油100万キロリットル相当になるとも報告され、挙国体制で松根油生産に取り組むことが決定しました。
しかし出征による労働力不足の問題や、資材不足やにわか作りによる不良乾留窯など課題が多数発生しました。
それでもやっと集められた松根油を航空機燃料に精製しようとした矢先、空襲により工場が被災して松根油も焼失。燃料製造に至らないまま終戦を迎えました。
しかし一部、海軍燃料廠で製造された燃料は、ターボジェットエンジン搭載の桜花に使われて実験飛行に成功しています。
軍事燃料としてのバイオ(バイオマス)燃料
「米海軍は、2022年までに艦戦、航空機燃料の半分を化石燃料以外の代替燃料で賄う計画である」というニュースがあります。
既に5隻の艦戦から成るグリーン艦隊と呼ばれる、航空機から艦戦まで主としてバイオ燃料を使う実験艦隊が稼働していることは事実です。
バイオ燃料とは、地球温暖化の原因である二酸化炭素を排出する枯渇性石油系燃料に替わる、植物系燃料です。
松根油も正にこのバイオ燃料の一つで、軍事専門誌のあるライターは、松根油は高比重、低コスト、再生可能エナルギーの三点でジェット燃料として優れており、高性能航空燃料に使われる可能性があるという記事を書いています。
しかし「200本の松で航空機が1時間飛ぶ」という戦時中の松根油の宣伝があり、これは逆に考えると、200本の松を数十年間育てて、やっと18秒の飛行ができるということに他ならず、
効率として現実的ではありません。
もちろん化学を含め科学技術は飛躍的に進歩しており、効率化も大幅に進んでいますから全くの夢物語ではありませんが、最終的にはコストの問題が決め手となるようです。
米海軍グリーン艦隊も現時点では高価過ぎるバイオ燃料が議会で問題となっています。
出典「松根油、航空燃料復活の可能性」軍事専門誌ライター・文谷数重
※画像はイメージです。
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