興味本位で、古来から現代までの医学進歩の過程で実際に行われた施術や民間療法を調べた時期があった。思わず「そうはならんだろ」とツッコミを入れたくなるような怪しい治療法も散見するが、「では何故それらの治療法は民衆の中に浸透したのか」に着目すると当時の無知で済ませてはもったいない程に興味深いものが見えてくる。
現代、我々が高水準の医療行為を当たり前のように享受するに至るまでに、医学はトライ&デスとも呼ばれた険しい過程を経ている。一見科学的根拠など全くない荒唐無稽な内容にも思える初期時代の医学療法たちは、非人道的行為を含む悍ましいものも中にはあるが、当時の時代背景や浸透していた文化と照らし合わせると悍ましさ以外のものも垣間見ることができる。
あれこれと紹介したい気持ちはあるが、紙面に限りがあるので今回は厳選して取り上げていく。
実在した非人道的医学療法
章の名目で調べ、有名どころを挙げるなら、『ロボトミー手術』などは知っている者も多いかもしれない。精神疾患の患者を対象に施された治療法であるが、内容は頭を開き脳の内感情を司る前頭前野へ繋がる神経線維を断ち切ってしまうという恐ろしいもの。
この手術を受けた患者は、不安の緩和や暴力的な行動の抑制など精神疾患の症状は改善されたと判断されたが、同時に知性と感情が削ぎ落ち廃人のようになるか、術後に深刻な合併症を引き起こし死に至るケースも多かった。正直このロボトミー手術も調べるほどに重厚な内容なのだが、今回は触れたい部分に更に関連深く「頭に穴を開ける」というインパクトある共通点を持つもう1つの医学療法を紹介する。
トレパネーション
日本語では『穿頭(せんとう)』あるいは穿頭術という。読んで字のごとく患者の頭蓋骨に穴を開ける施術であるが。誤解が生まれる前に説明しておくと、急性のくも膜下出血などで頭の中に血塊が生じた場合など、現代でも確立した治療法として患者に穿頭を施すことはある。
しかし今回取り上げるのは古代ギリシャ時代から行われ中世・近代ヨーロッパで広まった穿頭である。
当時の施術の図解を見ると中々にゾッとするのだが、局所麻酔をした患者の頭部の皮膚を開き、頭蓋にノミや槌で穴を開けていく。頭蓋に開けた穴はそのままに皮膚を縫合するので、患者は皮膚1枚隔てて脳がむき出しの状態となっている。
施術を受けた患者は「脳にかかる圧が軽減したことによって頭痛が改善した」「うつ症状が軽減した」などの意見があったようだが、専門家は「清潔かわからないノミ槌などの工具使うのもむき出しの脳みそも危険」と否定的だった。
穿頭という行為と神秘主義
近代ヨーロッパや現代までトレパネーションは頭痛や精神疾患の改善を目的として行われてきたが、元々はもっと違う目的で施術されていた。古来、身体に不調を及ぼすのは悪性の霊的存在であり、頭痛や精神疾患はその霊的存在が脳裏に宿り悪さをしていると考えられていた。
穿頭は、そんな頭の中の悪性の存在を外に逃がすために開けられた穴なのである。こういった霊的存在や絶対神のような存在と触れあおうとする哲学的思想を神秘主義といい、古来ギリシャ由来のトレパネーションは神秘主義に基づいて民衆に浸透していった。中世、近代、果ては現代まで、その施術の科学的根拠が確立されないままそれでも民衆に浸透し、被術者が一定数存在したのは、その土地に根付いた宗教的思想と文化も関係しているともいえる。
神秘主義由来の治療法
医学が発展してきた過程には、科学的根拠の見当たらない治療法も存在し、そういったものが民衆に浸透する背景には技術が発展途上所以の無知も影響するが、中には「自身たちが信仰する絶対神や霊的存在を最も近く感じるため」という神秘主義が加勢した事例もある。
現代においても稀に神秘主義由来の治療法は存在する。時に本気で有効な治療法を探す…そういった際には、治療法の根拠と効果、その真偽を疑うための知識と警戒心が必要であるが。
それらに対し1つのロマンだと、ある種割り切る余裕が読者諸君にあるなら。節度の範疇内で触れる分は問題ないだろう。
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