第二次世界大戦を代表する軍人の1人で、その死までも英雄的だった「砂漠の狐」ことロンメル将軍。
色々な伝記本がある中で、異色と言えるのは角川文庫から発売された「砂漠のキツネ ロンメル将軍」(ハインツ・シュミット:著/清水正二:訳)だと思います。
この、副官として過ごした1将校から見たロンメルの姿は、ロンメルという1軍人の人間的な側面を描いていました。
シュミット中尉とロンメル将軍
著者であるシュミット(中尉)がロンメル将軍と出会ったのは、DAK(ドイツアフリカ軍団)初期の頃。ロンメルがトブルクでPK部隊に戦車の映像を撮影させたり、「戦利品」としてトレードマークとなる砂漠用メガネを獲得した(ロンメルが個人的に敵から唯一得たのが、このメガネだったとか)場面などにも立ち会っています。
バトルアクス作戦の頃には、ロンメルの副官的な任務を追いますが、そこは若手の将校、数々の事務処理やらロンメル宛のファンレターの対応などに悪戦苦闘しつつ、やはり前線での武勲を願うようになっていきます。そして、クルセーダー作戦時に前線指揮をロンメルに願い出て、その願いをロンメルが聞き入れます。
しかし、この短い期間でのロンメルと共に過ごしていた時間、そこで著者である中尉が見たロンメルの姿は、時間を超えて魅力的に見えると思いますし、私自身も、読みながら「人」として魅了されたように思います。
文庫本中盤から後半に描けては、前線で第15装甲師団の一員として戦う著者の手記となりますが、アフリカ戦線での実体験に基づく内容は、読み進める中で自然と心が引き込まれてしまいます。
著者である中尉が、偶然により奇跡的に敗北寸前のアフリカ戦線から離脱した後、ヨーロッパ大陸のある会合で、元帥となったロンメルと再会しますが、その際、ロンメルの方から中尉に近づき、親しく会話をしている姿に、居合わせた高級将校が驚いた……という場面でこの本は終わりを迎えます。
88ミリ砲を巡る逸話
WWIIの逸話の一つである、88ミリ砲で戦車を破壊したことについて、捕虜となった英軍兵士が「高射砲で戦車を撃つのは卑怯ですな」と言ったことに対し、DAKの砲兵が「だったら、高射砲でしか撃破できない戦車で押しかけてくるあんたらは、もっと卑怯ということになるな」と答えたという話。
その元ネタというか出展となったのが、このシュミット中尉の著書だったりします。司令部幕僚として、捕虜の尋問とかにも関わる機会があった中尉だからこそ、知り得た名エピソードだとも思いました。
絶版の名著
このシュミット中尉による伝記本、角川文庫から1971年に発売されたのですが、現在は既に絶版となっており、古本屋での価格を見ると、1,000円以上の値段がつけられていたりします。が、独軍側からの視点、しかも、副官としてロンメルと共に行動した(英軍から鹵獲した指揮装甲車「マンモス」を戦闘中に修理もした)将校からの視点ということで、戦記としてこのまま無くなってしまうと言うのは惜しいと思ったりもしています。
ちなみに、私は小学生高学年か中学生の頃(1970年代後半)にこの文庫本を購入し、しばらくは手元にあったのですが、何度か引っ越しをするうちに無くしてしまい、今でも無くしたことに悔いが残っていたりします。
もし、ロンメル将軍のファンの方でしたら、一度は読んで欲しい伝記本だと思っています。
(C)ロンメル将軍 副官が見た「砂漠の狐」 ハインツ・ヴェルナー・シュミット/清水 政二/大木 毅 角川新書
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